第34話「街を襲う謎の病気と栄養不足の関係」
異世界キッチンカー生活、気持ち34日目の朝。
多種族合同食事会の準備で忙しい俺だったが、街の様子がおかしいことに気づいた。
『(なんだか、いつもより人が少ないな...)』
そんな時、バジル博士が慌てた様子でやってきた。
「栄養キッチンカー君!大変なことになった!」
『博士、どうされたんですか?』
「街で謎の病気が流行しているのじゃ」
『病気?』
「症状は極度の疲労感、関節痛、そして記憶力の低下...医師たちは原因がさっぱり分からんと言っている」
博士が深刻な顔で説明する。
「既に街の住民の3割が発症している」
『3割も!?』
その時、常連のミラがフラフラしながらやってきた。
「栄養キッチンカーさん...」
明らかに顔色が悪く、足取りもおぼつかない。
『ミラちゃん!大丈夫?』
「すみません...なんだか体がだるくて...」
ミラがその場にへたり込む。
「昨日から急に調子が悪くなって...」
『(これが例の病気か)』
俺は急いでミラを介抱しながら、症状を詳しく聞いた。
『他に何か症状はありますか?』
「関節が痛くて...それに、なんだか物忘れが激しくて...」
ミラが苦しそうに答える。
「昨日のことが思い出せないんです」
『(極度の疲労、関節痛、記憶力低下...)』
俺の頭の中で、前世の栄養学知識が警鐘を鳴らした。
『(この症状の組み合わせ...まさか)』
「博士、他にも症状を詳しく聞いた患者はいますか?」
「うむ、歯茎からの出血、古い傷が治りにくい、風邪を引きやすいという報告もある」
『やっぱりだ...』
俺は確信した。
『博士、これは壊血病です』
「壊血病?」
『ビタミンC欠乏症による病気です』
俺が説明を始める。
『極度の疲労、関節痛、歯茎の出血、傷の治りの悪さ...全部ビタミンC不足の典型的な症状です』
「ビタミンC不足...しかし、なぜ急に?」
その時、ガルドとエリーもやってきた。二人とも明らかに体調が悪そうだ。
「うう...体が重い...」
ガルドがいつもの元気がない。
「私も調子が悪くて...お肌もカサカサですわ」
エリーも疲れ切っている。
『(常連客まで...これは深刻だ)』
俺は街の食生活について考え始めた。
『(最近の街の食事情...あ!)』
俺は重要なことに気づいた。
『博士、最近街の市場で何か変化はありませんでしたか?』
「変化?そういえば...」
バジル博士が思い出す。
「先月から、近隣の農村が不作で、新鮮な野菜や果物の入荷が激減しているのじゃ」
『それです!』
俺が手を叩く。
『住民たちが新鮮な野菜や果物を食べられなくなって、ビタミンCが不足したんです』
「しかし、保存食の野菜もあるじゃろう?」
『保存食の野菜は、加工過程でビタミンCの大部分が失われてしまうんです』
俺が詳しく説明する。
『ビタミンCは熱と空気に弱く、乾燥や塩漬けでほとんど壊れてしまいます』
『つまり、住民たちは野菜を食べているつもりでも、実際にはビタミンCをほとんど摂取できていなかったんです』
博士が愕然とする。
「そんな...知らずに栄養失調になっていたということか」
『そうです。しかも壊血病は、症状が出るまで数週間から数ヶ月かかります』
『だから今頃になって一斉に発症したんです』
俺は急いで治療用の料理を作ることにした。
『まず、ミラちゃんたちにビタミンC豊富な緊急回復メニューを作ります』
俺は手持ちのビタミンC豊富な食材を確認する。
『(魔法植物のビタミンCベリー、新鮮なハーブ類...これらを使おう)』
俺は特製の「ビタミンC爆弾ジュース」を作り始めた。
新鮮な果物と魔法植物を組み合わせ、ビタミンCを最大限に保持するよう、熱を加えずに調理する。
