第30話「元ライバルが弟子入り志願してきた」
異世界キッチンカー生活、気持ち30日目の朝。
アルフレッドとの協力関係が始まって数日、俺たちは毎日一緒に料理の研究を続けていた。
『今日は魔法植物を使った栄養強化料理を試してみましょうか』
「はい!昨日のコラボ料理も好評でしたし、さらに発展させたいですね」
アルフレッドが意欲的に答える。
この数日間で、彼の料理に対する姿勢は劇的に変わっていた。
以前の高慢な態度は消え、謙虚に学ぼうとする姿勢が印象的だった。
『アルフレッドさん、盛り付けの技術を教えてもらえますか?』
「もちろんです!まず、皿の中央を基準点として...」
アルフレッドが丁寧に指導してくれる。
『なるほど、高さを意識するとこんなに立体感が出るんですね』
「そうです!見た目の美しさも栄養の一部だと気づきました」
彼が感動を込めて言う。
「美しい料理は食べる人の心も満たしますからね」
その時、常連の3人がやってきた。
「おはようございます!今日も一緒に料理研究ですか?」
ミラが興味深そうに見ている。
「アルフレッドさん、すっかり変わりましたね」
ガルドが感心している。
「最初はあんなに偉そうだったのに」
「ガルドさん、それは失礼ですわ」
エリーが窘める。
「でも、確かに変化は素晴らしいですわね」
「皆さんのおかげです」
アルフレッドが深々と頭を下げる。
「皆さんの栄養キッチンカーさんへの愛情を見て、私も本当の料理を学び直したくなりました」
そんな時、アルフレッドが突然正座した。
「栄養キッチンカーさん、お願いがあります」
『どうされました?』
「私を...弟子にしてください!」
アルフレッドが深々と頭を下げる。
『弟子!?』
俺は驚いた。
「はい!技術交換だけでは足りません」
アルフレッドが真剣な顔で続ける。
「私は根本から学び直したいのです」
「栄養学を、そして人を想う心を、一から教えてください」
『でも、あなたは王都の一流料理人で...』
「そんなプライドなど、もう必要ありません」
アルフレッドが即座に答える。
「王都での地位や名声より、本当に価値のある料理を作れるようになりたいのです」
3人も驚いている。
「えええ!?王都の料理長が弟子入り!?」
ミラが仰天する。
「すげー決断だな」
ガルドも感心している。
「プライドを捨てるって、簡単なことじゃありませんわ」
エリーも感動している。
『アルフレッドさん...』
俺は彼の真剣な眼差しを見つめた。
『分かりました。でも、師弟関係というより、一緒に学び合う仲間として』
「いえ、私は弟子です」
アルフレッドが頑として譲らない。
「あなたから学ぶことが山ほどあります」
「栄養学の知識、食材への愛情、お客様への想い...」
『(こんなに謙虚になって...)』
俺は感動した。
『分かりました。では、まず基本的な栄養学から始めましょう』
「はい!師匠!」
アルフレッドが嬉しそうに答える。
『師匠って...恥ずかしいからやめてください』
「でも、私にとってあなたは本当の師匠なんです」
こうして、俺の最初の弟子ができた。
まずは、栄養学の基礎から教えることにした。
『5大栄養素について、詳しく説明しますね』
「お願いします!」
アルフレッドが真剣にメモを取る。
『炭水化物は体のエネルギー源です。でも、単純炭水化物と複合炭水化物の違いが重要で...』
「単純と複合の違いとは?」
『単純炭水化物は砂糖などで、すぐにエネルギーになりますが、血糖値が急上昇します』
『複合炭水化物は玄米や全粒粉などで、ゆっくりとエネルギーになり、血糖値も安定します』
「なるほど!だから玄米の方が体に良いんですね」
アルフレッドが目を輝かせる。
『そうです。次にタンパク質ですが...』
俺は詳しく栄養学を教えていく。アルフレッドは一つ一つ丁寧にメモを取り、質問を重ねる。
「ビタミンCが熱に弱いということは、調理法も考える必要がありますね」
「生で食べられるものは生で、加熱が必要なものは短時間で」
『その通りです!さすが料理人、理解が早いですね』
「師匠の教え方が分かりやすいからです」
午後からは、実践的な調理を始めた。
