表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/50

第4話「お嬢様魔法使いの偏食が深刻すぎる」


 異世界キッチンカー生活、4日目の午後。


 今日もガルドが昼食を食べに来てくれた。「筋肉強化食材」作戦が功を奏して、少しずつだが野菜も食べるようになってきている。


「おい、キッチンカー!今日の筋肉メニューは何だ?」

「昨日の夜はぐっすり眠れたぞ!やっぱり栄養バランスって大事なんだな!」


『(おお、ガルドさんも効果を実感してくれてる!)』


 そんな俺の前に、優雅な足音が近づいてきた。振り返ると、まるでお姫様のような美しい少女が立っていた。


 金色の巻き毛を丁寧にセットし、高級そうな魔法使いローブを身にまとっている。手には宝石で飾られた魔法杖を持ち、いかにも「お嬢様」という雰囲気だ。


「あら、こちらが噂の栄養キッチンカーですのね」


 上品な口調で話しかけてくる。でも、よく見ると顔色が悪い。それに、なんだか魔力が不安定な感じがする。


「私、エリー・ライトヒールと申しますの。回復魔法を専門としておりますのよ」


『(エリーちゃんか。確かに美人だけど...なんか体調悪そうだな)』


「こちらで、体に良いお食事がいただけると伺いましたの」


『もちろんです!どのようなお食事をお望みでしょうか?』


「そうですわね...甘くておいしいものがよろしいですわ」


『(甘いもの?まあ、デザートも栄養バランスの一部だし...)』


『甘いものがお好みでしたら、栄養価の高いフルーツを使ったデザートはいかがでしょう?』


「まあ!フルーツですの!大好きですわ!」


 エリーの目がキラキラと輝く。


「でも、できればケーキやクッキーのようなものはありませんの?」


『(ケーキやクッキー?まあ、たまにならいいけど...)』


『申し訳ございませんが、当店は栄養バランスを重視しておりまして...』


「あら、そうですの。では、普段はどのようなお食事をされているか、お聞かせいただけますか?」


 これは俺が聞きたかった質問だ。


「普段のお食事ですの?」


 エリーが少し恥ずかしそうに頬を染める。


「朝食はケーキとミルクティー、昼食はクッキーとココア、夕食はパフェとカフェラテですの」


『(...え?)』


 俺は一瞬、耳を疑った。


「時々、チョコレートやキャンディーも食べますのよ」


『(ちょっと待て!それ全部スイーツじゃないか!)』


「野菜やお肉は?」


『(ガルドに続いて、今度は逆方向の偏食か...)』


「野菜?」


 エリーが顔をしかめる。


「野菜なんて苦くて青臭くて、とても食べられませんわ!」

「お肉も生臭くて硬くて、お嬢様の口には合いませんの!」


『(うわあ...これはガルド以上に深刻かも)』


 ガルドが興味深そうに話を聞いている。


「おい、エリー。俺と真逆だな。俺は甘いものが苦手だ」

「でも、野菜も肉も食わないって、何食って生きてるんだ?」


「失礼ですわね!スイーツは立派なお食事ですのよ!」

「ケーキには卵も小麦粉も入ってますし、ミルクティーには牛乳も入ってますわ!」


『(確かに栄養素は含まれてるけど...糖分過多すぎる!)』


 俺は急いで栄養学の知識を整理した。


『(糖分の過剰摂取は血糖値の乱高下を引き起こす。それが魔力の不安定につながってる可能性が高い)』


『エリーさん、最近魔法の調子はいかがですか?』


「あら、よくご存知ですわね」


 エリーがため息をつく。


「実は...最近魔力が不安定で、回復魔法がうまくかからないんですの」

「師匠からは『集中力が足りない』と叱られてばかりですわ」


『(やっぱりか)』


「それから、すぐに疲れてしまうし、イライラすることも多くて...」


『(典型的な血糖値スパイクの症状だ)』


『エリーさん、失礼ですが、魔法を使った後に強い眠気や脱力感はありませんか?』


「まあ!なぜそれを!?」


 エリーが驚いた顔をする。


「確かに、魔法を使った後はとても疲れて、甘いものが無性に食べたくなりますの」


『(完全にスイーツ依存症だ)』


「そうそう、エリーはいつもケーキ食べてるよな」

「ダンジョンにもケーキ持参するし」


 ガルドが呆れたように言う。


「当然ですわ!甘いものがないと力が出ませんもの!」


『(逆だ、逆!甘いものが魔力を不安定にしてるんだ!)』


 俺は慎重に説明を始めた。


『エリーさん、糖分の過剰摂取は血糖値を急激に上下させます』


「血糖値?」


『血液中の糖分の濃度です。これが不安定になると、集中力の低下や疲労感、イライラの原因になります』


「まあ...それって...」


『さらに、魔力も血糖値と密接な関係があります。血糖値が不安定だと、魔力も安定しません』


 エリーの顔が青くなった。


「では...私の魔力不安定は...」


『スイーツ中心の食生活が原因の可能性が高いです』


「そんな...でも、甘いものを食べないと力が出ませんの!」


『それは一時的なものです。本当に安定した魔力を得るには、バランスの良い食事が必要です』


 エリーがショックを受けている。


「でも...野菜もお肉も嫌いですの...」


『(うーん、これは手強いな。ガルドとは違うアプローチが必要だ)』


