第21話「ダンジョン攻略にも栄養学が重要だった」
異世界キッチンカー生活、気持ち21日目の朝。
レシピ本が大好評で、街中で栄養学への関心が高まっている。そんな中、俺のキッチンカーに見慣れない一団がやってきた。
「あの、栄養キッチンカーさんでしょうか?」
声をかけてきたのは、重装備に身を包んだ戦士だった。その後ろには魔法使い、僧侶、盗賊が続いている。典型的な4人パーティだ。
『はい、そうです』
「俺たちは『アイアンクロー』っていうパーティです」
戦士が自己紹介する。
「リーダーのボルトです。こちらは魔法使いのルナ、僧侶のセイン、盗賊のシャドウ」
『よろしくお願いします』
「実は相談があるんです」
ボルトが深刻な顔になる。
「俺たち、もう半年もA級ダンジョン『深淵の塔』に挑戦してるんですが、どうしてもクリアできなくて」
『A級ダンジョンですか...』
A級は上級冒険者でも苦戦するレベルだ。
「装備も戦術も完璧なはずなんですが、いつも後半でスタミナ切れを起こしてしまうんです」
「それで、栄養キッチンカーさんのレシピ本を読んで、もしかしたら食事に問題があるのかもと思って」
魔法使いのルナが補足する。
『なるほど。詳しくお聞かせください』
俺は彼らの食生活について詳しく調査した。
「普段の食事はどうされてます?」
「乾パンと燻製肉が中心です」
「ダンジョン攻略中は?」
「同じく乾パンと水だけ」
「攻略前の準備は?」
「特に何も...腹いっぱい食べるぐらいです」
『(これは...典型的な栄養管理不足だ)』
俺は彼らの問題点を分析した。
『皆さんの問題は、明らかに栄養管理にあります』
「やっぱりそうですか」
『まず、ダンジョン攻略は長時間の高強度運動です。適切な栄養戦略なしには成功できません』
俺は説明を始めた。
『攻略前、攻略中、攻略後、それぞれに最適な栄養摂取が必要なんです』
「具体的にはどうすれば?」
『実際に指導させていただきましょう。明日の攻略から、完全栄養サポートを提供します』
「本当ですか!?」
パーティメンバーが興奮する。
「ぜひお願いします!」
翌日、俺は『深淵の塔』の入り口で彼らを待っていた。
『おはようございます!今日から本格的な栄養サポートを開始します』
「よろしくお願いします!」
まず、攻略前の栄養チャージから始めた。
『これが「A級攻略専用パワーブレックファスト」です』
俺が特別に開発したメニューを提示する。
『消化の良い複合炭水化物でエネルギーを持続させ、高品質なタンパク質で筋力をサポート』
『さらに、集中力維持のためのオメガ3脂肪酸と、疲労回復のためのビタミンB群を完璧にバランスしました』
「すげー、科学的だ」
ボルトが感心している。
「これまでの適当な食事とは大違いですね」
ルナも驚いている。
食事を終えた彼らは、明らかに調子が良さそうだった。
「なんか、いつもより体が軽い」
「集中力も高まってる気がする」
『さらに、攻略中用の栄養補給セットもお渡しします』
俺は特製の携帯食品セットを手渡した。
『2時間おきに摂取してください。エネルギーレベルを一定に保てます』
「2時間おき?」
「今まで何も食べずに攻略してましたが...」
『それが問題なんです。人間の体は2-3時間でエネルギーが枯渇し始めます』
俺が詳しく説明する。
『定期的な栄養補給で、パフォーマンスを最大限に維持できるんです』
彼らがダンジョンに入っていくのを見送った後、俺は第3階層の休憩エリアで待機した。
2時間後、最初のチェックポイントで彼らと合流。
「栄養キッチンカーさん!」
ボルトが驚くほど元気な声で呼びかけてくる。
「いつもなら、この時点でもうヘトヘトなのに、今日は全然疲れてません!」
『栄養補給の効果ですね。どうぞ、2回目の補給を』
俺は温かいエネルギードリンクを提供した。
『筋肉の疲労を軽減し、集中力を回復させる特製ドリンクです』
「温かい...」
セインが感動している。
「ダンジョンで温かい飲み物なんて、初めてです」
4時間後、彼らはさらに深い階層からチェックインしてきた。
「信じられません!」
ルナが興奮している。
「いつもなら魔力切れで動けなくなる時間なのに、まだまだ余裕があります!」
『魔力回復に特化した栄養補給の効果ですね』
俺は彼女専用の魔力回復食品を提供した。
『脳のエネルギー源となるブドウ糖と、魔力生成に必要なアミノ酸を最適バランスで配合しています』
6時間後、ついに彼らは最深部からの連絡をしてきた。
「栄養キッチンカーさん!ボス戦開始前です!」
シャドウの声が魔法通信で聞こえる。
「信じられないことに、全員まだ余力があります!」
『素晴らしい!最後の栄養チャージをお送りします』
俺は特製の「ボス戦専用エネルギーパック」を魔法転送した。
『ボス戦用の超高濃度栄養補給です。最後の力を振り絞ってください!』
1時間後...
