第27話「高級食材vs栄養バランス、どちらが勝つ?」
異世界キッチンカー生活、気持ち27日目の正午。
中央広場には、街の住民たちが大勢集まっていた。審査員として選ばれた50名も、特設の審査席に座っている。
「いよいよ始まるのか」
「王都の料理人vs栄養キッチンカー、どっちが勝つかな」
ざわめく観客席の中央に、2つの調理台が設置されていた。
片方にはアルフレッド、もう片方には俺が立っている。
「さあ、世紀の料理対決を始めよう!」
司会を務めるレオンギルドマスターが宣言する。
「制限時間2時間!材料費無制限!審査員50名の過半数票を獲得した方の勝利だ!」
会場が沸き上がる。
「頑張って、栄養キッチンカーさん!」
ミラが声援を送ってくれる。
「負けるな!」
ガルドも拳を振り上げる。
「私たちが応援していますわ!」
エリーも優雅に手を振ってくれる。
一方、アルフレッドの方には王都から来た取り巻きたちが陣取っている。
「アルフレッド様の勝利は間違いありません」
「田舎の屋台料理など、相手になりませんわ」
『(さあ、勝負だ)』
「それでは...料理開始!」
レオンの合図と共に、料理対決が始まった。
アルフレッドは早速、豪華な食材を並べ始める。
「見よ、これが王都最高級のフォアグラだ!」
アルフレッドが高らかに宣言する。
「そして、これは幻の黒トリュフ!1個で金貨10枚もする超高級食材だ!」
観客席からどよめきが起こる。
「すげー、そんな高い食材があるのか」
「金貨10枚って、俺の年収じゃないか」
「さらに、これは王室御用達のキャビア!」
アルフレッドが次々と高級食材を披露する。
「王都でしか手に入らない最高級ワイン!」
「伝説の職人が作った熟成チーズ!」
まるで宝石のように輝く食材の数々に、観客は圧倒されている。
『(確かにすごい食材だな...でも)』
俺は、自分の調理台に並べた食材を見つめた。
新鮮な地元の野菜、バルト商会から仕入れた良質な肉、バジル博士の魔法植物。
どれも高価ではないが、栄養価が高く、安全で美味しい食材ばかりだ。
『(俺は俺のやり方で勝負する)』
俺は「バランス重視の健康定食」を作ることにした。
『まずは、メインのチキンソテーから』
鶏胸肉を丁寧に下処理し、ハーブでマリネする。高タンパクで低脂肪、消化も良い。
一方、アルフレッドは派手なパフォーマンスを始めていた。
「これが王都秘伝のフランベ技術だ!」
フライパンに炎が上がり、会場が「おお!」と沸く。
「さらに、芸術的な盛り付けもご覧あれ!」
皿の上に、まるで絵画のような美しい料理が完成していく。
『(見た目は確かにすごいな...)』
俺も負けずに調理を続ける。
付け合わせには、彩り豊かな温野菜。ビタミンとミネラルをバランス良く摂取できる。
ご飯は雑穀米。食物繊維とビタミンB群が豊富だ。
スープは、野菜の旨味を凝縮したコンソメベース。体を温め、消化を助ける。
「何だあれは、普通の定食じゃないか」
「高級食材は使わないのか?」
観客の一部から困惑の声が上がる。
『(見た目は地味かもしれないけど...)』
俺は栄養バランスを最優先に、一品一品丁寧に作り上げていく。
30分経過。アルフレッドの料理は、既に芸術作品のような美しさだった。
「見よ、これが『王都風フォアグラのポワレ、黒トリュフソース添え』だ!」
観客席から感嘆の声が上がる。
「美しい...まるで宝石みたい」
「こんな料理、見たことない」
「さすが王都の料理人だ」
アルフレッドが得意げに胸を張る。
「これこそが本物の料理だ。見た目、香り、すべてが完璧だ」
一方、俺の料理は相変わらず地味だった。
「栄養キッチンカーさん、大丈夫?」
ミラが心配そうに声をかけてくる。
『大丈夫です。俺の料理は、見た目じゃなく中身で勝負します』
俺は魔法植物を使った特製ドレッシングを作る。
マナリーフで魔力回復効果、スタミナベリーで疲労回復効果を加える。
1時間経過。アルフレッドは2品目を完成させていた。
「続いては『幻のキャビアとロブスターのテリーヌ』だ!」
これまた豪華絢爛な一品が完成する。
「材料費だけで金貨50枚はかかっているぞ」
観客が驚愕している。
「金貨50枚!?俺の家が買えるじゃないか」
俺も2品目に取りかかった。
『今度は『免疫力向上サラダ』を』
緑黄色野菜をたっぷり使い、抗酸化作用の高い食材を組み合わせる。
見た目は普通のサラダだが、栄養価は抜群だ。
「また普通のサラダか...」
「栄養キッチンカー、本当に大丈夫?」
観客席から不安の声が漏れる。
しかし、常連客たちは俺を信じてくれていた。
「栄養キッチンカーさんの料理は、見た目じゃ分からない良さがあるんです」
ミラが周りの人に説明している。
「そうだ!俺たちは実際に体で感じてるからな」
ガルドも力説する。
「私たちの美と健康が証拠ですわ」
エリーも自信を持って言う。
1時間30分経過。両者とも最後の一品に取りかかる。
アルフレッドは豪華なデザートを作り始めた。
「最後は『王室秘伝のシャンパン・ソルベ、金箔添え』だ!」
本物の金箔を使った、まさに王様のデザート。
『(すごいな...でも)』
俺は最後に『完全栄養バランススープ』を作る。
5大栄養素すべてをバランス良く含み、体の調子を整える万能スープだ。
「制限時間残り10分!」
レオンが時間を告げる。
アルフレッドは最後の仕上げに入っていた。
「完璧だ!この美しさ、この高級感、これぞ真の料理だ!」
俺も最後の味付けを行う。
『(味だけじゃない、体への効果も考えて...)』
「時間です!調理終了!」
レオンの合図で、両者とも手を止めた。
まず、アルフレッドの料理が審査員に配られる。
「うわあ、美しい!」
「こんな豪華な料理、初めて見た」
「食べるのがもったいないくらいだ」
審査員たちが感嘆の声を上げる。
アルフレッドの料理は、確かに見た目が圧倒的だった。
宝石のように輝くキャビア、芸術的に盛り付けられたフォアグラ、金箔が舞うデザート。
どれも王都の高級レストランでしか味わえない、まさに非日常の料理だった。
「美味しい!こんな味、初めてだ」
「口の中でとろけるような食感」
「さすが王都の料理人だ」
審査員たちが次々と絶賛する。
アルフレッドが満足げに笑う。
「どうだ、これが本物の料理だ」
続いて、俺の料理が配られる。
「あれ?普通の定食だ」
「見た目は地味だな」
「本当にこれで勝負するの?」
審査員たちが困惑している。
『(見た目で負けてる...でも、食べてもらえば分かるはず)』
審査員たちが恐る恐る俺の料理を口にする。
最初は戸惑っていた表情が、だんだん変わっていく。
「あれ?なんか体が温まる」
「疲れが取れた感じがする」
「不思議だ、元気が出てくる」
審査員たちが俺の料理の効果を実感し始めた。
「これは...ただの定食じゃない」
「食べただけで健康になった気がする」
「体の奥から力が湧いてくる」
会場の雰囲気が変わり始める。
見た目の華やかさで圧倒的だったアルフレッドの料理と、体への効果で真価を発揮する俺の料理。
果たして、勝負の行方は...?
『(さあ、審査員の判断は?)』