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無職のおっさん、幼女にTSして悪役令嬢とダンジョン最下層を目指す  作者: 芥部


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第99話 間話10:ファビエ・ド・ラ・テオネリア


 ファビエ・ド・ラ・テオネリアという人物がいる。


 惑星テオネリアの王家の第一王子であり、自称王位継承者であり、一応王位継承者ということになっている男だ。


 薄い水色の髪に水色の切れ長で優しげな瞳。

 高い上背で姿勢も良い。誰が見ても外見だけは評価する男、それがファビエだった。


 彼には三人姉がいる。二人は民間に降嫁し、一人はまだ王籍にあり、世間一般での評価は圧倒的に王位を継承すべきは三番目の姉である、という声が大きい。


 第三王女は高い知性と高潔な人格、そしてスキル力……地球で言うなら魔力を持ち合わせており、王女としてだけではなく星間法務庁の次官としても辣腕を発揮するなど多彩な能力を持ち合わせていた。


 第三王女の趣味は仕事であり、半ばワーカホリックとも言えるほど仕事に打ち込んでいた。

 国民の規範として働く有能で美しい第三王女は誰もが褒め称える存在だった。


 それがファビエには気に食わなかった。


 仕事に打ち込んでいると言っても、どうせお飾りで見えるところだけ自分でやっているに違いないはずだ。姉と自分は同じ教育を受けた。

 なので、出来ることの範囲はさほど変わらないはずだからだ。


 ファビエは王族の義務として、公務員の試験を受けた。王以外の王族は王家以外の場所と国民の実情を知るべしというしきたりがあったからである。


 中でも入庁難易度が高いとされる省庁のうち、星間法務庁と内務庁の入庁試験を受け、内務庁には高い成績で合格したが、星間法務庁には合格できなかった。


 ファビエは一般国民と比べて特に無能というわけではない。ペーパーテストも体力試験も優秀な方であると自認しているし、実際良い成績ではあった。でも、試験には不合格だった。


 何故不合格だったのか、と自分たちのお目付け役であり、教育係であった長官のスフォーに直々に問い詰めたこともある。

 スフォーは曖昧に『向き不向きがございますので……』とだけ答え、不合格の理由について口を濁すばかりであった。


 これについてはファビエはこう推測している。姉の手回しが原因ではないのか、と。


 もちろん、国民には不合格のことを知らせはしていない。しかし、姉が軽々と合格したのに自分だけ不合格なのは解せない。

 ペーパーテストと面接、どちらもほぼ満点の受け答えができたはずだ。


 それなのに合格できなかったのは姉が手回ししたに決まっている。自分と一緒に仕事をしたくないか、はたまた自分の王位を狙っているから邪魔をしたいのかはわからない。

 とにかく絶対に姉の仕業だ、と彼は確信している。


 そして、彼は内務庁に入庁した。華々しい第一王子の、世間的には地味だと思われる内務庁への入庁はニュースとなり、一時的に彼を喜ばせた。彼は世間の注目を浴びることが好きだったのだ。


 内務庁の仕事は緩く、ぬるく、つまらなかった。

 外宇宙の資源や治安を維持する華々しい部署が羨ましかった。


 それでもみるみるうちに彼は頭角を現し、あっという間に出世した。そして、内務庁長官であるヴェレルとも懇意になった。


 ヴェレルはファビエをよくわかっていた。

 ファビエが優秀であること。ファビエの人格が優れていること。ファビエは常に努力をしており下々にも気を使う王族の鑑のような人物であること……。


 ヴェレルとは350歳も違ったが、あっという間に大の親友のようになった。


 ヴェレルには仕事のこともプライベートのことも、何でも相談できた。姉についてもヴェレルはよく理解してくれていた。


 あの内務庁の仕事を邪魔する部署については、きっと正義の人であるファビエに入庁されては後ろ暗いことが明るみに出る。故に不合格にしたのであろう、と言って彼を喜ばせた。


 そして二人は外宇宙に関して様々な夢を語り合った。

 テオネリアに真の不老長寿と繁栄をもたらす方法について語り合ったのは楽しい思い出だ。


「…………夢か」


 安心できる場所(セーフエリア)を見つけてしばらくぶりに眠ることが出来た。まるで犯罪者のように床に転がって寝たが、睡眠が取れないよりはずっとマシだった。


 ファビエは自分の手を見つめる。激痛が走っているのを薬でなんとか誤魔化している。

 両の指先は赤く爛れ、皮は剥がれ落ちて滲出液がぼたぼたと垂れ流されている。ナビゲーターによれば自然治癒で治るらしいが、あと三週間はかかるらしい。


「クソ!」


 ファビエは怒りに任せ壁を蹴りつけたが、反動で自分の足先が痛むだけだった。


「ヴェレル! 何故返事をしない!」


 やはり返事はなかった。通信機の不具合だろうか……。ついていない。


 彼の今の姿は、かつて皆が褒めそやした水色の髪のほっそりとした貴公子ではない。

 金髪を軍人のように短く刈って、体格がよく、目付きの悪い若い男の姿だ。かつての面影は一欠片も残っていない。


「せめて、あの女だけは絶対に殺さねば……」


 何錠目か解らない痛み止めを口に放り込んで、なんとか罠を仕掛ける。

 彼の顔には脂汗が滲んている。あの女を殺すのは自らの手で行いたかった。邪魔者など許せるわけがない。どんな手を使ってでも全員殺す。


 運が良ければこの罠で地球からのテスターとかいうカスどもも殺せるだろう。

 すでに一人は殺している。下等生物の分際で王子に気安く接した罰だ。とファビエは思っている。


 ファビエの目には妄執の光が爛々と灯り、彼の目に見えているのは、玉座だけだった。



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