第47話「みんなで食べる平和の食卓」
異世界キッチンカー生活、気持ち47日目の朝。
和平条約締結の翌朝、街には今までにない穏やかな空気が流れていた。
魔族の兵士たちと人間の住民が、あちこちで自然に挨拶を交わしている光景が見られる。
『(昨夜の食事会の効果は想像以上だな)』
俺は朝食の準備をしながら、街の様子を眺めていた。
「栄養キッチンカーさん、おはようございます!」
ミラが元気よく挨拶してくる。
「今朝は魔族の皆さんと一緒に朝食を食べる約束をしたんです」
『それは素晴らしいね』
「リリスさんが、魔族の伝統的な朝食を教えてくれるって」
その時、リリスが数名の魔族と一緒にやってきた。
「栄養キッチンカー様、おはようございます」
「ミラさんとお約束した魔族の朝食、一緒に作らせていただけませんか?」
『もちろんです!ぜひ教えてください』
俺は嬉しくなった。
『こういう文化交流が、本当の平和につながるんですよね』
リリスが持参した食材を見せてくれた。
「これがドラゴンフルーツの一種、『モーニングベリー』です」
「魔族は昔から、これを朝に食べる習慣があります」
『へえ、どんな栄養があるんですか?』
「ビタミンCが豊富で、一日の活力の源になります」
「それに、魔力回復効果もあるんです」
『素晴らしい!人間の朝食と組み合わせたら、最高の栄養バランスになりそうです』
俺は興奮して調理を始めた。
『人間の卵料理に、モーニングベリーを加えてみましょう』
『それと、人間のパンに魔族のハーブを練り込んで...』
30分後、人間と魔族の食文化を融合させた朝食セットが完成した。
「うわあ、きれい!」
ミラが目を輝かせている。
「こんな色とりどりの朝食、初めて見ます」
魔族の年配男性も感心している。
「人間の調理技術と我々の食材が合わさると、こんなに美しくなるのか」
『みんなで一緒に食べましょう』
俺が提案すると、自然と大きな輪ができた。
人間も魔族も関係なく、同じ食卓を囲んでいる。
「いただきます」
「いただきます」
全員が手を合わせて、一緒に食事を始めた。
その瞬間、俺は歴史が動いたのを感じた。
『(これが、本当の歴史的瞬間なんだ)』
『(人間と魔族が、普通に一緒に食事をしている)』
「美味しい!」
魔族の若い兵士が笑顔で言う。
「人間の卵料理、こんなにふわふわなんですね」
「モーニングベリーの甘酸っぱさとよく合います」
人間の住民も魔族の食材に感動している。
「この紫色のパン、独特の風味があって美味しい」
「魔族のハーブって、こんなに香り高いんですね」
食事が進むにつれて、会話もどんどん弾んでいく。
「お子さんはいらっしゃるんですか?」
「はい、5歳の娘がいます。人間の子供とも仲良くなれたらいいなと」
「うちにも同じくらいの息子がいます。今度一緒に遊ばせましょう」
『(素晴らしい。言葉の壁も種族の壁も、食事の前では意味がない)』
その時、グロムが俺に声をかけてきた。
「栄養キッチンカー、君のおかげで私の人生が変わった」
『グロム、どういう意味ですか?』
「戦争前の私は、魔族以外は信用していなかった」
「人間は敵だと思い込んでいた」
「でも君の料理を食べて、人間の温かさを知った」
グロムが真剣な顔で続ける。
「食事には、種族の違いなんて関係ないんだな」
「お腹が空けば誰でも同じ。美味しいものを食べれば誰でも笑顔になる」
『その通りです』
俺は嬉しくなった。
『食事は、すべての生き物をつなぐ共通言語なんです』
エリーが魔族の女性と楽しそうに話している。
「魔法の使い方、とても興味深いです」
「人間の魔法は理論的で、魔族の魔法は感覚的なんですね」
「そうですね。でも、どちらも『人を幸せにしたい』という気持ちは同じです」
ガルドも魔族の戦士と意気投合していた。
「筋トレの方法を教えてくれよ」
「魔族の体力トレーニングって、どんなことするんだ?」
「喜んで!でも栄養補給も大切だと、栄養キッチンカーに教わりました」
アルフレッドは魔族の料理人から調理法を学んでいる。
「この香辛料の使い方、すごく勉強になります」
「師匠の料理にも取り入れたいです」
「どんどん学んでください。私たちも人間の技術を学びたいです」
