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第39話「戦場でも栄養補給は欠かせません」


 異世界キッチンカー生活、気持ち39日目の深夜。


 戦場に響く俺の声に、人間も魔族も一瞬動きを止めた。


『みんな一緒に食事をしませんか!』


 しかし、魔王軍の隊長格らしき大柄な魔族が怒鳴った。


「馬鹿な!戦争中に何を言っている!」


 隊長が部下たちに命令する。


「全軍突撃!人間どもを殲滅せよ!」


『(やっぱりそう簡単にはいかないか...)』


 戦闘が再開された。しかし俺は諦めなかった。


『なら俺は俺のやり方で戦う!』


 俺は最前線に向かって車体を加速させた。


「栄養キッチンカー!危険だ!」


 レオンが叫ぶが、俺は止まらない。


『戦場移動補給作戦、開始!』


 俺は車体についているスピーカーで大音量で宣言した。


『戦闘中の皆様!栄養補給はいかがですか!』


『疲労回復ドリンク!スタミナ回復おにぎり!』


『戦いながらでも栄養補給!』


「何だあいつ!?」


 魔族兵士が困惑する。


 俺は剣を振り回す冒険者の横をすり抜けながら、エナジーバーを投げ渡した。


「おお!ありがとう!」


 冒険者が戦いながらエナジーバーを齧る。


「うまい!力が湧いてくる!」


 魔法を唱えていたエリーにも栄養ドリンクを差し出す。


『エリー!魔力回復ドリンクです!』


「ありがとうございます!」


 エリーがごくごくと飲み干す。


「魔力が完全回復しました!」


 俺は戦場を縦横無尽に駆け回りながら、栄養補給品を配布し続けた。


『ガルド!プロテインドリンク!』


「サンキュー!」


 ガルドが魔族と剣を交えながら受け取る。


『ミラ!集中力アップサプリ!』


「助かります!」


 ミラが弓を射ながらサプリを口に放り込む。


 俺のサポートを受けた冒険者たちの動きが明らかに良くなってきた。


「すげえ!いつもより動ける!」


「疲れ知らずだ!」


「栄養キッチンカー最高!」


 一方、魔族兵士たちは困惑していた。


「あの人間、何をしているんだ?」


「戦場で料理を配ってる...?」


「意味がわからん」


 その時、俺は魔族兵士の一人が疲労で膝をついているのを発見した。


『(あの魔族、完全にバテてる)』


 俺は迷わずその魔族に近づいた。


『お疲れ様です!栄養ドリンクどうですか?』


「え!?敵なのに!?」


「隊長に見つかったら怒られる!」


『大丈夫、バレませんよ。ほら』


 俺はこっそりと栄養ドリンクを差し出した。


 魔族兵士が恐る恐る受け取る。


「これ...本当にくれるのか?」


『もちろんです。疲れてる人には栄養補給が一番』


 魔族兵士がドリンクを飲むと、目を見開いた。


「うまい!そして体に力が...!」


「本当に回復した!」


『でしょう?栄養学の力です』


 その様子を見ていた他の魔族兵士たちも興味深そうに近づいてくる。


「俺にもくれよ」


「俺も疲れてるんだ」


『はい、みなさんどうぞ!』


 俺は魔族兵士たちにも栄養補給品を配り始めた。


 すると不思議なことが起こった。


 栄養補給を受けた魔族兵士たちが、戦闘への意欲を失い始めたのだ。


「なんか...戦う気が失せてきた」


「この人、いい人じゃないか」


「こんないい人を攻撃するなんて...」


『(おお!栄養補給で心も満たされてる!)』


 俺は作戦を変更した。


『皆さん!戦うより一緒に食事しませんか!』


『特製戦場ランチボックス、できたてです!』


 俺は急いで簡易ランチボックスを大量生産し始めた。


 栄養バランス抜群のおにぎり、野菜炒め、唐揚げ、味噌汁の豪華セット。


「うわあ!いい匂い!」


 魔族兵士たちの鼻がひくひくと動く。


「お腹空いてたんだ...」


「戦争前から何も食べてない...」


『はい、どうぞ!敵味方関係なく、お腹が空いた人には食事を!』


 俺がランチボックスを配ると、魔族兵士たちが武器を置いて食べ始めた。


