第28話「お客さんの健康を第一に考える料理こそ最高」
異世界キッチンカー生活、気持ち28日目の午後。
料理対決の審査が始まろうとしていた。審査員席には、街の冒険者たちが50名座っている。
「さあ、審査の時間だ!」
レオンギルドマスターが宣言する。
「審査員の皆さん、両方の料理を食べ比べて、より優れていると思う方に投票してください!」
まず、アルフレッドが自分の料理を説明し始めた。
「審査員の皆様、ご覧ください。これが王都最高峰の技術で作り上げた至高の料理です」
アルフレッドが胸を張る。
「フォアグラのポワレは金貨20枚、キャビアのテリーヌは金貨30枚、デザートのソルベは金貨10枚。総額金貨60枚の超高級料理です!」
審査員の冒険者たちがざわめく。
「金貨60枚って...俺の装備一式より高いじゃないか」
「こんな高級料理、人生で初めて食べる」
「さすが王都の料理人だ」
アルフレッドが満足げに続ける。
「見た目の美しさ、香りの上品さ、味の繊細さ、すべてが完璧です。これこそが真の料理というものです」
審査員たちが実際に食べ始める。
「うわあ、美味い!」
「こんな味、初めてだ」
「口の中でとろけるような食感...」
「これが王都の味か」
冒険者たちが感嘆の声を上げている。
『(確かに美味しそうだな...でも)』
俺の番がやってきた。
『審査員の皆様、私の料理はとてもシンプルです』
俺が説明を始める。
『材料費は合計で10シルバー程度。高級食材は一切使っていません』
「10シルバー?アルフレッドの料理の120分の1か」
「でも、栄養キッチンカーの料理は効果があるからな」
審査員の中に、俺の常連客もいる。
『でも、この料理には皆様の健康を第一に考えた、特別な想いが込められています』
俺が料理の説明を続ける。
『メインのチキンソテーは、高タンパク低脂肪で筋力向上をサポート』
『温野菜は、ビタミンとミネラルのバランスを考えて調理しました』
『雑穀米は食物繊維が豊富で、消化を助けます』
『そして最後のスープは、疲労回復と免疫力向上の効果があります』
審査員たちが興味深そうに聞いている。
「なるほど、いつもの栄養重視の料理か」
「でも、アルフレッドの料理に比べると見た目が...」
確かに、見た目では俺の料理は圧倒的に劣っていた。
アルフレッドの料理が宝石のように輝いているのに対し、俺の料理は普通の定食にしか見えない。
『それでは、食べてみてください』
審査員たちが俺の料理を口にし始めた。
最初は「普通だな」という表情だったが、徐々に変化が起こり始める。
「あれ?なんか体が温まってきた」
「疲れが取れた感じがする」
ベテラン冒険者の一人が驚いている。
「おい、これすごくないか?食べただけで魔力が回復してる」
魔法使いの審査員が驚愕する。
「マジか?俺も試してみる...本当だ!スタミナが戻ってきた!」
戦士の審査員も興奮している。
会場がざわめき始める。
「何それ?そんな効果があるの?」
「栄養キッチンカーの料理、やっぱりすごいんだ」
審査員たちの間で、俺の料理への評価が急上昇していく。
「この野菜、甘くて美味しい!それに体にいい感じがする」
「このスープ飲んだら、朝の疲れが完全に消えた」
「雑穀米も、普通の白米より満足感があるな」
一方、アルフレッドは困惑していた。
「何故だ...私の料理は芸術的な美しさと完璧な味なのに...」
しかし、審査員たちの関心は完全に俺の料理に移っていた。
「すげー、食べただけで集中力が上がった」
「俺も!頭がすっきりしてる」
「これなら明日のダンジョン攻略も成功しそうだ」
冒険者たちが次々と俺の料理の効果を実感している。
そんな中、一人のベテラン冒険者が立ち上がった。
「俺は長年冒険者をやってきたが、こんな料理は初めてだ」
彼が感動を込めて話し始める。
「確かにアルフレッドの料理は美しく、美味しかった」
「でも、栄養キッチンカーの料理は違う。食べた瞬間から体が変わるのを感じる」
