第20話「レシピ本を作って栄養知識を広めたい」
異世界キッチンカー生活、気持ち20日目の朝。
ダンジョン出張サービスが大好評で忙しい日々が続いているが、俺はふと考えていた。
『(俺が一人でできることには限界がある。もっと多くの人に栄養の知識を伝える方法はないかな?)』
そんな時、常連のエリーがやってきた。
「おはようございますわ!今日もとても良いお天気ですわね」
『おはようございます。エリーちゃん、ちょっと相談があるんです』
「相談?なんですの?」
『実は、レシピ本を作りたいと思ってるんです』
「レシピ本?」
エリーが首をかしげる。
『俺の栄養学の知識を、もっと多くの人に伝えたくて』
「まあ!素晴らしいアイデアですわね!」
エリーが目を輝かせる。
『でも問題があって...』
「問題?」
『俺、文字を書くのが苦手なんです』
俺は恥ずかしそうに白状した。
『料理は得意だけど、文章を書くのは...』
「それでしたら!」
エリーが手を挙げる。
「私がお手伝いしますわ!」
『本当ですか?』
「はい!私、文字を書くのは得意ですのよ」
エリーが自信満々に言う。
「魔法使いは呪文や魔法陣の文字をたくさん書きますから、美しい文字を書けるんですの」
『それは助かります!』
「それに、栄養キッチンカーさんのお料理で私はこんなに変われましたもの」
エリーが感謝を込めて言う。
「その恩返しもしたいですし」
『ありがとう、エリーちゃん!』
その時、ミラとガルドもやってきた。
「おはようございます!何か楽しそうな話をしてますね」
「俺たちも混ぜてくれ」
『実は、レシピ本を作ろうと思ってるんです』
「レシピ本!?」
ミラが驚く。
「すげー!本を出版するのか!」
ガルドも興奮している。
『エリーちゃんが文字書きを手伝ってくれることになりました』
「私たちも何かお手伝いできることありませんか?」
ミラが申し出る。
「俺は文字は書けないが、力仕事なら任せろ」
ガルドも協力的だ。
『みんな...ありがとう』
俺は胸が熱くなった。
『じゃあ、みんなで一緒にレシピ本を作りましょう!』
「やったー!」
「面白そうだ!」
「素敵ですわ!」
こうして、俺たちのレシピ本プロジェクトが始まった。
まず、どんな内容にするかを話し合った。
『基本的な栄養学の知識から始めて、簡単にできるレシピを紹介したいと思います』
「どんな人をターゲットにするんですか?」
ミラが聞く。
『主に冒険者ですが、一般の人でも理解できるように』
「冒険者向けの栄養学書籍って、今までなかったですよね」
エリーが指摘する。
「確かに。栄養なんて考えたことなかった」
ガルドが同意する。
『だからこそ、価値があると思うんです』
俺は構成を考え始めた。
『第1章:栄養学の基礎知識』
『第2章:職業別栄養管理』
『第3章:簡単レシピ集』
『第4章:食材の選び方と保存法』
『第5章:体調不良時の食事療法』
「すごく本格的ですわね」
エリーが感心している。
「俺たちの体験談も入れたらどうだ?」
ガルドが提案する。
「それいいですね!実際に効果があったって証明になります」
ミラも賛成する。
『それは素晴らしいアイデアです!』
早速、執筆作業を開始した。
俺が料理をしながら説明し、エリーが美しい文字で書き取っていく。
『まず、5大栄養素について説明しますね』
「はい、準備できましたわ」
『炭水化物は体のエネルギー源となります。特に脳にとっては唯一のエネルギー源で...』
「炭水化物は体のエネルギー源となり、特に脳にとっては唯一のエネルギー源で...」
エリーが流麗な文字で書いていく。
『エリーちゃん、字がすごくきれい!』
「ありがとうございますわ。魔法使いは文字の美しさも重要ですの」
午後になると、ミラが興味深い提案をしてくれた。
「あの、私の成長記録も書きませんか?」
『成長記録?』
