第15話「常連客が助けに来てくれて涙腺崩壊」
異世界キッチンカー生活、気持ち15日目の朝。
個別対応サービスを始めてから数日、確実に常連客の満足度は上がっているが、新規客の増加はまだ緩やかだった。
『(口コミが広まるには、もう少し時間がかかるかな)』
そんな朝、いつものようにミラがやってきた。しかし、今日は一人ではなかった。
「おはようございます!今日は友達を連れてきました!」
ミラの後ろには、見慣れない弓使いの少女が2人いた。
「こちらリンちゃんとサラちゃん。同じ弓使いパーティの仲間です」
『はじめまして』
「はじめまして!ミラからいつも話を聞いてて、すごく興味があったんです」
リンが興味深そうに俺のキッチンカーを見回している。
「ミラったら、毎日『栄養キッチンカーさんが』『栄養キッチンカーさんが』って」
サラが苦笑いしながら言う。
「もう、話を聞かない日はないくらい」
「だって本当にすごいんですもん!」
ミラが照れながら反論する。
「体調は良くなるし、レベルは上がるし、お肌もつやつやになるし!」
『(ミラちゃん、そんなに宣伝してくれてたのか)』
「それで、私たちも気になっちゃって」
リンが言う。
「最近、集中力が続かなくて、弓の精度が下がってるんです」
「私は疲れやすくて、長時間のクエストがきついんです」
サラも相談してくる。
『分かりました。お二人それぞれに最適なメニューをご提案しますね』
俺は2人の症状を詳しく聞いて、個別のプランを作成した。
『リンさんには集中力向上の「フォーカスブレックファスト」を』
『サラさんには持久力アップの「エンデュランスモーニング」をお作りします』
「わあ、本当に個別対応してくれるんですね」
「ミラの言ってた通りだ」
その時、今度はガルドが仲間を連れてやってきた。
「よお、栄養キッチンカー!今日は戦士仲間を連れてきたぞ!」
ガルドの後ろには、屈強な戦士が3人いた。
「こいつらがいつも話してる栄養キッチンカーか」
「ガルドが『筋肉が進化した』って毎日自慢するもんだから、俺たちも気になってな」
『(ガルドさんも宣伝してくれてたのか)』
「こいつ、最近本当に強くなったんだ。持久力も筋力も段違い」
「それで秘密を聞いたら、『栄養だ!』の一点張りでさ」
戦士たちが興味深そうに俺を見る。
「俺たちにも筋肉強化メニュー、頼む!」
『もちろんです。皆さんそれぞれの戦闘スタイルに合わせてお作りします』
続いて、エリーも魔法使い仲間を連れてきた。
「皆さん、こちらが私がいつもお話ししている栄養キッチンカーさんですわ」
上品な魔法使いの女性が3人、エリーに続いてやってきた。
「エリー、本当に最近美しくなったわよね」
「魔力も安定してるし、何か秘密があるのかと思ってたの」
「それがこちらの栄養キッチンカーさんのおかげですのよ」
エリーが誇らしげに言う。
「食事だけでそんなに変わるものなの?」
「信じられないわ」
『実際に体験していただければ分かります。お一人お一人に最適なメニューをご提案しますよ』
気がつくと、俺のキッチンカーの周りには常連客が連れてきた友人たちで大賑わいになっていた。
『(みんな、こんなにも宣伝してくれてたなんて...)』
午前中だけで、普段の倍以上の客が来てくれた。しかも、全員が「常連からの紹介」だった。
「ミラが『絶対に来た方がいい』って強く勧めるから」
「ガルドがあまりにも変わったから、俺も試してみたくて」
「エリーの美しさの秘密を知りたくて」
口コミの力を実感した。
昼時、さらに驚くべきことが起こった。
「栄養キッチンカーさん!」
街の向こうから手を振りながら走ってくるのは...