『完成!緊急ビタミンC補給ドリンクです』
「うわあ、綺麗な色...」
ミラが感動している。
『飲んでみてください』
ミラ、ガルド、エリーが一気に飲み干す。
「美味しい!」
「すっぱくて、でも甘い」
「体に染み渡る感じがしますわ」
10分後、3人の顔色が明らかに良くなってきた。
「あれ?だるさが軽くなった」
ミラが驚いている。
「関節の痛みも和らいでる」
ガルドも驚く。
「お肌もしっとりしてきましたわ」
エリーも効果を実感している。
『(やっぱり壊血病だった。ビタミンCの即効性が証明された)』
その時、街の医師がやってきた。
「栄養キッチンカーさん!患者たちが『栄養キッチンカーの治療を受けたい』と言って聞かないのですが...」
『分かりました。すぐに大量の治療食を作ります』
俺は街中の患者を治療するため、大規模な調理を開始した。
「アルフレッドさん、手伝ってください」
「はい、師匠!」
アルフレッドが駆けつけてくれる。
「これも栄養学の実践ですね」
『その通りです。ビタミンCを最大限に保持する調理法を教えます』
俺たちは手分けして、大量のビタミンC補給食品を作り続けた。
・新鮮果物のスムージー
・生野菜サラダ(特製ドレッシング付き)
・低温調理の野菜スープ
・ビタミンC強化魔法植物茶
2時間後、街の中央広場は治療を求める住民で溢れていた。
「本当に食事で治るのか?」
「でも、栄養キッチンカーを信じてみよう」
俺は一人一人に治療食を配りながら、説明を続けた。
『この病気は壊血病といって、ビタミンC不足が原因です』
『保存食中心の食生活では、ビタミンCが不足してしまいます』
『でも、新鮮な野菜や果物を食べれば、必ず回復します』
1時間後、次々と回復報告が上がってきた。
「疲れが取れた!」
「関節の痛みがなくなった!」
「記憶もはっきりしてきた!」
医師たちも驚愕していた。
「信じられない...こんなに早く回復するなんて」
「食事だけで病気が治るのか」
バジル博士が感心している。
「君の分析力、恐れ入ったぞ」
「医師たちが原因を特定できなかった病気を、栄養学の知識で解明するとは」
『博士のおかげで、症状を詳しく聞けたからです』
レオンギルドマスターも視察に来てくれた。
「街の住民の8割が回復したと報告を受けた」
「君の功績は計り知れない」
『でも、根本的な解決が必要です』
俺が提案する。
『新鮮な野菜と果物の安定供給システムを作らないと、また同じことが起きます』
「確かに、そうだな」
バルトも駆けつけてくれた。
「栄養キッチンカーさん、商会の流通網を使って、近隣の農村から新鮮な野菜を緊急輸送します」
『バルトさん、ありがとうございます』
「それから、保存技術も改良しましょう」
アルフレッドが提案する。
「ビタミンCを保持できる新しい保存法を研究しませんか?」
『それは素晴らしいアイデアです』
夕方、街は完全に活気を取り戻していた。
「栄養キッチンカーのおかげで助かった」
「食事でこんなに体調が変わるなんて」
「栄養学って本当にすごいんだな」
翌日、俺のキッチンカーには新しい看板が掲げられていた。
『街の壊血病集団発生を栄養学で解決
~原因究明から治療まで~
予防医学としての栄養学の重要性』
そして、重要な教訓も掲示した。
『【重要】保存食だけでは栄養不足になります
新鮮な野菜・果物を定期的に摂取しましょう
栄養バランスが健康の基本です』
この事件を通じて、街の人々の栄養に対する意識は劇的に変わった。
『(栄養学の知識が、こんなに多くの人を救えるなんて)』
俺は改めて、栄養学の力と責任の重さを実感していた。
多種族食事会は延期になったが、それよりも大切なことを成し遂げることができた。
街全体の健康を守ること。これも俺の重要な使命なのだ。