『今日は「栄養バランス重視の洋風プレート」を作ってみましょう』
「洋風なら私の得意分野ですが、栄養バランスとなると...」
『大丈夫です。アルフレッドさんの技術に、栄養学の知識を加えるだけです』
俺たちは一緒に調理を始めた。
『メインは鶏胸肉のソテーにしましょう。高タンパク低脂肪で...』
「分かりました!では、私の技術で美しく仕上げてみます」
アルフレッドが手際よく鶏肉を調理する。
「ハーブの使い方がポイントですね」
『さすが!その技術に栄養効果をプラスします』
俺は特製のソースを作る。
『このソースには、ビタミンBが豊富な食材を使っています』
「疲労回復効果も期待できるということですね」
『その通りです!』
続いて付け合わせの野菜。
「私なら人参のグラッセを作りますが...」
『それなら、β-カロテンの吸収を良くするため、少量の油で調理しましょう』
「なるほど!栄養の吸収まで考えるんですね」
『野菜の色も重要です。赤、黄、緑...色とりどりの野菜で栄養バランスを整えます』
「美しさと栄養の両立ですね」
2時間後、美しく栄養価の高いプレートが完成した。
『完成です!』
「素晴らしい!見た目も美しく、栄養バランスも完璧」
アルフレッドが感動している。
「これこそが私の求めていた料理です」
常連の3人に試食してもらう。
「うわあ!いつもより美しい!」
ミラが感動する。
「しかも、栄養効果もバッチリだ」
ガルドも満足そうだ。
「美と健康の完璧な融合ですわ」
エリーも絶賛する。
『どうですか、アルフレッドさん?』
「最高です!」
アルフレッドが目を輝かせる。
「技術だけでなく、愛情も込められている」
「これが本当の料理なんですね」
その時、バジル博士がやってきた。
「おや、なかなか素晴らしい料理の香りがするな」
『博士!アルフレッドさんが弟子入りしてくれたんです』
「ほほう、それは素晴らしい」
博士が感心する。
「プライドを捨てて学ぶ姿勢、立派なものじゃ」
「ありがとうございます」
アルフレッドが謙遜する。
「私はまだまだ未熟です」
「その謙虚さがあれば、きっと素晴らしい料理人になれるじゃろう」
続いて、レオンギルドマスターも視察に来た。
「アルフレッドさんの弟子入り、街の話題になっているぞ」
『そうなんですか?』
「ああ。『王都の料理人が地方の料理人に弟子入り』というのは前代未聞だ」
レオンが説明する。
「でも、みんな感心している。真剣に学ぼうとする姿勢を」
「恐縮です」
アルフレッドが頭を下げる。
「私は师匠から多くを学ばせていただいています」
『师匠はやめてください』
「でも、事実ですから」
夕方、アルフレッドが感想を語ってくれた。
「今日一日で、私の料理観が完全に変わりました」
『どんな風に?』
「料理は芸術作品ではなく、人の命を支えるものだということを」
アルフレッドが真剣に言う。
「美しさも大切ですが、それ以上に食べる人の健康を考えることが重要なんですね」
『そうですね。でも、美しさも心の栄養です』
「はい!技術と心、両方が大切だということを学びました」
その夜、俺は一人で考えていた。
『(まさか王都の一流料理人が弟子入りしてくれるなんて)』
『(でも、アルフレッドさんの謙虚な姿勢には本当に感動した)』
プライドを捨てて学ぼうとする姿勢。これこそが成長の原動力なのかもしれない。
『(俺も、常に学ぶ姿勢を忘れずにいよう)』
翌日、俺のキッチンカーには新しい看板が掲げられていた。
『王都「ゴールデンフォーク」料理長アルフレッド氏
栄養学修行中
~プライドを捨てて真の料理を学ぶ~』
この看板を見た人々が、感動したような顔をしている。
「すごいな、王都の料理人がここで修行してるのか」
「プライドを捨てて学ぶって、簡単なことじゃないよな」
「これで料理のレベルがさらに上がりそうだ」
アルフレッドの弟子入りは、街に新しい話題を提供していた。
そして俺自身も、人に教えることで新たな気づきを得ていた。
『(教えることは学ぶこと。アルフレッドさんと一緒に、俺も成長していこう)』
師弟関係というより、共に学び合う仲間として。
俺たちの料理修行は、まだ始まったばかりだった。