第98話 一人ぼっちの姫君
ふと思う。15年前のダンジョンが今と同じかはわからない。
でも単独でダンジョンに潜入し、一人で五層までたどり着いて15年サバイバルするようなお姫様が一般人と言えるだろうか。
しかも四方さん達全員が口を揃えて『絶対に生きてる』と保証している。どんな理由で動けなくなったのかはわからないが、下手するとこいつらより強い可能性がある。
何かもう会いたくなくなってきた……。
そんな癖の強いキャラ、一緒に行動したくないか俺が発狂するかのどっちかしかないだろうからな……。
でも、進むしか無い。
「そういや中央部にあるんだっけ、光の柱」
「左様でございますね、六層の最下部から五層の吹き抜けにかけて立っているはずです」
「全然見えないな……」
この通路は広いが、建築物の中だけあって先が見通せない。四層や一層のようなタイプのダンジョンであってほしかった。
「まだ四隅から出た程度でございますからねえ、五層六層は複合フロアになっている分総面積は四層の三倍、二層の四倍ほどの面積になっております」
「吹き抜けってことはもしかしてそこから三人でジャンプしたら七層に転移できるのか?」
「いえ、六層の地面に当たり判定がありますので、その場合着地のときに大怪我をしながら七層に行くという悪夢の展開がお待ちしているかと。あと流石に姫はお助けしないと……」
いいアイディアだと思ったのに上手く行かないもんだなあ。
「いや考えても見てくれ、こんなダンジョンで15年も一人で生きてるお姫様、放置しても死なないんじゃないのか? 最下層まで行ってクリアしたときにどうにか出来ない?」
「まああと200年は一人で生きておられそうですけれども、流石に駄目です! 姫様には良くしていただいた思い出もございますので、どうかお願いします!」
インテが珍しく自我を主張している。
「インテ嬢がそう言うのだ、助けてやれ。それにチケン、お前の運命がいるのではなかったか?」
言われて思い出した。あのキモいくらい命中精度の高い王太子の予言がそんな事を言っていたな。
もしかして、俺の運命の人がその姫君なのか。
そんな15年サバイバルしてるベア・グリルスみたいな姫君が運命の相手とかだったらいやすぎるんだが……。
「私もここで15年生きてるお姫様って興味があるわ、見てみたい!」
「まあ二人がそう言うなら探すかあ」
この魔法禁止のフロアでそんなに長時間行軍すれば絶対におタヒのMPが尽きる。
できればショートカットしたかったがセーフエリアで休憩しながら進みつつ探すしか無いだろう。
俺の隠密行動で突っ切るプランもそう考えるとここで終わりだった。
消費MP30倍だとそもそも発動すら出来ない。完全回避で走って逃げ切れる可能性もなくはないが失敗したときを考えると……。
パーティーを組んだのは正解だっただろう。
そして、ついに最初の分かれ道に到達した。
「追い剥ぎとやらもおそらくこの辺を通ったのであろう? 同じ道を行くか避けるべきか、そもそも追い剥ぎはどちらに進んだのか調べるべきであろうな」
「うーん、そもそもどうやって調べるかなあ……」
魔法はほぼ使えない。犬でもいればいいのかも知れないが犬もいない。
俺達の嗅覚は人間レベル……のはずだし、そもそもたどるべき匂いがわからない。
「あっ、チケン様! 赤外線と紫外線を可視化出来るゴーグルがございますよ! あと微細な生体反応を活性化して可視化出来るライトもございます!」
「至れり尽くせりだなあ、インテは。さすが天才を自称するだけある」
褒めるとインテは相変わらず長文で喜んでいた。喜んでもらえて何よりだ。
「うわっ、これ面白いわ! 人間が白く見える!」
「赤外線な、人間や生き物が出す熱を見るんだよ。熱がないやつは見えないけどな」
「夜でも物が見られる眼鏡か、便利なものだ」
「あっ、猫と同じタイプの少ない光量でものを見ることの出来るタイプのゴーグルもございますよ!」
おタヒとグリセルダが面白そうに遊んでいる。かく言う俺も存在は知っているが初めて触るので楽しい。
なんか特殊なライトなんかもだしてくれて自分の肌を照らすとほんのりと光って見える。
タンパク質かなんかに反応して光るのかな。科学は専門じゃないけどルミノール反応とか色々あるよな。
中古フィギュアをUVライトで照らすと光る話とか……闇が深いからこの記憶は封印しよう。
分かれ道を三人で探していると、右側だけに僅かだが人間がいた痕跡、そしておタヒの証言どおりの比較的新しそうな短い金髪が落ちていた。
見つけたのはインテだ。こいつには警察犬の才能もあるのではないだろうか。いや、警察鞄か……?
