第31話「ダンジョンで遭難したパーティを食事で救助」
異世界キッチンカー生活、気持ち31日目の午後。
アルフレッドとの栄養学講習を続けていた俺たちの元に、突然一人の冒険者が駆け込んできた。
「助けてください!仲間が...仲間がダンジョンで!」
息を切らしながら叫ぶのは、20代前半の魔法使いの女性だった。
『落ち着いてください。何があったんですか?』
「私たちのパーティが...B級ダンジョン『魔霧の洞窟』で遭難してるんです!」
魔法使いが必死に説明する。
「もう3日間も出てこない...最後の連絡では『食料が尽きた』って...」
『3日間!?』
俺は驚愕した。
『それは大変だ!』
「ギルドに救助を依頼したんですが、『魔霧の洞窟は特殊で、大人数では危険』って言われて...」
魔法使いが涙ながらに続ける。
「でも、栄養キッチンカーさんなら...もしかしたら...」
『(魔霧の洞窟...確か視界を遮る魔法の霧が発生するダンジョンだ)』
「師匠、これは緊急事態ですね」
アルフレッドも真剣な顔になる。
「私も手伝わせてください」
『もちろんです。でも、魔霧の洞窟は危険です』
「構いません。人命がかかっているなら」
アルフレッドが決意を込めて言う。
その時、常連の3人もやってきた。
「どうしたんですか?すごく慌ただしい様子ですが...」
ミラが心配そうに聞く。
『実は、ダンジョンで遭難したパーティの救助要請が』
「遭難!?」
ガルドが驚く。
「それは大変ですわ」
エリーも心配そうだ。
「私たちも手伝います!」
ミラが即座に申し出る。
「そうだ!俺たちも一緒に行く!」
ガルドも同調する。
「私も回復魔法でサポートしますわ」
エリーも協力を申し出る。
『みんな...ありがとう』
俺は感動した。
『でも、魔霧の洞窟は本当に危険です』
「大丈夫です!私たちも中級冒険者ですから」
ミラが自信を持って言う。
「栄養キッチンカーさんを守りながら救助しますよ」
『(頼もしい仲間たちだ)』
俺は決意を固めた。
『分かりました。みんなで救助に向かいましょう』
まず、救助に必要な食材と道具を準備した。
『栄養失調で動けない状態なら、消化が良くて即効性のある食事が必要です』
「どのようなメニューを?」
アルフレッドが聞く。
『まず、緊急栄養補給スープ。体に負担をかけずに、迅速にエネルギーを補給できます』
俺はレシピを説明しながら材料を選ぶ。
『次に、電解質補給ドリンク。脱水症状の回復に』
『そして、消化に良い高タンパク質のお粥。体力回復のために』
「分かりました。私も手伝います」
アルフレッドが積極的に準備を手伝ってくれる。
30分後、俺たちは魔霧の洞窟に向かった。
洞窟の入り口は、その名の通り不気味な霧に覆われていた。
「うわあ、本当に見通しが悪いですね」
ミラが不安そうに言う。
「こんな中で遭難したら、確かに大変だ」
ガルドも心配そうだ。
『みんな、絶対にはぐれないようにしてください』
俺が注意を促す。
洞窟に入ると、案の定視界が極端に悪くなった。
「この霧、魔法的なものですね」
エリーが分析する。
「普通の風では晴れません」
『キッチンカーのライトを最大にして、みんなで固まって進みましょう』
俺たちは慎重に洞窟内を進んでいく。
1時間後、ついに遭難したパーティを発見した。
「あ、あそこに!」
ミラが指差す方向に、4人の冒険者がぐったりと倒れていた。
『大変だ!急ぎましょう!』
俺たちは急いで近づく。
戦士、魔法使い、僧侶、盗賊の典型的な4人パーティだが、全員が衰弱しきっていた。
「おい、大丈夫か!」
ガルドが声をかけるが、反応が薄い。
『重度の栄養失調と脱水症状です』
俺が状態を確認する。
『すぐに処置が必要です』
「私、回復魔法をかけます」
エリーが魔法を唱えるが...
