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第35話「全市民の栄養改善大作戦開始」


 異世界キッチンカー生活、気持ち35日目の朝。


 壊血病事件から一夜明け、俺のキッチンカーには見慣れない公式な馬車が停まっていた。


『(これは...市長の馬車?)』


 馬車から降りてきたのは、立派な身なりをした中年男性だった。


「栄養キッチンカーさんでしょうか。私は当市の市長、ハロルド・ブライトストンと申します」


『市長さん!?』


 俺は驚いて急いで挨拶した。


「昨日の件で、どうしてもお話ししたいことがありまして」


『はい、何でしょうか』


「実は...」


 市長が深刻な顔になる。


「昨日のような栄養失調による集団発症は、実は今回が初めてではないのです」


『え?』


「過去5年間で、季節性の原因不明疾患が3回発生していました」


 市長が資料を取り出す。


「いずれも原因不明とされていましたが、あなたの指摘を聞いて調べ直したところ...」


「全て農作物の不作時期と重なっていたのです」


『(やっぱり、栄養不足が原因だったのか)』


「そこで、市として正式に『全市民栄養改善プロジェクト』を立ち上げたいのです」


『全市民栄養改善プロジェクト?』


「はい。あなたに総責任者になっていただきたく」


 市長が深々と頭を下げる。


「市民の健康を守るため、街全体の栄養状態を根本から改善したいのです」


『(これは...すごいスケールの話だ)』


 その時、レオンギルドマスターもやってきた。


「市長、お疲れ様です」


「ギルドマスター、ちょうど良いところに」


 市長がレオンに向き直る。


「ギルドからも協力していただけますか?」


「もちろんです。冒険者の健康管理は我々の重要な責務ですから」


 続いて、バジル博士も現れた。


「ほほう、何やら大がかりな話をしているようじゃな」


「博士もお願いします」


 市長が説明する。


「学術的な裏付けが必要です」


「喜んで協力させてもらうぞ」


 さらに、バルトも駆けつけてきた。


「栄養キッチンカーさん、市長からお話を伺いました」


「バルト商会も全面協力いたします」


 俺は圧倒された。


『(みんなが協力してくれるなんて...)』


「それでは、プロジェクトの詳細を説明させていただきます」


 市長が大きな地図を広げる。


「まず、街全体を5つの地区に分け、それぞれの栄養状態を調査します」


『地区別調査ですね』


「次に、各地区の問題点を特定し、個別の改善策を実施します」


 レオンが補足する。


「ギルドからは冒険者の協力を得て、各家庭の食生活調査を行います」


 バジル博士も続ける。


「学術的な栄養分析と、効果測定を担当しよう」


 バルトも提案する。


「流通改善と価格安定化は商会が責任を持ちます」


『(みんなが役割分担してくれて...)』


 俺も責任を感じた。


『分かりました。全力で取り組ませていただきます』


「ありがとうございます!」


 市長が安堵の表情を浮かべる。


「それでは、まず第1段階から始めましょう」


 こうして、史上初の『全市民栄養改善大作戦』が始動した。


 第1段階は「現状把握」だった。


 俺は栄養調査チームのリーダーとして、各地区を回ることになった。


『まずは商業地区から調査しましょう』


 アルフレッドも調査に同行してくれる。


「師匠、これも重要な勉強ですね」


『そうですね。実際の栄養問題を見ることで、理論だけでは分からないことが学べます』


 商業地区では、忙しい商人たちの食生活を調査した。


「忙しくて、いつも乾パンだけです」


「食事の時間がもったいなくて...」


『(時間がない→手軽な保存食→栄養偏重のパターンだ)』


 次に住宅地区を回る。


「家計が苦しくて、安い食材しか買えません」


「新鮮な野菜は高くて手が出ません」


『(経済的理由による栄養格差もある)』


 貧困地区では、さらに深刻な実態が明らかになった。


「1日1食がやっとです」


「子供にもまともな食事を食べさせてあげられなくて...」


『(これは...想像以上に深刻だ)』


 調査を続けるうち、街の栄養問題が複雑で多層的であることが分かった。


 ・時間不足による手抜き食事

