第25話「みんなで一緒に食べる食事が一番おいしい」
異世界キッチンカー生活、気持ち25日目の夕方。
バルトとの協力関係も軌道に乗り、街の食環境は日に日に改善されている。そんな充実した一日の終わり、俺は営業を終えて片付けをしていた。
『(今日も一日、お疲れ様でした)』
そんな時、常連の3人がやってきた。
「栄養キッチンカーさん、お疲れ様です!」
ミラが元気よく挨拶してくる。
「今日も大盛況だったな」
ガルドも満足そうだ。
「バルト商会の食材、本当に新鮮で美味しいですわね」
エリーも嬉しそうに言う。
『みんな、今日もありがとうございました』
俺が感謝を込めて答えると、ミラが提案した。
「そうだ!今日はみんなで一緒に夕食を食べませんか?」
『一緒に夕食?』
「はい!いつも私たちは食べて帰るだけですけど、たまにはゆっくりお話ししながら食事したいです」
ミラの提案に、ガルドとエリーも賛成する。
「それいいな!俺も栄養キッチンカーと一緒に食べてみたい」
「私も賛成ですわ!まるで家族のような時間を過ごしたいですわね」
『(家族のような...)』
その言葉に、俺の胸が温かくなった。
『もちろんです!今日は特別に、みんなでゆっくり食事しましょう』
「やったー!」
ミラが嬉しそうに手を叩く。
俺は4人分の特別な夕食を作り始めた。
『今夜は「絆深まる団らんディナーセット」を作りますね』
「団らんディナー!素敵な名前ですわ」
エリーが微笑む。
メインは大きなローストチキン。みんなで取り分けて食べられるように。サイドには色とりどりの野菜グリル、ふわふわのパン、そして温かいコーンスープ。
『完成です!』
テーブルに料理を並べると、まるで家族の食卓のようになった。
「うわあ、豪華ですね!」
「すげー!こんな立派な夕食、久しぶりだ」
「まるでお祭りみたいですわ」
4人でテーブルを囲んで座る。俺にとって、こんな風にみんなで食事をするのは...
『(前世では、一人でコンビニ弁当ばかり食べてたな)』
ふと、前世のことを思い出した。
毎日残業で帰りは深夜。コンビニで弁当を買って、一人でテレビを見ながら食べる。味なんてよく分からないまま、ただお腹を満たすためだけの食事。
誰かと一緒に食べることなんて、ほとんどなかった。
『(でも今は...)』
「栄養キッチンカーさん、どうしたんですか?ぼーっとして」
ミラが心配そうに声をかけてくる。
『あ、すみません。ちょっと昔のことを思い出してて』
「昔のこと?」
『前世...じゃなくて、以前は一人で食事することが多くて』
俺が説明すると、3人が驚いた顔をする。
「一人で食事?寂しくなかったんですか?」
ミラが心配そうに聞く。
『その時は、それが普通だと思ってました。でも今、みんなと一緒に食べてると...』
俺は素直な気持ちを話した。
『こんなに温かくて、楽しくて、美味しいものなんだって分かりました』
「栄養キッチンカーさん...」
「確かに、一人で食べる食事と、みんなで食べる食事は全然違うよな」
ガルドが同意する。
「俺も昔は一人で肉ばかり食ってたけど、栄養キッチンカーやみんなと出会ってから、食事の楽しさを知った」
「私もですわ」
エリーも振り返る。
「スイーツばかり食べて、一人でお茶をしていた頃は、今思えばとても寂しかったですわ」
「私なんて、乾パンを一人でかじってるだけでした」
ミラも当時を思い出している。
「でも、栄養キッチンカーさんに出会って、みんなと出会って...」
ミラが続ける。
「食事って、ただお腹を満たすだけじゃないんだって分かりました」
『そうですね』
俺も深く頷く。
『一緒に食べる人がいると、同じ料理でも何倍も美味しく感じます』
「そうそう!」
ガルドが大きく頷く。
「それに、話しながら食べると楽しいしな」
「お話も食事の大切な調味料ですわね」
エリーが上品に微笑む。
俺たちは料理を取り分けながら、いろんな話をした。
「栄養キッチンカーさんの故郷って、どんなところなんですか?」
ミラが興味深そうに聞く。
『故郷か...遠いところですね』
俺は前世のことを思い浮かべながら答えた。