「あれ?効果が薄いですわ」
『栄養失調が酷すぎて、魔法だけでは回復しきれないんです』
俺が説明する。
『まず、栄養補給で体力を回復させる必要があります』
俺は急いで緊急栄養補給スープの調理を始めた。
『アルフレッドさん、電解質ドリンクの準備をお願いします』
「分かりました!」
アルフレッドが手際よく作業する。
ミラとガルドは遭難者の介抱を、エリーは洞窟内の安全確保を担当してくれる。
10分後、緊急栄養補給スープが完成した。
『まず、このスープを少しずつ飲ませてください』
俺がスプーンで、一番衰弱している戦士にスープを飲ませる。
「うう...」
戦士がかすかに反応を示す。
『大丈夫です。すぐに楽になりますよ』
俺が優しく声をかけながら、丁寧に介抱する。
5分後、戦士の意識がはっきりしてきた。
「あ、あなたたちは...?」
「救助に来ました。栄養キッチンカーです」
『今は話さずに、まず栄養補給に集中してください』
続いて、他の3人にもスープを飲ませる。
アルフレッドが作った電解質ドリンクも効果的だった。
「師匠、この電解質ドリンクの効果、すごいですね」
「栄養学の力ですね」
『アルフレッドさんの調合技術も完璧でした』
30分後、4人全員の意識がはっきりしてきた。
「ありがとうございます...命の恩人です」
パーティのリーダーらしき戦士が涙を流している。
「もうダメかと思いました...」
魔法使いも感謝している。
『まだ完全回復ではありません。消化に良いお粥も用意しました』
俺が高タンパク質のお粥を配る。
「美味しい...こんなに美味しい食事、久しぶりです」
「体の奥から力が湧いてきます」
遭難者たちが元気を取り戻していく。
1時間後、全員が歩けるまでに回復した。
「信じられません。食事だけでこんなに回復するなんて」
僧侶が驚いている。
「栄養キッチンカーの料理、本当にすごいですね」
盗賊も感動している。
『まだ完全ではありません。洞窟を出てから、しっかりとした食事を取りましょう』
俺たちは全員で洞窟を脱出した。
洞窟の外では、救助要請をした魔法使いが待っていた。
「みんな!無事だったの!?」
「ああ、栄養キッチンカーのおかげで助かった」
感動的な再会だった。
その夜、救助されたパーティのために特別な回復ディナーを作った。
『完全回復メニューです』
「今度は本格的な料理ですね」
アルフレッドも手伝ってくれる。
遭難者たちは涙を流しながら食事を取った。
「本当にありがとうございました」
「命を救っていただいて」
彼らの感謝の言葉に、俺も胸が熱くなった。
『無事で良かったです』
後日、この救助活動は街中の話題になった。
「栄養キッチンカーが遭難者を食事で救助したって?」
「すごいな、料理で命を救うなんて」
レオンギルドマスターも感謝状を持ってきてくれた。
「君たちの勇気ある行動に感謝する」
「これからも、困った冒険者たちを支えてほしい」
『こちらこそ。みんなで協力できて良かったです』
アルフレッドも感想を述べる。
「師匠から、料理の本当の価値を学びました」
「料理は人の命を救うことができるんですね」
『そうですね。でも、アルフレッドさんの技術も救助に役立ちました』
「ありがとうございます」
翌日、俺のキッチンカーには新しい看板が掲げられていた。
『緊急救助サービス開始
~栄養失調・食中毒・遭難時の緊急食事療法~
24時間対応可能』
この看板を見た冒険者たちが、安心したような顔をしている。
「これで安心してダンジョンに挑戦できる」
「万が一の時も、栄養キッチンカーがいるから大丈夫だ」
料理で人命を救う。
これも俺たちの大切な使命なのだと、改めて実感した。
『(これからも、困っている人がいたら、すぐに駆けつけよう)』
アルフレッドとの修行は、思わぬ形で実践の場を得ることができた。
人を救う料理。これこそが、俺たちの目指すべき道なのかもしれない。