第14話「値段じゃない、愛情で勝負です」
異世界キッチンカー生活、14日目の朝。
激安食堂の撤退から一夜明け、俺は新しい戦略を考えていた。
『(価格競争じゃ勝てない。でも、俺にしかできないことがあるはず)』
そんな時、常連のミラがいつもより早くやってきた。
「おはようございます!今日も朝食お願いします!」
『おはようございます。今日も元気ですね』
「はい!でも実は...昨日から少し体調が気になってて」
『どんな感じですか?』
「なんだか疲れやすくて、集中力も続かないんです」
『(これは...栄養バランスを調整する必要があるかも)』
俺はミラの顔色や様子を注意深く観察した。
『(少し顔色が悪い。それに、目の下にうっすらクマがある)』
『ミラさん、最近のお食事内容を詳しく教えてもらえますか?』
「え?でも、毎日ここで食べてますよ?」
『ここ以外での食事です。間食や夜食も含めて』
「あ...実は、クエストが忙しくて、夜遅くに乾パンを食べることが多くて...」
『(やっぱりか。ここでの栄養補給だけじゃ足りないんだ)』
『分かりました。ミラさん専用の体調改善プログラムを作らせてください』
「専用プログラム?」
『はい。お食事だけでなく、生活習慣全体をサポートします』
俺は新しいアイデアを実行に移すことにした。
『(個別対応とアフターケア...これが俺の新戦略だ)』
まず、ミラ専用の「体調管理ノート」を作成した。
『これにミラさんの体調や食事内容を記録していきます』
「わあ、私だけのノート!」
『毎日の体調チェックと、適切なメニューの提案をさせていただきます』
さらに、ミラの現在の症状に合わせて特別メニューを作成。
『今日は鉄分とビタミンB群を強化した「疲労回復スペシャル」をお作りします』
「私のためだけに...ありがとうございます!」
調理中、俺はミラに生活習慣についてアドバイスした。
『夜遅い食事は消化に負担をかけます。代わりに、これをお渡しします』
俺は特製の栄養補助食品を手渡した。
『これは携帯用の栄養バー。クエスト中の小腹満たしに最適です』
「手作りの栄養バー!?すごい!」
『ミラさんの体質と活動量に合わせて作りました』
その様子を見ていた他の客たちが興味深そうに見ている。
「すげー、完全に個人対応じゃないか」
「俺にもそんなサービスしてくれるのか?」
『もちろんです!お一人お一人に最適なサービスを提供させていただきます』
次に来たのはガルドだった。
「おお、今日も筋肉強化メニューを...って、なんだ?ミラが持ってるそれ」
「栄養バーですって!私専用の!」
「専用だと!?俺にも作ってくれ!」
『ガルドさんの場合は...』
俺はガルドの体型と戦闘スタイルを分析した。
『筋力はあるのに持久力が不足気味ですね。戦闘後の回復も遅い』
「そうなんだよ!よく分かるな!」
『ガルドさんには「戦士専用リカバリープログラム」をご提案します』
「リカバリープログラム?」
『戦闘前の栄養チャージ、戦闘中の持久力維持、戦闘後の疲労回復』
俺は詳細な説明をしながら、ガルド専用のメニューセットを作成した。
『これが戦闘前の「パワーチャージセット」』
高エネルギーで消化の良い食材を組み合わせた軽食だ。
『こちらが戦闘中用の「スタミナドリンク」』
電解質とアミノ酸を豊富に含んだ特製ドリンク。
『そして戦闘後の「マッスルリカバリーミール」』
筋肉の修復に必要な栄養素を完璧にバランスした食事。
「うおお!完璧すぎる!」
ガルドが感動している。
『さらに、ガルドさん専用の筋力測定も定期的に行います』
「筋力測定?」
『栄養改善の効果を数値で確認できます。モチベーション向上にも効果的です』
「それはすげー!やる気出てきた!」
続いてエリーもやってきた。
「あら、皆さんなんだかとても嬉しそうですわね」
「エリーちゃん!俺、専用プログラム作ってもらったんだ!」
「専用プログラム?まあ、素敵ですわね」
『エリーさんにも「美魔女トータルケアプログラム」をご用意しました』
「美魔女トータルケア!?」
『美容と魔力向上を同時に実現する総合プログラムです』
俺はエリー専用のプランを説明した。
『朝は美肌効果重視の「モーニンググロウセット」』
抗酸化作用の高い食材で肌の調子を整える朝食。
『昼は魔力安定化の「マジカルランチ」』
集中力と魔力の持続性を高める昼食。