食事が終わる頃、街の他の住民や魔族たちも集まってきていた。
気がつくと、街の中央広場は人間と魔族で溢れていた。
「私たちも混ぜてください」
「魔族の料理を食べてみたいです」
「人間の皆さんの料理も教えてください」
『よし、みんなで大きな食事会をしましょう!』
俺は大声で提案した。
『人間も魔族も関係なく、みんなで一緒に料理を作って食べましょう!』
「やったー!」
「素晴らしいアイデアだ!」
大きな歓声が上がった。
午後から、街全体を巻き込んだ大食事会が始まった。
人間が魔族に人間料理を教え、魔族が人間に魔族料理を教える。
子供たちも一緒になって、楽しそうに調理している。
「人間の子供って、こんなに可愛いんですね」
「魔族の子供も、とても愛らしいです」
子供たちが種族を超えて仲良く遊んでいる。
『(これが理想の世界だ)』
俺は感動で胸がいっぱいになった。
『(誰もが笑顔で、美味しい食事を分け合っている)』
魔王ザルガディンも参加して、自ら料理を振る舞っている。
「魔王様が料理をしてくださるなんて」
「光栄です」
「いや、私も楽しんでいる」
魔王が笑顔で答える。
「料理を作ることの喜びを、栄養キッチンカー君に教わった」
レオンギルドマスターも魔族の料理に挑戦している。
「この薬草の扱い方が難しいな」
「コツがあるんです。こう、優しく...」
「おお、なるほど!」
夕方になって、巨大な食卓が完成した。
人間料理と魔族料理が美しく並べられ、何百人もの人が同じテーブルを囲んでいる。
『皆さん、今日という日を記念して、乾杯しましょう』
俺が音頭を取った。
『平和と友情に、乾杯!』
「かんぱーい!」
大合唱が街に響く。
その後の食事は、まさに祭りのような盛り上がりだった。
あちこちで笑い声が響き、人間と魔族が肩を並べて食事を楽しんでいる。
「この料理、レシピを教えてください」
「もちろん!今度一緒に作りましょう」
「魔族の皆さんと友達になれて嬉しいです」
「私たちも、人間の皆さんと仲良くできて幸せです」
食事の最後に、街の子供たちが歌を歌ってくれた。
人間と魔族の子供が手をつないで歌う、平和の歌。
『みんな違って、みんないい』
『お腹が空けば、みんな同じ』
『美味しいご飯で、みんな笑顔』
『平和な世界を、みんなで作ろう』
大人たちも涙を流しながら聞いている。
俺も感動で声が出なかった。
『(これだ。これが俺の求めていた世界だ)』
『(料理の力で、みんなが幸せになれる世界)』
夜になって、食事会はお開きとなった。
でも誰も帰ろうとしない。
名残惜しそうに、いつまでも語り合っている。
「明日も一緒に食事しましょう」
「ぜひ!楽しみにしています」
「今度は私の家にも遊びに来てください」
「喜んで!」
魔王が俺のところにやってきた。
「栄養キッチンカー君、今日という日を忘れることはないだろう」
「君の料理が、真の平和をもたらした」
『みんなの心が一つになった瞬間でしたね』
「そうだ。これこそが本当の平和だ」
魔王が感慨深げに言う。
「条約書に書かれた平和ではなく、心から生まれた平和だ」
『食事の力って、本当にすごいですね』
「君が教えてくれたことだ」
その時、ミラたちも駆け寄ってきた。
「栄養キッチンカーさん、今日は最高の一日でした」
「私、一生忘れません」
「俺も感動した」
ガルドも興奮している。
「みんなが笑顔で食事してる姿、最高だったな」
「これからもずっと、こんな平和が続けばいいですわ」
エリーも嬉しそうだ。
「師匠のおかげで、歴史的瞬間に立ち会えました」
アルフレッドも感謝している。
『みんな、ありがとう』
俺は仲間たちを見回した。
『今日の平和な食卓は、みんなで作り上げたものです』
『これからも、こんな温かい食事を続けていきましょう』
星空の下、人間と魔族が一緒に後片付けをしている光景を見ながら、俺は思った。
『(料理人として、これ以上の幸せはない)』
『(みんなの笑顔が、俺の最高の報酬だ)』
明日からはいよいよ魔族領での本格的な復興作業が始まる。
でも今日の食事会で生まれた絆があれば、きっとうまくいく。
平和の食卓で結ばれた友情は、どんな困難も乗り越えられるから。