第26話「王都から来た高級料理人が宣戦布告」
異世界キッチンカー生活、気持ち26日目の朝。
第3章の始まり。バルトとの協力関係も順調で、街の食環境は日に日に改善されている。平和な日常が続く中、俺は今日もいつものように営業準備をしていた。
『(最近は本当に順調だな。みんな健康になってるし、バルトさんとの協力も上手くいってる)』
そんな俺の元に、常連の3人がやってきた。
「おはようございます!今日もいい天気ですね」
ミラが元気よく挨拶してくる。
「おう、今日も筋肉強化メニューを頼む!」
ガルドも相変わらずだ。
「私は美魔女ビューティーセットをお願いしますわ」
エリーも優雅に注文する。
『おはようございます、みなさん』
俺が挨拶を返していると、街の向こうから豪華絢爛な馬車がやってくるのが見えた。
『(すごい立派な馬車だな...王都ナンバーじゃないか)』
馬車は俺のキッチンカーの前で止まった。そして中から、見るからに高級そうな料理人の格好をした男性が降りてきた。
真っ白なコック帽、純白のコックコート、ピカピカに磨かれた靴。全身から高級感が漂っている。
「ふん、これが噂の『栄養キッチンカー』か」
男性が俺のキッチンカーを値踏みするような目で見回す。
『(なんだろう、この人。すごく偉そうだな)』
「私は王都の高級レストラン『ゴールデンフォーク』の料理長、シェフ・アルフレッドと申す」
男性が胸を張って名乗る。
『(ゴールデンフォーク!?あの王都で一番有名な高級レストランの!?)』
「君が、この辺境の街で『料理人』を名乗っている者か?」
アルフレッドが見下すような口調で言う。
『はい、栄養キッチンカーです』
「ふむ、確かに客は多いようだが...」
アルフレッドが周りを見回す。
「所詮は田舎の移動屋台。本物の料理とは程遠いな」
『(いきなり喧嘩を売られた?)』
常連の3人も困惑している。
「あの、どちら様ですか?」
ミラが恐る恐る聞く。
「私は王都『ゴールデンフォーク』の料理長よ」
アルフレッドが威張って答える。
「王都で最も格式の高いレストランで、貴族や王族の舌を満足させている一流料理人だ」
「すげー、王都の料理人なのか」
ガルドが驚く。
「でも、なんでこんな街まで?」
エリーが疑問を口にする。
「良い質問だ」
アルフレッドがニヤリと笑う。
「実は、最近王都で妙な噂が流れておってな」
『噂?』
「『地方の移動屋台が、王都の高級レストランより美味い料理を作る』という、実に馬鹿馬鹿しい噂だ」
アルフレッドが鼻で笑う。
「それも、『栄養がどうとか』『健康がどうとか』、料理の本質とは関係ない戯言を並べてな」
『(俺のことを言ってるのか...)』
「もちろん、そんな噂は嘘に決まっている。しかし、王都の料理界の名誉のためにも、事実を確認しに来たのだ」
アルフレッドが宣言する。
「そして、田舎の移動屋台などとは格が違うということを、思い知らせてやろうと思ってな」
『(完全に喧嘩を売られてる...)』
「ちょっと待ってくださいよ」
ミラが怒って立ち上がる。
「栄養キッチンカーさんの料理は本当にすごいんです!」
「そうだ!俺たちはみんな、この人の料理で人生が変わったんだ!」
ガルドも負けじと反論する。
「私たちの健康と美貌も、栄養キッチンカーさんのおかげですのよ!」
エリーも抗議する。
「ほほう、洗脳でもされているのか?」
アルフレッドが冷笑する。
「可哀想に。本物の料理を知らないから、こんな屋台料理に騙されるのだ」
『みなさん、大丈夫です』
俺が3人を制止する。
『アルフレッドさん、それで何をしに来られたんですか?』
「決まっている。料理対決だ」
アルフレッドが高らかに宣言する。
「私の本格フレンチ料理と、君の屋台料理。どちらが優れているか、白黒つけてやろう」
『料理対決...』
「もちろん、審査員は街の住民たちだ。彼らに、本物の料理の味を教えてやる」
アルフレッドが自信満々に言う。
「どうだ?受けて立つ勇気はあるか?」
周りに野次馬が集まってきた。
「料理対決だって?」
「王都の料理人vs栄養キッチンカー?」
「これは面白そうだ」
街の人々がざわめいている。
『(断ることもできるけど...)』
俺は少し考えた。
『(でも、俺の料理への誇りを否定されて、黙ってるわけにはいかない)』
『分かりました。お受けします』
「おお、やる気になったか」
アルフレッドが満足そうに笑う。
「では、明日の正午、街の中央広場で勝負だ」
『条件はありますか?』
「もちろんある」
アルフレッドが条件を述べる。
「制限時間2時間。材料費は無制限。審査員は街の住民50名」
『(材料費無制限...高級食材で攻めてくるつもりか)』
「そして勝利条件は、審査員の過半数の支持を得ることだ」
『分かりました』
「ふん、せいぜい足掻くがいい」
アルフレッドが馬車に戻る。
「明日、本物の料理というものを見せてやる」
馬車が去った後、3人が心配そうに俺を見る。
「大丈夫ですか?相手は王都の一流料理人ですよ」
ミラが不安そうに言う。
「あいつ、すげー感じ悪かったな」
ガルドが不快そうだ。
「でも、高級食材を使われたら...」
エリーも心配している。
『大丈夫です』
俺は3人に向かって微笑んだ。
『俺には、高級食材より大切なものがあります』
「大切なもの?」
『みんなの健康を思う気持ちと、これまで培ってきた栄養学の知識です』
俺は決意を固めた。
『それに、俺の料理を信じてくれる、みなさんがいます』
「栄養キッチンカーさん...」
『明日は、俺なりの料理で勝負します』
その日の夕方、街中で料理対決の話題で持ちきりになった。
「明日の料理対決、どっちが勝つかな?」
「王都の料理人は確かにすごそうだけど...」
「でも、栄養キッチンカーの料理で健康になった人もたくさんいるしな」
バジル博士も様子を見に来てくれた。
「明日の対決、聞いたぞ」
『博士...』
「心配することはない。君の料理の価値は、我々がよく知っている」
レオンギルドマスターも励ましに来てくれた。
「高級食材が全てではない。君の料理には、相手にはない『心』がある」
バルトも応援に駆けつけてくれた。
「栄養キッチンカーさん、私も全力でサポートします!」
みんなの応援が心強かった。
『(みんなが支えてくれている。絶対に負けるわけにはいかない)』
その夜、俺は明日の料理について考えた。
『(相手は高級食材と技術で勝負してくる。でも、俺には俺の戦い方がある)』
『(栄養バランス、健康への配慮、そして何より、食べる人への愛情)』
『(これが俺の料理の本質だ)』
翌朝、中央広場には大勢の人が集まっていた。
「いよいよ料理対決だ!」
「どっちが勝つかな?」
アルフレッドも既に準備を終えていた。
「さあ、始めようか。君の敗北を、皆に見せつけてやる」
俺は深呼吸をして、調理台に向かった。
『(さあ、勝負だ。俺の料理への想いを、全部ぶつけてやる)』
王都の高級料理人vs地方のキッチンカー。
世紀の料理対決が、今始まろうとしていた。