『夜は美容成分たっぷりの「ビューティーディナー」』
睡眠中の肌再生をサポートする夕食。
「まあ!一日中美しくなれるプログラムですのね!」
『さらに、美容効果の経過も記録していきます』
「記録?」
『肌の調子、髪の艶、魔力の安定度など、定期的にチェックして改善点を見つけます』
「素晴らしいですわ!まさに夢のようなサービス!」
3人の個別対応を見ていた他の客たちが、続々と相談に来始めた。
「俺は盗賊なんだが、夜目が利かなくて困ってる」
「私は僧侶です。声がかすれやすいのが悩みで...」
「戦士だけど、反射神経を上げたい」
俺は一人一人の話を丁寧に聞いて、それぞれに最適なプランを提案した。
『(これだ。一人一人と向き合って、その人だけのサービスを提供する)』
午後になると、俺は新しいサービスを開始した。
『本日より「栄養相談・アフターケアサービス」を開始します!』
「アフターケアサービス?」
『お食事後の体調変化を追跡調査し、継続的にサポートいたします』
俺は具体的なサービス内容を説明した。
『・食事後の体調チェック(30分後、2時間後、翌日)』
『・個別の栄養カウンセリング』
『・生活習慣改善アドバイス』
『・専用メニューの継続改良』
『・健康状態の定期測定』
「すげー!至れり尽くせりじゃないか!」
『さらに、常連様には「健康ダイアリー」をプレゼントします』
俺は手作りの健康記録ノートを見せた。
『毎日の体調、食事内容、運動量などを記録できます』
「手作りのノート...すごく丁寧ですね」
『お客様一人一人の健康が、私の最大の喜びですから』
その時、バジル博士がやってきた。
「ほほう、なかなか面白いサービスを始めたな」
『博士、どう思われますか?』
「素晴らしいアプローチじゃ。これこそ真の『ホスピタリティ』というものだ」
博士が感心している。
「大手商会には絶対に真似できないサービスじゃ」
『ありがとうございます』
「量より質、価格より価値。君の戦略は正しい」
夕方、レオンギルドマスターも視察に来た。
「君の新サービス、街中で話題になっているぞ」
『本当ですか?』
「『一人一人を大切にしてくれる店』として、非常に高く評価されている」
レオンが嬉しそうに言う。
「特に、アフターケアサービスは画期的だ。食べて終わりではなく、その後も責任を持つ姿勢が素晴らしい」
『お客様の健康が第一ですから』
「このサービスレベルは、王都の高級レストランでも見たことがない」
その夜、常連の3人が一日の感想を聞かせてくれた。
「今日のサービスは本当にすごかったです!」
ミラが興奮気味に言う。
「私だけのプログラムなんて、夢みたいです」
「俺も戦士プログラム、すげー気に入った!」
ガルドも満足そうだ。
「私のビューティープログラムも完璧ですわ!」
エリーも笑顔だ。
『皆さんに喜んでもらえて、本当に嬉しいです』
「でも、こんなに手厚いサービス、大変じゃないですか?」
ミラが心配してくれる。
『確かに手間はかかりますが、皆さんの笑顔を見ていると全然苦になりません』
「そういえば、今日は新しいお客さんもたくさん来てましたね」
「みんな『個別対応してくれる』って聞いて、興味を持ったみたい」
『(口コミ効果も出てるな)』
「栄養キッチンカーさんのサービスって、他では絶対に受けられませんもの」
エリーが言う。
「チェーン店みたいな画一的なサービスじゃなくて、一人一人に合わせてくれるのが嬉しい」
『それが俺の目指すサービスです』
俺は改めて決意を固めた。
『(価格じゃない。規模じゃない。一人一人への愛情とケア。これが俺の武器だ)』
バルト商会のような大手には資金力や規模では勝てない。でも、個人店だからこそできるきめ細かいサービスがある。
『(お客さん一人一人の顔を覚えて、その人だけのメニューを作る。これは大手には絶対に真似できない)』
翌日の朝、俺のキッチンカーには新しい看板が掲げられていた。
『お客様一人一人に寄り添う
完全個別対応サービス
~あなただけの健康プログラム~』
この看板を見た通りすがりの人々が興味深そうに足を止める。
「個別対応か...面白そうだな」
「自分だけのメニューって、なんか特別感があるね」
価格競争から個別対応へ。俺の新戦略が、今日も多くの人々の心を掴んでいく。
『(愛情のこもったサービスなら、絶対に負けない!)』