第45話「栄養学で魔族の領土問題を解決します」
異世界キッチンカー生活、気持ち45日目の朝。
魔族救済プロジェクトの実行日がついにやってきた。
俺は夜通し作業して、魔族領土改良のための詳細なプランを完成させていた。
『(これで本当に魔族を救えるのか...?)』
不安もあったが、栄養学への確信は揺るがなかった。
市庁舎の大会議室には、人間と魔族の代表者が集まっている。
『皆さん、お忙しい中ありがとうございます』
俺は準備した資料を広げた。
『本日は、魔族領の根本的解決策についてご提案させていただきます』
魔王ザルガディンが身を乗り出す。
「頼む、栄養キッチンカー君。君が我々の最後の希望だ」
『まず、問題を整理しましょう』
俺はホワイトボードに図を描き始めた。
『【現在の魔族領の状況】』
『1. 土壌汚染による作物育成不可』
『2. 地下水の有害物質による二次汚染』
『3. 生態系の破綻による食料連鎖の崩壊』
「すべてが連鎖している...」
魔王が唸る。
「だからこそ、部分的な対処では解決できなかったのか」
『その通りです。だからこそ、根本的かつ総合的なアプローチが必要なんです』
俺は次の図を描いた。
『【栄養学的土壌改良プロジェクト】』
『第1段階:緊急土壌浄化(1-2ヶ月)』
「まずは汚染物質の除去から始めます」
バジル博士が補足する。
「魔族領の土壌サンプルを詳細分析したところ、主な汚染物質は重金属じゃった」
「銅、鉛、そして未知の魔法鉱物による複合汚染じゃ」
『この汚染物質を、特殊な植物を使って除去します』
「植物で?」
魔王が興味深そうに尋ねる。
『はい。ファイトレメディエーションという技術です』
『特定の植物が土壌から有害物質を吸収し、無害化する能力を利用します』
俺は具体的な植物の絵を描いた。
『この世界には、魔法植物のブルーフィルターという種があります』
『この植物は重金属を体内に蓄積し、魔法で結晶化して無害化できます』
エリーが驚く。
「まあ!そんな植物があるんですの?」
『はい。そして魔族の皆さんなら、魔法でこの植物の成長を促進できるはずです』
魔王の側近が興奮する。
「確かに、成長促進魔法なら我々の得意分野です!」
「これなら短期間で浄化が可能かもしれません」
『第2段階:栄養豊富な土壌作り(2-3ヶ月)』
俺は次の説明に移った。
『浄化が完了したら、今度は土壌に栄養を与えます』
『ここで使うのが、『栄養学的堆肥』です』
「栄養学的堆肥?」
『通常の堆肥に、栄養学の知識を応用したものです』
俺は詳しく説明した。
『人間領土の食品廃棄物を、栄養バランスを考えて配合し発酵させます』
『例えば、窒素豊富な野菜くず、リン豊富な骨粉、カリウム豊富な果物の皮...』
『これらを最適な比率で混合し、微生物の力で発酵させるんです』
バジル博士が膝を打つ。
「素晴らしい!従来の堆肥作りに栄養学を応用するとは!」
「これなら確実に栄養価の高い土壌が作れるじゃろう」
『第3段階:魔法農業システムの構築(3-4ヶ月)』
「ここからが本格的な農業革命です」
俺は魔王を見つめた。
『魔族の魔法能力と、栄養学を組み合わせた新しい農業を提案します』
「魔法農業...興味深い」
『具体的には、成長促進魔法を栄養学的に最適化します』
俺は図表を示した。
『植物の成長段階に応じて、必要な栄養素が変わります』
『発芽期は窒素とリン、成長期はカリウムとマグネシウム...』
『魔法でこれらの栄養素の吸収を段階的に促進するんです』
魔族の農業担当者が目を輝かせる。
「なるほど!闇雲に成長促進するのではなく、栄養学に基づいて...」
「これなら従来の3倍の収穫量も夢ではありませんね」
『第4段階:栄養価特化作物の導入(4-6ヶ月)』
「最後に、栄養価の高い作物を選定して栽培します」
俺は作物のリストを見せた。
『【推奨作物リスト】』
『・鉄分豊富なマジックほうれん草』
『・タンパク質豊富な魔法豆』
『・ビタミン豊富なレインボーフルーツ』
『・炭水化物源としての栄養米』
「これらの作物は、少ない面積で最大の栄養価を提供できます」
魔王が感動している。
「なんという...完璧な計画だ」
「これなら確実に食糧問題が解決できる」
『でも、これだけでは不十分です』
俺は真剣な顔で続けた。
『持続可能性も考慮しなければなりません』
『【持続可能農業システム】』
『・輪作による土壌維持』
『・有機農法による環境保護』
『・種子保存による品種維持』
『・知識継承システムの構築』
「知識継承?」
『はい。この技術を魔族の農民の皆さんに教えて、代々受け継いでもらうんです』
『そうすれば、二度と食糧危機に陥ることはありません』
リリスが涙を流している。
「素晴らしい...これで故郷の子供たちを救えるんですね」
『必ず救います。そして、もっと豊かな土地にしてみせます』
その時、ガルドが手を挙げた。
「俺たちも手伝わせてくれ」
「畑仕事なら得意だ」
ミラも続ける。
「私も農業を学びたいです」
「将来、冒険者を引退したら農業をやってみたくて」
エリーも提案する。
「魔法での成長促進、私もお手伝いできますわ」
アルフレッドも興奮している。
「師匠、料理用ハーブの栽培も計画に入れませんか?」
「新鮮なハーブがあれば、もっと美味しい料理が作れます」
『みんな...ありがとう』
俺は胸が熱くなった。
『みんなで協力すれば、必ず成功します』
魔王が立ち上がった。
「決定だ!この計画を正式に承認する」
「栄養キッチンカー君、君を魔族領土改良プロジェクトの総責任者に任命する」
『光栄です!』
俺も立ち上がった。
『必ず魔族の皆さんに豊かな食生活を取り戻してみせます』
市長も協力を申し出る。
「人間領土の食品廃棄物は全て提供します」
「それに、農業技術者も派遣しましょう」
レオンギルドマスターも続く。
「冒険者ギルドとしても全面協力します」
「危険地帯での作業なら、冒険者が適任です」
『本当にありがとうございます』
会議が終わり、いよいよ実行段階に移ることになった。
夕方、俺は一人で星空を見上げていた。
『(ついにここまで来たんだな...)』
『(最初はただの栄養失調の少女を助けただけだったのに)』
『(今では種族全体の食糧問題を解決しようとしている)』
ミラが隣にやってきた。
「栄養キッチンカーさん、何を考えているんですか?」
『これまでの道のりを振り返ってたんだ』
『君との出会いから始まって、今ここにいる』
「私も同じことを考えていました」
ミラが微笑む。
「あの時、栄養キッチンカーさんに出会えて本当に良かった」
「私の人生が変わりました」
『俺の方こそ、君たちに出会えて人生が変わった』
そこにガルド、エリー、アルフレッドも加わった。
「明日からいよいよ本格始動だな」
「楽しみですわ」
「師匠と一緒なら、どんな困難も乗り越えられます」
『ありがとう、みんな』
俺は仲間たちを見回した。
『明日から、史上最大の農業革命を起こそう』
『栄養学の力で、真の平和を実現するんだ』
翌朝、魔族領に向けて出発する準備が整った。
大型馬車に農業資材、栄養補給食、そして希望を積んで。
ついに、栄養学による領土改良プロジェクトが始まる。