他の審査員たちも頷いている。
「そうだ、これは単なる食事じゃない」
「体力回復薬を飲んだような効果がある」
「しかも美味しい」
若い冒険者も感想を述べる。
「俺、昨日のダンジョン攻略で疲れ切ってたんですけど、この料理食べたら完全回復しました」
「マジで?」
「本当です!こんなの初めてです!」
会場全体が俺の料理への称賛で沸いている。
アルフレッドが反論しようとする。
「しかし、料理の本質は美味しさと芸術性のはずだ!」
「栄養がどうとか、健康がどうとか、そんなものは料理の本分ではない!」
しかし、審査員の一人が反論した。
「ちょっと待ってくれ」
中年の冒険者が立ち上がる。
「俺たち冒険者にとって、料理は生命に直結するんだ」
「体力、スタミナ、集中力...これらが命を左右する」
彼が真剣な顔で続ける。
「どんなに美しくても、どんなに高級でも、俺たちの体を強くしてくれない料理に何の意味がある?」
「そうだ!」
他の冒険者たちも同調する。
「俺たちには実用性が一番大事だ」
「栄養キッチンカーの料理は、俺たちの生活を変えてくれる」
女性の魔法使いが続ける。
「私、栄養キッチンカーの常連なんですけど、魔力の安定性が格段に向上したんです」
「それまでは魔法の失敗ばかりだったのに、今では上級魔法も使えるようになりました」
戦士の審査員も証言する。
「俺も同じだ。栄養バランスを整えてから、持久力が倍になった」
「ダンジョンでの生存率が明らかに上がっている」
次々と証言が続く。
「息子の成績が上がった」
「妻の体調が良くなった」
「家族みんなが健康になった」
審査員たちの証言を聞いて、アルフレッドの顔が青くなっていく。
「そんな...料理の価値は美しさと味のはずだ...」
その時、俺が口を開いた。
『アルフレッドさん、あなたの料理は確かに美しくて美味しかった』
『でも、私が一番大切にしているのは、食べてくれる人の健康と幸せです』
俺が自分の料理哲学を語る。
『どんなに美しくても、どんなに高級でも、その人の体に良くなければ、本当に良い料理とは言えないと思います』
『料理は芸術作品ではありません。人の命を支える、大切な栄養源なんです』
会場が静まり返る。
『特に冒険者の皆さんは、日々命がけで戦っています』
『そんな皆さんに、少しでも健康になってもらい、安全に冒険を続けてもらいたい』
『それが、私の料理に込めた想いです』
審査員たちが深く頷いている。
「その通りだ」
「料理は俺たちの命を支えるものだ」
「美しさより、健康効果の方が大事だ」
最後に、レオンギルドマスターが審査を締めくくった。
「それでは、投票に移りましょう」
「アルフレッドさんの料理に投票する方は右手を」
5人の審査員が手を上げた。
「栄養キッチンカーさんの料理に投票する方は左手を」
45人の審査員が一斉に手を上げた。
「結果発表!45対5で、栄養キッチンカーさんの勝利!」
会場が大歓声に包まれる。
「やったー!」
「栄養キッチンカーの勝ちだ!」
「当然の結果だ!」
常連の3人が飛び跳ねて喜んでいる。
「栄養キッチンカーさん、やりましたね!」
ミラが涙を流している。
「俺たちの栄養キッチンカーが勝ったぞ!」
ガルドが雄叫びを上げる。
「当然の結果ですわ!」
エリーも上品に喜んでいる。
アルフレッドは呆然としていた。
「そんな...私の完璧な料理が...」
しかし、俺はアルフレッドに歩み寄った。
『アルフレッドさん、あなたの技術は本当に素晴らしかった』
『ただ、料理の目的が違っただけです』
『あなたは美を追求し、私は健康を追求した』
『どちらも大切な価値です』
俺が手を差し伸べる。
『良かったら、一緒に料理の可能性を探ってみませんか?』
『あなたの技術と私の栄養学を組み合わせれば、きっと素晴らしい料理ができるはずです』
アルフレッドが俺の手を見つめる。
果たして、彼はどう答えるのだろうか...?