表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/50

第1話「死んでもコンビニ弁当は卒業できませんでした」


 俺の名前は田中健太、29歳。ブラック企業で働く典型的な社畜だった。


 過去形なのは、ついさっき死んだからだ。


『(えーっと、これ夢だよな?夢だと言ってくれ...)』


 目の前に広がるのは、見たことのない街並み。石造りの建物が立ち並び、剣と魔法の世界みたいな格好をした人々が歩いている。そして俺自身は...


『(なんで俺、車なんだよ!しかもキッチンカー!?)』


 そう、俺は四輪の移動販売車になっていた。鏡で確認した自分の姿は、見覚えのあるキッチンカーそのもの。前世でよく昼食を買っていた、あのタコス屋台とそっくりだった。


「おお、新しい移動商店か?」


 通りすがりの冒険者らしき男が興味深そうに俺を見ている。筋骨隆々で、大きな剣を背負っている典型的な戦士タイプだ。


『(話しかけられた!どうしよう、返事できるのか?)』


 試しに意識を集中してみると、俺の車体についているメニュー看板が光った。


『本日のおすすめ:???』


「ほう、魔法で動く看板か。珍しいな」


 男は感心したように頷いている。どうやら文字を表示することで意思疎通ができるらしい。


『(とりあえず何か作れるのか確認してみよう)』


 車体の内部に意識を向けると、なぜか調理器具の使い方が頭に入ってくる。冷蔵庫、コンロ、フライパン...全部使える。そして食材も豊富に揃っている。


『(すげー、本格的なキッチンじゃん。でも何を作ればいいんだ?)』


 その時、俺の前をフラフラと歩く少女の姿が目に入った。


 栗色の髪をポニーテールにまとめた16歳くらいの少女。弓を背負っているから冒険者なんだろうが、顔色が悪い。というか明らかに栄養失調だ。


『(うわあ、あの子やばくない?頬がこけてるし、歩き方もフラフラしてる)』


 少女は俺の前で立ち止まると、メニュー看板を見上げた。


「移動商店...か。でも、どうせ高いんだろうなあ」


 ため息をつきながら、懐から小さな袋を取り出す。中身を確認して、さらに深いため息。


「乾パンと水で今日も我慢するしかないか...」


『(ちょっと待て!乾パンと水だけ!?それ確実に栄養失調コースじゃん!)』


 前世で健康診断に引っかかった俺は、一時期栄養学にハマったことがある。その知識から見ても、少女の食生活は危険すぎる。


『(タンパク質、ビタミン、ミネラル...全部足りてない。このままじゃ体力も免疫力も落ちて、ダンジョンで死ぬぞ)』


 気がつくと、メニュー看板に文字が浮かんでいた。


『本日の学割メニュー:栄養バランス定食 50コッパー』


 少女の目が見開かれる。


「え!?50コッパー!?そんな安い食事があるの!?」


『(あ、勝手に体が動いた。でも50コッパーって安いのか?)』


 少女が慌てて袋の中身を数える。


「50コッパー...ぎりぎりある!お、お願いします!」


『(よし、作るぞ!でも何作ればいいんだ?栄養バランスの良い定食って...)』


 そんな俺の迷いをよそに、体は勝手に動き始めた。まるで何年も料理をしているかのように、手際よく食材を切り、調理していく。


『(おお、すげー!体が勝手に覚えてる!)』


 15分後、できあがったのは見事な定食だった。


 メインは鶏肉のソテー。タンパク質豊富で消化も良い。付け合わせには緑黄色野菜の炒め物。ビタミンとミネラルを補給できる。ご飯は雑穀米で食物繊維もばっちり。そして具だくさんの味噌汁でさらなる栄養補給。


「うわあ...すごい、こんな豪華な食事...」


 少女の目がキラキラと輝いている。俺も思わず胸が熱くなった。


『(よし、これで栄養失調は回避だ!)』


 少女は恐る恐る箸を取ると、まず鶏肉を一口。


「!!!」


 その瞬間、少女の表情が一変した。


「おいしい...こんなにおいしい食事、初めて...」


 涙を浮かべながら、がつがつと食べ始める。その様子を見ていると、なんだか嬉しくなってきた。


『(うん、やっぱり人においしいものを食べてもらうのっていいな)』


 完食した少女は、満足そうにお腹をさする。


「ごちそうさまでした!体の奥から力が湧いてくる感じがします!」


『(そりゃそうだ。栄養バランス考えて作ったからな)』


 少女は50コッパーを支払うと、名前を教えてくれた。


「私、ミラです。ミラ・フォレスト。新人冒険者です!」


『(ミラちゃんか。可愛い名前だな)』


 メニュー看板に文字を表示する。


『ありがとうございました。また来てください - 栄養キッチンカー』


「栄養キッチンカー...面白い名前ですね!また絶対来ます!」


 手を振りながら去っていくミラ。その後ろ姿は、さっきよりもしっかりとしているように見えた。


『(よし、これで一安心...って、あれ?なんか体に変化が?)』


 ミラが満足してくれたおかげか、俺の体に新しい機能が追加されたような感覚がある。


『調理レベルが上がりました。新メニューを覚えました:野菜炒め定食』


『(おお!ゲームみたいにレベルアップするのか!これは面白いぞ!)』


 その時、俺の前に大柄な戦士が現れた。さっき俺を見ていた男だ。


「おい、さっきの嬢ちゃんが食ってたやつ、俺にも作ってくれるか?」


『(お、2人目のお客さんだ!)』


 男の体格を見ると、筋肉質で体脂肪率は低そう。でも明らかにタンパク質に偏った食事をしているタイプだ。


『(この人には炭水化物多めで、疲労回復効果のあるビタミンB群を...)』


 メニュー看板に表示する。


『本日のおすすめ:スタミナ回復定食 80コッパー』


「スタミナ回復?面白いじゃないか!頼む!」


『(よし、今度はスタミナ重視で作ってみよう!)』


 こうして俺の異世界キッチンカー生活が始まった。


 前世では毎日コンビニ弁当ばかり食べていた俺が、今度は人に栄養のある食事を提供する側になるなんて、人生(?)わからないものだ。


『(でも悪くないな、この生活。みんなにおいしいものを食べてもらって、健康になってもらえるなら...)』


 夕日が街を染める中、俺は明日からの営業に向けて準備を始めた。この異世界で、俺なりの方法で人々の役に立ってみせる。


 栄養バランスの力で、冒険者たちを支えてやるんだ!


『(よし、明日はもっとたくさんのお客さんに来てもらうぞ!)』


 こうして、史上最も健康志向なキッチンカーの冒険が始まったのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
乾パンって一応ビタミンミネラル入ってるはずだから栄養失調ギリギリなんてならないはずだけど。 主人公も、いきなり来た世界を受け入れすぎてて人間味なさすぎる。 それに主人公は読者への解説以外何もしてないじ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