 ・経済格差による栄養格差

 ・栄養知識の不足

 ・新鮮食材の流通問題

 ・調理技術の未熟


『(単純に食材を配るだけでは解決しない)』


 俺は包括的な解決策を考え始めた。


 1週間後、調査結果がまとまった。


「各地区の問題点が明確になりました」


 俺が市長に報告する。


『商業地区は時間不足、住宅地区は経済問題、貧困地区は絶対的食糧不足が主な原因です』


「なるほど、地区によって対策を変える必要があるということですね」


『その通りです。そこで、5つの対策を提案します』


 俺が改善案を説明し始めた。


『第1に「時短栄養食品の開発」』


『忙しい人でも手軽に栄養が取れる、調理済み食品を開発します』


『第2に「栄養食材の価格安定化」』


『バルト商会の協力で、新鮮食材を安価で安定供給します』


『第3に「栄養教育プログラム」』


『各地区で栄養学の基礎を教える講座を開催します』


『第4に「コミュニティ食堂の設置」』


『各地区に低価格で栄養バランスの良い食事を提供する食堂を作ります』


『第5に「家庭菜園推進プログラム」』


『各家庭で簡単な野菜作りを推進し、新鮮野菜の自給率を上げます』


 市長が感激している。


「素晴らしい!包括的で実現可能な案ですね」


「予算はどのくらい必要でしょうか?」


『実は、それほど高額ではありません』


 俺が試算を示す。


『既存の施設を活用し、住民の協力を得ることで、費用を最小限に抑えられます』


「それなら市の予算で十分対応できます」


 レオンも賛成してくれる。


「ギルドとしても全面協力します」


 バジル博士も協力を申し出る。


「栄養教育プログラムは任せてくれ」


 バルトも意欲的だ。


「流通改善は既に準備を始めています」


 こうして、具体的な実施計画が決まった。


 翌週から、各対策が一斉に開始された。


 【第1弾:時短栄養食品】


 俺とアルフレッドで、忙しい人向けの栄養バランス食品を開発。


 ・5分で作れる栄養スープの素

 ・そのまま食べられる栄養バー

 ・お湯を注ぐだけの完全栄養食


 商業地区で大好評だった。


「これなら忙しくても栄養が取れる!」


「簡単で美味しい!」


 【第2弾:価格安定化】


 バルト商会の協力で、新鮮野菜の価格を30%削減。


「新鮮な野菜がこんなに安く!」


「これなら毎日買える」


 【第3弾:栄養教育】


 バジル博士が各地区で栄養学講座を開催。


 俺も実践的な調理指導を担当した。


「栄養のことがよく分かった」


「家族の健康を考えるきっかけになった」


 【第4弾:コミュニティ食堂】


 各地区の空き建物を利用して、低価格食堂を開設。


 1食50コッパーで栄養バランスの取れた食事を提供。


「家で作るより安くて栄養満点」


「一人暮らしには本当に助かる」


 【第5弾:家庭菜園】


 各家庭に種と土を配布し、簡単な野菜作りを指導。


「自分で育てた野菜は美味しい」


「子供も野菜を食べるようになった」


 1ヶ月後、驚くべき結果が出た。


「市民の栄養状態が全体的に40%改善しました」


 バジル博士が報告する。


「病気による医療費も30%削減されています」


 市長が感動している。


「こんなに短期間で効果が出るとは...」


『でも、これはまだ始まりです』


 俺が続ける。


『継続的な取り組みが必要です』


「もちろんです。この取り組みを恒久的な制度にしたいと思います」


 翌日、俺のキッチンカーには新しい看板が掲げられていた。


『全市民栄養改善大作戦実施中

~みんなで作る健康な街~

栄養に関するご相談はお気軽に』


 街の人々の表情が、明らかに明るくなっていた。


「栄養改善プロジェクトのおかげで元気になった」


「家族みんなが健康になった」


「街全体が活気づいてる」


 個人から始まった俺の活動が、ついに街全体を変える力になった。


『(一人の力は小さくても、みんなで協力すれば大きなことができるんだな)』


 俺は改めて、仲間の大切さと協力の力を実感していた。


 この成功は、きっと他の街にも広まっていくだろう。


 栄養改善の輪が、世界中に広がることを願って。


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