「右に行ったか……さて、どうする? 右に行くか? 左に行くか?」
「この状況だと避けたいわ。だって術が全然使えないんですもの……。牛頭くんの姿を変えられないから、私も徒歩だし……」
「そうだな、無駄な戦いは回避するがよかろう」
「よし、あいつが野垂れ死ぬように祈っておこう……ん、ちょっと待て」
俺はライトの光量を上げる。追い剥ぎが移動したと思しき方、数十メートル先の床に薄く何かが敷き詰められているのが見えた。
床はコンクリートっぽい材質なのだが、そこだけわずかに反射具合が違う。悪い予感がする。
「グリセルダ、おタヒ、ちょっと下がってろ。あそこなんかある」
俺はインテから二層でタゲ取り用に集めて詰め込んでおいた適当な石を取り出して、反射具合の違う場所に全力で投げつけた。短い金属音がしたその次の瞬間、大爆発が起きる。
爆風が俺達を襲い、思わず伏せたがコンクリートの欠片がいくつかぶつかる。
しかし着ぐるみのおかげで無事だった。幸いおタヒとグリセルダも怪我はなかった。
落ち着いてから近づいてみると、床が抜け六層の様子が薄暗く見えた。
ここから降りる手も俺だけなら無くはないが、まずはお姫様の救出をしなくてはいけないんだよな。お姫様は五層にいると言われているし。
「うおー、びっくりした……インテの着ぐるみのおかげで助かったな……」
「そうね、この着物のお陰で石があたっても全然痛くなかったわ! 素晴らしいわインテ! 私の専属の針子にしたいわ!」
「いやぁ~やっぱり褒められると嬉しいですねえ~! お役に立てたのはもっと嬉しいです!」
「二人は暫くそれを着ているとよかろう。良く似合っている」
「うふふ、この服気に入ってるの、褒められると嬉しいわね!」
グリセルダはそう言ったが、この顔で、この髪で、この服。そしてこの幼女ボイス……。
俺はせめて服だけでももうちょっと男らしいやつにしたい。
しかし、命には変えられない。言う通りにしておく。
「まあ、ここ抜けるまではこれ着てたほうがいいかもな。せっかく貰った服も汚さず済むし」
俺は開き直ってきぐるみのポケットに小石を詰め込み、片手に戦利品の大振りなナイフを持った。
俺が持つと大振りなナイフはショートソードのようにも見える。
随分と物騒なうさぎもいたもんだ。そう言えばいたな、ボーパルバニーとか……。首をはねてくるアレが。
「はー、どうせバニーならグリセルダが着てくれればいいのに」
どうせわからないだろうと思って思わず呟いてしまう。バニーガールいいよな。
グリセルダの体格なら絶対似合う。でも絶対着てくれないことも解る。
「私がそのような着ぐるみを着るとでも?」
「ですよね……」
一応流しておいたが俺が着てほしいのはそっちのバニーじゃない。
が、流石に真実は告げない。
現実に戻ったときにカハールカさんがゲーム内で追加DLCとかで着せてくれるのを祈ろう。
「グリセルダ様にもお作りしますか?」
ワクワクした様子でインテが申し出るが、着慣れた服のほうが動きやすいといって固辞していた。まあそうなるか……。
グリセルダが俺と同じのを着るのも俺的には羞恥の顔が見られて最高。
とは思うが性格的に羞恥を感じる服を着るくらいなら真夏でもコートを着る。
そういうタイプだろうな……。
がっかり。
本当はベア・グリルスじゃなくてエド・スタッフォードみたいなお姫様って言わせようとしたんですが伝わらなさそうなのでベア・グリルスにしました