「はい。最初の栄養失調状態から、中級冒険者になるまでの変化を」
「それは説得力がありそうだな」
ガルドが同意する。
「俺の脳筋改善記録も書こうか」
『みんなの体験談があれば、読者も信じてくれそうですね』
「私のスイーツ依存克服記録も入れましょう」
エリーも協力的だ。
夕方、バジル博士がやってきた。
「おや、何やら執筆作業をしているようだが?」
『博士!実は、レシピ本を作ってるんです』
「ほほう、それは素晴らしいアイデアじゃ」
博士が興味深そうに近づく。
「学術的な裏付けも必要じゃろう」
『学術的な裏付け?』
「栄養学の理論を、科学的に説明するのじゃ」
博士が提案する。
「私も協力させてもらえんかの?」
『ぜひお願いします!』
「では、魔法植物の栄養価についても詳しく書こう」
バジル博士の協力で、レシピ本はより専門性の高いものになった。
翌日、レオンギルドマスターも興味を示してくれた。
「レシピ本の話、聞いたぞ」
『ギルドマスター!』
「ギルドとしても、冒険者の健康管理は重要な課題だ」
レオンが説明する。
「君のレシピ本が完成したら、ギルド公認の教材として使いたい」
『ギルド公認!?』
「ああ。新人冒険者の必読書にしたいと思っている」
これは大きな後押しだった。
『(ギルド公認なら、多くの冒険者に読んでもらえる)』
1週間後、レシピ本の第1章が完成した。
「『冒険者のための栄養学入門』第1章:栄養学の基礎知識」
エリーが美しく書き上げた原稿を読み上げる。
「とても分かりやすく書けてますわね」
『エリーちゃんの文章力のおかげです』
「いえいえ、栄養キッチンカーさんの説明が上手だからですわ」
その時、街の印刷屋の親父がやってきた。
「噂を聞いてやってきたが、本当にレシピ本を作ってるのか?」
『はい、作ってます』
「それなら俺が印刷を引き受けよう」
印刷屋の親父が申し出てくれた。
「息子が冒険者でな、いつも君の料理でお世話になってる」
『それは...』
「恩返しさせてくれ。印刷代はサービスだ」
街の人々の協力で、プロジェクトは順調に進んでいく。
2週間後、ついにレシピ本の原稿が完成した。
「『冒険者のための栄養学入門~健康な体で理想の冒険者になろう~』」
エリーが完成した表紙を見せてくれる。
「全150ページの大作ですわ」
『みんなのおかげで、こんな立派な本ができました』
「私たちも勉強になりました」
ミラが感想を言う。
「俺も栄養のことがよく分かった」
ガルドも満足そうだ。
「このレシピ本で、多くの冒険者が健康になれますわね」
エリーも嬉しそうだ。
1ヶ月後、レシピ本が完成し、街の書店で販売開始された。
「『冒険者のための栄養学入門』新発売!」
「ギルド公認の栄養指導書!」
書店の前には長蛇の列ができた。
「ついに栄養キッチンカーのレシピ本が出たのか」
「これで家でも同じような料理が作れるな」
初日で100冊が完売した。
『(こんなに多くの人が興味を持ってくれるなんて)』
その夜、レシピ本の完成を祝って、みんなでお疲れ様会を開いた。
「本当にお疲れ様でした」
ミラが乾杯の音頭を取る。
「みんなで作り上げた最高の作品だ」
ガルドが嬉しそうに言う。
「私も文字書きのお手伝いができて嬉しかったですわ」
エリーも満足そうだ。
『みんなのおかげで、栄養の知識を多くの人に広めることができました』
俺は心から感謝していた。
『これで、俺が直接指導できない人たちにも、栄養の大切さを伝えられます』
レシピ本の成功は、俺の活動を新たなステージに押し上げてくれた。
個人指導から知識の普及へ。俺の使命は、さらに大きく広がっていく。
『(この本が、多くの人の健康に役立ってくれるといいな)』
バルト商会との戦いはまだ続いているが、俺には新しい武器ができた。
知識の力。これこそが、最も強力な武器かもしれない。