 俺は作戦を練った。


『(エリーちゃんはお嬢様だから、見た目の美しさにこだわりがありそう。それを利用しよう)』


『エリーさん、お肌の調子はいかがですか?』


「お肌?」


 エリーが慌てて手鏡を取り出す。


「あら...確かに最近、お肌の調子が...」


『糖分の過剰摂取は肌荒れの原因にもなります。逆に、適切な栄養を摂れば、お肌はもっと美しくなります』


「美しく!?」


 エリーの目が輝いた。


『はい。野菜に含まれるビタミンCはコラーゲンの生成を促進し、お肌をつやつやにします』


「まあ!野菜にそんな効果が!?」


『さらに、良質なタンパク質は髪の毛をサラサラにし、魔力の安定にも役立ちます』


「髪の毛もサラサラに...」


 エリーが自分の金髪を触る。


『(よし、美容効果で攻めよう!)』


『そこで提案があります。『美魔女専用ビューティーセット』はいかがでしょう?』


「美魔女専用ビューティーセット!?」


「なんだそれ、すげー名前だな」


 ガルドが笑う。


『野菜嫌いの方でも食べられるよう、特別に調理したメニューです』


「でも...やっぱり野菜は...」


『安心してください。見た目も味も、まるでスイーツのように仕上げます』


「スイーツのように!?」


『(よし、スイーツ風野菜料理だ!)』


 俺は調理を開始した。


 まずは人参。これを薄くスライスして、はちみつでソテー。見た目はオレンジ色の美しいチップスだ。


 次にカボチャ。これをペースト状にして、カスタードクリーム風に仕上げる。


 ブロッコリーは小さく切って、チーズソースでコーティング。緑の宝石のような見た目に。


 最後に、鶏胸肉を細かく刻んで、クリームソースで和える。これをケーキのように盛り付ける。


『完成です!美魔女専用ビューティーセット!』


「まあ!美しい!まるで宝石箱のようですわ!」


 エリーが感動している。


「これが野菜と肉?信じられませんわ!」


『まずは、この『美肌オレンジチップス』からお試しください』


「美肌オレンジチップス...」


 エリーが恐る恐る人参チップスを口に運ぶ。


「あら!甘くておいしい!これが人参ですの!?」


『はちみつの自然な甘さで、人参本来の甘みを引き出しました』


「続いて、『魔力安定カスタード』をどうぞ」


「まあ、本当にカスタードのようですわ!」


 カボチャペーストを食べたエリーの目が見開かれる。


「甘くてクリーミー!これがカボチャなんて信じられませんわ!」


『最後に『美髪プロテインケーキ』です』


「これがお肉...?」


 鶏肉のクリーム和えを食べて、エリーが驚く。


「柔らかくて、まったく生臭くありませんわ!」


『(よし、成功だ!)』


 エリーは最後まで完食した。


「ごちそうさまでした!本当においしくて、満足感もありますわ!」


『いかがでしたか?体調の変化は?』


「あら...確かに、いつもより落ち着いている気がしますわ」

「魔力も安定しているような...」


 エリーが試しに小さな回復魔法を使ってみる。


「まあ!いつもより魔法がかかりやすい!」


『(効果が出てる!)』


「でも...これで本当に美しくなれるんですの?」


『はい。1週間続けていただければ、必ず効果を実感できます』


「1週間...」


 エリーが悩んでいる。


「でも、やっぱりケーキも食べたいですわ...」


『(完全にやめさせるのは無理だな。段階的に減らしていこう)』


『もちろん、たまにのスイーツは問題ありません。大切なのはバランスです』


「バランス...」


『1日3食のうち、1食をこのビューティーセットに変えてみませんか?』


「1食だけなら...」


 エリーが考え込む。


「美しくなれるなら...やってみますわ!」


『ありがとうございます!きっと素晴らしい変化を実感していただけます!』


 こうして、エリーの野菜嫌い克服プロジェクトが始まった。


 しかし、長年の偏食習慣を変えるのは容易ではない。特にエリーのスイーツ依存は、ガルドの肉偏食以上に深刻だ。


『(でも、諦めない。エリーちゃんにも本当の健康を手に入れてもらうんだ)』


 夕方、エリーが戻ってきた。


「こんばんは!お約束通り、夕食もお願いしますわ!」


『体調はいかがですか?』


「とても良いですわ!午後の魔法練習も、いつもより集中できました!」


『(おお、早速効果が!)』


「でも...やっぱり少しケーキも食べたくて...」


『(まだスイーツへの依存が強いな。でも焦らず、少しずつだ)』


『今日は『美肌デザートセット』はいかがでしょう?』


「美肌デザートセット?」


『フルーツをメインにした、体に優しいデザートです』


「まあ!それなら安心ですわね!」


 俺のエリー改造計画は、まだ始まったばかり。果たして、このお嬢様魔法使いを真の美魔女にできるのだろうか?


『(絶対に成功させてみせる!エリーちゃんの魔力も美貌も、最高レベルまで引き上げるんだ!)』


 今度はガルドとは正反対の戦いが始まった。甘いもの依存症のお嬢様を、どう説得していくか...。


 俺の栄養改善大作戦は、ますます複雑になっていく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