「バジル博士?どうされたんですか?」
「実は、魔法植物学会の仲間たちに君の料理を紹介したくてな」
博士の後ろには、白衣を着た学者らしき人々が続いてきた。
「君の魔法植物料理は学術的にも価値が高い。同僚たちがぜひ試してみたいと」
『(博士まで宣伝してくれてたのか!)』
夕方、レオンギルドマスターもやってきた。
「君のところが大盛況だと聞いて、様子を見に来た」
『おかげさまで、たくさんの方に来ていただいています』
「実は私も、他のギルドマスターたちに君のことを話したのだ」
『他のギルドマスターに?』
「隣町のギルドマスターが『冒険者の健康管理に悩んでいる』と相談してきてな」
レオンが説明する。
「君の取り組みを紹介したところ、ぜひ視察したいと言っている」
『(こんなにも多くの人が俺のことを...)』
その時、俺は気づいた。今日来てくれた新規客たちが、みんな満足そうな顔をしていることに。
「本当にミラの言った通りだった」
「こんなに体調が良くなるなんて」
「個別対応してくれるのが嬉しい」
新規客たちも、もう常連の仲間入りをしそうな勢いだった。
営業終了後、常連の3人が俺のところにやってきた。
「今日はすごかったですね!」
ミラが嬉しそうに言う。
「私の友達も『絶対にまた来る』って言ってました」
「俺の戦士仲間も大満足だった」
ガルドも笑顔だ。
「『今まで食べた中で最高の戦士メニュー』だって」
「私の魔法使い仲間も感動してましたわ」
エリーも満足そうだ。
「『エリーの美しさの秘密が分かった』って」
『みんな...』
俺は胸が熱くなってきた。
『みなさんが、こんなにも宣伝してくださってたなんて...』
「当然ですよ!」
ミラが力強く言う。
「栄養キッチンカーさんには、本当にお世話になってますから」
「そうだ!俺たちがここまで成長できたのは、栄養キッチンカーのおかげだ」
ガルドも同調する。
「私たちが元気になったのを見て、みんな興味を持ってくれましたの」
エリーも微笑む。
「だから、友達にも同じように元気になってもらいたくて」
『(みんな、俺のためじゃなく、友達のことを思って宣伝してくれてたのか)』
「でも、それだけじゃないんです」
ミラが真剣な顔になる。
「栄養キッチンカーさんが、バルト商会に負けないでほしいんです」
「そうだ!あんな悪徳商会に負けるわけにはいかない」
ガルドも拳を握る。
「私たちは栄養キッチンカーさんの味方ですもの」
エリーも決意を込めて言う。
『みなさん...』
俺の目に涙が浮かんできた。
『(こんなにも温かい人たちに支えられてたなんて...)』
「栄養キッチンカーさん?泣いてるんですか?」
ミラが心配そうに言う。
『嬉し涙です』
俺は素直に気持ちを伝えた。
『前世...じゃなくて、以前は誰かに応援してもらった経験がなくて』
「前世?」
「まあいいや、続けて」
『でも、みなさんがこんなにも支えてくれて...本当に幸せです』
「私たちも幸せですよ」
ミラが微笑む。
「栄養キッチンカーさんに出会えて、人生が変わりました」
「俺もだ。こんなに仲間に恵まれるなんて思わなかった」
ガルドも感慨深げに言う。
「私たちは家族のようなものですわね」
エリーの言葉に、みんなが頷く。
『(家族...そうだ、みんな俺の大切な家族だ)』
その時、俺は改めて実感した。商売の成功よりも、お金よりも、何よりも大切なものを手に入れていることを。
『(仲間がいる。支えてくれる人たちがいる。これ以上の宝物はない)』
「明日も頑張りましょうね」
ミラが言う。
「もちろんだ!俺たちがついてる!」
ガルドが力強く答える。
「みんなで栄養キッチンカーさんを支えますわ」
エリーも決意を込めて言う。
翌朝、俺のキッチンカーには新しい看板が追加されていた。
『皆様の温かいご支援に心から感謝
~お客様との絆が私たちの宝物です~』
この看板を見た通りすがりの人々が、興味深そうに足を止める。
「なんか温かい雰囲気の店だな」
「お客さんとの絆を大切にしてるのか」
その日、俺のキッチンカーには今まで以上にたくさんの客が来てくれた。常連が連れてきた友人、その友人がまた連れてきた仲間...
口コミの輪は確実に広がっていた。
『(みんなの支えがあれば、どんな困難も乗り越えられる)』
バルト商会との戦いはまだ続くだろう。でも、俺にはこんなにも素晴らしい仲間たちがいる。
一人じゃない。みんなと一緒なら、絶対に負けない。
『(ありがとう、みんな。俺も精一杯、みんなの期待に応えるからな!)』
仲間の大切さを改めて実感した俺は、今日も心を込めて料理を作り続けた。