「うまい!こんなうまい飯、久しぶりだ!」


「野菜も入ってる!栄養バランス最高!」


「この人間、すげえ料理人だ!」


 その光景を見て、人間の冒険者たちも戦闘をやめて近づいてきた。


「俺たちも食べていいか?」


「戦闘で腹減った」


『もちろんです!みんなで一緒に食べましょう!』


 気がつくと、戦場の一角が即席の食堂になっていた。


 人間と魔族が隣り合って食事している異様な光景。


「おい、この唐揚げうまいな」


「だろ?この人の料理は最高なんだ」


「マジかよ、俺も食いたい」


「ほら、分けてやるよ」


 人間と魔族が料理を分け合っている。


『(これだ!これが俺の求めていた光景だ!)』


 しかし、魔王軍の隊長が激怒してやってきた。


「貴様ら何をしている!敵と飯を食うとは何事だ!」


 隊長が剣を抜く。


「その人間を今すぐ斬り捨てろ!」


 しかし、魔族兵士たちは動かなかった。


「隊長...この人は敵じゃありません」


「こんなにうまい飯を作ってくれる人を攻撃できません」


「そうです!この人は平和の使者です!」


「貴様ら!洗脳されたのか!」


 隊長が混乱する。


 その時、俺は隊長にも食事を差し出した。


『隊長さんもお疲れでしょう。特製隊長弁当、いかがですか?』


「ふざけるな!俺が人間の料理など...」


 しかし隊長の腹が大きくグーと鳴った。


「...」


『無理しなくていいですよ。お腹が空いてるのは悪いことじゃありません』


 俺は特別豪華な弁当を差し出した。


 上質な魔獣肉のステーキ、新鮮野菜のサラダ、ふっくらご飯、特製スープ。


「こ、これは...」


 隊長の目が料理に釘付けになる。


「いい匂いが...」


『どうぞ、遠慮なく』


 隊長が恐る恐る箸を取る。


 そして一口食べた瞬間...


「!!!」


 隊長の目に涙が浮かんだ。


「うまい...こんなうまい飯は生まれて初めてだ...」


 隊長がむしゃむしゃと食べ始める。


「母上の手料理を思い出す...」


『お母様の手料理ですか?』


「ああ...幼い頃、母上がよく料理を作ってくれた」


「でも戦争で故郷を離れてから、こんな温かい食事は...」


 隊長が号泣し始めた。


「俺は何をしているんだ...」


「故郷の平和を守るために戦争を始めたのに...」


「こんな優しい人たちを攻撃するなんて...」


 隊長が武器を地面に落とした。


「全軍に告ぐ!戦闘中止だ!」


「この人は敵ではない!平和の使者だ!」


 魔王軍全体に戦闘中止の命令が伝わっていく。


 戦場は完全に食事会場に変わった。


 人間と魔族が肩を並べて食事を楽しんでいる。


「お前の故郷はどこだ?」


「北の山脈だよ。お前は?」


「俺は南の森出身だ」


「へえ、いいところだな」


『(やった!料理の力で戦争を止めることができた!)』


 レオンが感動して俺に近づいてきた。


「栄養キッチンカー君...君は奇跡を起こしたな」


『いえ、ただ美味しい料理を作っただけです』


「いや、これは奇跡だ。料理で戦争を止めるなんて...」


 アルフレッドも興奮している。


「師匠!これこそが料理の真の力ですね!」


『そうだな。料理は人の心を繋げる力がある』


 ミラたちも駆け寄ってきた。


「栄養キッチンカーさん、すごいです!」


「まさか本当に戦争を止めちゃうなんて」


「これで平和になりますね」


 俺も嬉しかった。


『みんなの笑顔が見られて良かった』


 でも、この平和は本当に続くのだろうか?


 魔王本人はまだ姿を現していない。


 そして遠くから、新たな太鼓の音が聞こえてきた...


 ドンドンドン...


『(まだ終わりじゃないのか...?)』


 俺は不安を感じながらも、目の前の平和な食事風景を大切にした。


 人間と魔族が一緒に食事をする。


 これこそが俺の目指していた世界だった。


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