第38話「逃げずに戦います、料理で」
異世界キッチンカー生活、気持ち38日目の夜。
魔王軍の太鼓の音が街全体に響いている。
ドンドンドン...ドンドンドン...
『(ついに来てしまったか...)』
俺は仲間たちに囲まれながら、街の中央広場で最後の営業準備をしていた。
魔王軍の松明の灯りが街の入り口に見え始めている。推定まで1時間というところだ。
「栄養キッチンカーさん、本当に大丈夫ですか?」
ミラが不安そうに尋ねる。
『大丈夫だ。今こそ俺の本当の使命を果たす時だ』
俺は決意を新たにしていた。
『料理人として、最後まで戦う人たちを支える』
その時、レオンギルドマスターが冒険者たちを引き連れてやってきた。
「栄養キッチンカー君、まだここにいたのか」
『ギルドマスター!避難されなかったんですね』
「この街を守るのが俺の使命だからな」
レオンの後ろには、約200名の冒険者たちが続いている。
「みんな、最後の戦いに備えて栄養補給をしたいそうだ」
『もちろんです!全員分、準備させていただきます!』
俺は急いで調理を開始した。
『(200人分...これまでで最大の注文だ)』
でも不思議と慌てることはなかった。これまでの経験が活かされている。
「アルフレッド、ガルド、みんな手伝ってくれ!」
「はい、師匠!」
「任せろ!」
仲間たちが一斉に動き出す。
俺は戦闘に最適な栄養バランスを考えながら、メニューを決定した。
『戦闘前特別メニュー:』
『・エネルギー補給おにぎり(炭水化物重視)』
『・スタミナ回復スープ(ビタミンB群豊富)』
『・集中力アップサラダ(オメガ3脂肪酸配合)』
『・筋力維持プロテインドリンク』
「すげー、こんな時でも栄養バランス考えてくれるのか」
ガルドが感心する。
「戦闘において栄養補給は生死を分ける重要な要素です」
俺は真剣に説明する。
「適切な栄養摂取により、持久力20%向上、集中力15%向上、反射神経10%向上が期待できます」
「マジかよ!それなら絶対食う!」
冒険者たちが俄然やる気になる。
30分間、俺たちは必死に料理を作り続けた。
全員が協力してくれたおかげで、200人分の戦闘食が完成。
「みんな、しっかり食べて力をつけてくれ!」
冒険者たちが次々と料理を受け取っていく。
「うまい!体に力が湧いてくる!」
「これなら魔王軍とも戦える!」
「栄養キッチンカー、ありがとう!」
みんなの元気な声を聞いて、俺も勇気が湧いてきた。
『(俺にできることは、みんなに最高の栄養を提供することだ)』
その時、街の入り口から角笛の音が響いた。
ブオオオーー!
「魔王軍、街に到達!全軍戦闘準備!」
伝令兵の叫び声が聞こえる。
「よし、みんな行くぞ!」
レオンが剣を抜く。
「栄養キッチンカーのおかげで、最高のコンディションだ!」
冒険者たちが戦闘隊形を組んで前線へ向かっていく。
「栄養キッチンカーさん、ありがとうございました!」
ミラが俺に深々と頭を下げる。
『ミラ、君も戦うのか?』
「はい!この街を、そして栄養キッチンカーさんを守るために!」
『無理はするなよ。君の成長を見守ってきた俺としては心配だ』
「大丈夫です。栄養キッチンカーさんの料理で強くなりましたから」
ミラが弓を手に、前線へ向かう。
「俺も行く!」
ガルドも大剣を構える。
「栄養指導のおかげで、前より強くなった!」
『ガルド、頼むから無茶はするなよ』
「わかってる。生きて帰って、また栄養指導を受ける約束だ」
ガルドも前線へ。
「私も回復魔法で支援しますわ」
エリーも杖を握る。
「偏食を治してくれた恩を返したいのです」
『エリー、君は後方支援に回ってくれ』
「わかりました。でも、絶対に栄養キッチンカーさんをお守りします」
エリーは俺の近くに留まってくれることになった。
アルフレッドも料理ナイフを構える。
「師匠、私は最後まで師匠のそばにいます」
『アルフレッド...』
「料理人の誇りにかけて、師匠を守ります」
魔族偵察隊のリンたちも武器を手にする。
「栄養キッチンカーさん、私たちは魔族として戦います」
「同胞に刃を向けることになりますが...」
『無理しなくていい』
「いえ、これは私たちの意志です」
リンが決然と言う。
「戦争よりも『食の絆』の方が大切だと証明したいんです」
エルフ族の女性たちも弓を構える。
「私たちも戦います」
「食を通じて学んだ平和の大切さを守るために」
バルトも商会の護衛を引き連れて現れた。
「栄養キッチンカーさん、商会として最後の協力をします」
『バルト、危険です』
「金儲けよりも大切なものがあることを、あなたに教わりました」
「今度は私が恩返しする番です」
街の向こうから、魔王軍の雄叫びが聞こえてきた。
「ウオオオオォォォ!!!」
地響きと共に、重装備の魔族兵士たちが街に雪崩れ込んできた。
その数、確かに5000を超えている。
『(これは...想像以上の大軍だ)』
でも俺は逃げなかった。
『みんな!俺は最前線で補給活動を続ける!』
俺は車体を戦闘モードに変形させた。
『調理スピード3倍モード、発動!』
体が光に包まれ、調理能力が大幅に向上する。
『戦闘中栄養補給作戦、開始!』
「栄養キッチンカー、何をする気だ!?」
レオンが驚く。
『最前線で戦う人たちに、リアルタイムで栄養補給します!』
『これが俺の戦い方です!』
俺は素早くエナジーバーと栄養ドリンクを大量生産し始めた。
戦闘が始まった。
冒険者たちと魔王軍が激突する。
剣と剣がぶつかり合う音、魔法の爆音、悲鳴と雄叫び...
『(みんな、頑張れ!俺も料理で支援する!)』
俺は戦場を駆け回りながら、疲労した冒険者たちに栄養補給品を配布した。
「栄養キッチンカー!ありがとう!」
「これで戦い続けられる!」
冒険者たちの士気が上がる。
でも魔王軍の数は圧倒的だった。
徐々に冒険者たちが押され始める。
『(このままじゃまずい...何か他に手はないか?)』
その時、魔王軍の中に見覚えのある顔を発見した。
『(あれは...前に偵察に来た魔族兵士?)』
俺は思い切って、敵の魔族兵士にも栄養ドリンクを差し出してみた。
『お疲れ様です!栄養補給はいかがですか?』
「え!?」
魔族兵士が驚く。
「敵なのに...なぜ?」
『敵も味方も関係ありません。疲れた人には栄養補給が必要です』
魔族兵士が困惑する。
「でも...戦争中だぞ?」
『戦争中だからこそ、みんなに元気でいてもらいたいんです』
俺の言葉に、魔族兵士が武器を下ろした。
「なんだ...この人は...」
その様子を見た他の魔族兵士たちも、戦闘を止めて俺を見つめる。
『(チャンスかもしれない...)』
俺は大声で叫んだ。
『魔族の皆さん!戦争で疲れているでしょう!』
『美味しい料理で元気になってください!』
『人間も魔族も、お腹が空けば同じです!』
戦場に奇妙な静寂が流れた。
人間も魔族も、みんなが俺を見ている。
『みんな一緒に食事をしませんか!』
『戦うより、美味しいものを食べる方がずっと幸せですよ!』
俺の提案に、戦場がざわめき始めた。
果たして、料理の力は戦争を止めることができるのだろうか...?