「やったああああ!!」
パーティの歓声が響く。
「クリアしました!ついにA級ダンジョンクリアです!!」
俺も嬉しくなった。
『おめでとうございます!』
攻略を終えて戻ってきた彼らは、疲れているはずなのに表情が明るかった。
「信じられません」
ボルトが感動している。
「半年間挑戦し続けて、ついに...」
「栄養管理の力、すごすぎます」
ルナも感激している。
「今までの俺たちは、武器や防具ばかり気にして、一番大切なことを忘れてました」
セインが振り返る。
「体こそが最高の武器だったんですね」
シャドウも同意する。
『皆さんが頑張ったからです』
俺は謙遜したが、内心では大きな手応えを感じていた。
『(栄養管理でダンジョン攻略成功率が向上することを実証できた)』
その日の夕方、アイアンクローの成功は街中の話題になった。
「あのアイアンクローが、ついにA級ダンジョンをクリアしたって?」
「栄養キッチンカーの食事指導のおかげらしいぞ」
「食事でそんなに変わるものなのか?」
翌日、俺のキッチンカーには多くのパーティが相談に来た。
「俺たちもA級攻略を目指してるんですが、食事指導をお願いできませんか?」
「B級ダンジョンで苦戦してます。栄養サポートしてください」
「パーティ全員の体力向上を図りたいんです」
俺は新しいサービスを開始することにした。
『【パーティ専用栄養指導プログラム】開始!』
大きな看板を掲げる。
『・事前体力測定・栄養状態分析』
『・個人別栄養プラン作成』
『・攻略前後の栄養サポート』
『・攻略中リアルタイム補給』
『・成果測定・改善指導』
「すげー本格的だ」
「これなら確実に強くなれそう」
1週間後、バジル博士が調査結果を持ってきた。
「君の栄養指導を受けたパーティの成功率を調べたが、驚くべき結果が出た」
『どのような結果ですか?』
「攻略成功率が平均40%向上している」
『40%も!』
「さらに、重傷者数は60%減少、攻略時間も平均30%短縮されている」
博士が興奮気味に説明する。
「これは学会でも発表したい数値じゃ」
レオンギルドマスターも視察に来た。
「君の栄養指導プログラム、ギルド全体で導入したい」
『ギルド全体で?』
「ああ。これだけ明確な効果があるなら、全冒険者に受けさせたい」
レオンが提案する。
「『栄養管理士』として、正式にギルドに所属してもらえないか?」
『栄養管理士...』
「もちろん、キッチンカーでの営業は続けてもらう。あくまで兼任だ」
これは大きな転機だった。
『(個人事業から、公的な立場に...)』
その夜、常連の3人が祝福に来てくれた。
「栄養管理士就任、おめでとうございます!」
ミラが嬉しそうに言う。
「すげーじゃないか!ギルド公認だぞ!」
ガルドも興奮している。
「私たちも誇らしいですわ」
エリーも微笑んでいる。
『みんなのおかげです』
俺は感謝を込めて答えた。
『最初のお客さんだったミラちゃん、筋肉改革を成し遂げたガルドさん、偏食を克服したエリーちゃん』
『みんなの成功があったから、今の俺があるんです』
「私たちも、栄養キッチンカーさんに出会えて人生が変わりました」
ミラが感動している。
「これからも、ずっと一緒ですからね」
『もちろんです!』
栄養学がダンジョン攻略に革命をもたらす。
俺の活動は、ついに公的な認知を得ることができた。
『(でも、これはまだ始まり。もっと多くの人を健康にしてやる!)』
バルト商会との戦いはまだ続いているが、俺には確固たる地位ができた。
ギルド公認の栄養管理士として、堂々と活動を続けていこう。