『とても忙しい街で、みんな急いで生きてました』
「急いで生きる?」
『そうです。時間に追われて、食事も仕事も、全部急いで済ませる感じでした』
「それは大変そうですね」
ミラが同情してくれる。
『でも、こっちに来て分かったんです。急がなくても、みんなで一緒にいる時間の方が大切だって』
「俺たちも、栄養キッチンカーに出会えて本当に良かった」
ガルドが感謝を込めて言う。
「健康になれただけじゃなくて、大切な仲間もできた」
「本当ですわ。私たちは運命の出会いをしたのですわね」
エリーも嬉しそうだ。
『俺の方こそ、みんなに出会えて人生が変わりました』
俺は心からの気持ちを伝えた。
『前世では、誰かのために料理を作ったことなんてなかった。でも、みんなの笑顔を見てると...』
「見てると?」
『生きてて良かったって思えるんです』
俺の言葉に、3人の目に涙が浮かんだ。
「栄養キッチンカーさん...」
「俺たちも同じ気持ちだ」
「私たちにとっても、栄養キッチンカーさんは大切な家族ですわ」
その時、外から声が聞こえてきた。
「栄養キッチンカーさーん!」
声の主は、バジル博士だった。
『博士、どうされましたか?』
「実は、君たちが楽しそうに食事をしているのが見えてな」
博士が微笑む。
「私も混ぜてもらえないかの?」
『もちろんです!』
すぐに博士の分も用意した。
「こうして大勢で食べる食事は、格別じゃな」
博士も嬉しそうだ。
続いて、レオンギルドマスターも通りかかった。
「おや、楽しそうな食事会だな」
『ギルドマスターもいかがですか?』
「それでは、遠慮なく」
気がつくと、テーブルには6人が座っていた。
「まるで大家族みたいですわね」
エリーが幸せそうに言う。
「そうだな。家族って、血のつながりだけじゃないんだな」
ガルドがしみじみと言う。
『本当ですね』
俺も同感だった。
『みんなで一緒にいると、心から安心できます』
「それは君が、みんなを大切に思っているからじゃ」
博士が優しく言う。
「君の温かい心が、みんなを引き寄せるのじゃろう」
「私たちも、栄養キッチンカーさんを大切に思ってますから」
ミラが微笑む。
「これからもずっと、一緒ですからね」
その夜、みんなで3時間も話し続けた。
料理の話、冒険の話、夢の話、そして他愛もない日常の話。
どんな話でも、みんなで聞くと楽しくて、温かくて、心に残った。
『(これが幸せってことなんだな)』
俺は改めて実感した。
お金や名声よりも、こうしてみんなで過ごす時間こそが、一番の宝物なのだと。
夜も更けて、みんなが帰っていく。
「今日は本当に楽しかったです」
ミラが名残惜しそうに言う。
「また今度も、みんなで食事しような」
ガルドが提案する。
「ぜひですわ!定期的に開催しましょう」
エリーも賛成する。
『もちろんです。いつでも歓迎します』
一人になった俺は、テーブルの片付けをしながら考えていた。
『(前世では、毎日同じことの繰り返しで、何のために生きてるのか分からなかった)』
『(でも今は違う。みんなの笑顔のために、みんなの健康のために生きてる)』
『(そして、みんなが俺を必要としてくれる)』
それは、前世では決して味わえなかった充実感だった。
『(人は一人では生きていけない。でも、大切な仲間がいれば、どんなことでも乗り越えられる)』
俺は改めて仲間の大切さを実感していた。
翌日、俺のキッチンカーには新しい看板が掲げられていた。
『みんなで食べる食事が一番美味しい
~仲間との絆が最高の調味料~
今日も皆様と素敵な食事時間を』
この看板を見た人々が、温かい笑顔を浮かべる。
「確かに、一人で食べるより、みんなで食べる方が美味しいよね」
「家族や友達と一緒の食事って、特別だもんな」
バルト商会との協力も順調で、街の食環境はますます改善されている。
でも、俺にとって一番の宝物は、変わらずに常連客たちとの絆だった。
『(第2章も無事に終わったな。次はどんな挑戦が待ってるんだろう)』
俺の異世界キッチンカー生活は、仲間たちと共に、さらなる高みを目指していく。