第96話 新衣装おかわり
光の柱が目の前に近づいてきた頃。
「出来ました! チケン様、おタヒ様、新しいお召し物です!」
鞄からポイポイと飛び出てくる白いふわふわ。
きれいに畳まれたそれを開くと、着ぐるみだった。何げにインテ服たたむの上手いな。ふわふわでかさばるはずの服が大分コンパクトになっている。
インテ謹製防弾きぐるみは、幸い前開きであり、しかも服の上に着られるタイプの着ぐるみだった。もこもことするが普通に動けはする。
着てみると全身もこもこフード付きのうさぎデザインだった。
ただのコートとかでも良かったんだが、インテなりに俺に似合うよう頑張ったんだろう。しかし、本当にこれを着ると幼女感がすごい……。
恥という感情が湧き上がるがぐっと我慢だ。
おタヒの羊はすごくよく似合っていた。
よく「羊の皮を被った狼」という言い回しがあるけどこいつの場合「羊の皮を被った狂チワワ」だろうか……。
本人は布で再現されている羊の角やもこもこ具合にいたく感心している。平和で宜しい。
「私は羊で、チケンはうさぎなのね。干支みたいで面白いわね。グリセルダはさしづめ龍とか狼かしら……」
「エト?」
「私達の国では十二年の一年ごとに動物が割り当てられているの。猫とか犬とか。それを干支っていうの」
おタヒの国の十二支、微妙に日本のと違うな……。微妙に似てるのが面白いんだよな。日本に猫年とかあったら盛り上がりそうなんだが。
「ふむ、本当にその服で銃の弾が防げるのか?」
「はい! 大丈夫です」
インテは嘘をつかないと思うが、インテの基準がどのくらいを想定しているのかよくわからない。
「うーん、一応試してみるか、グリセルダ、ちょっと俺を撃ってみてくれ」
「……躊躇ないな、貴公は。見た目は真に童女であるのに」
グリセルダが呆れた顔で俺を見ている。うーん、ご褒美……。
「だって入ってから実際撃たれて無理だったので死にました。のほうが困るだろ、おタヒもいるんだし。まだここならなんかどうにか出来る可能性があるだろ?」
「それもそうだな」
そう言ってグリセルダは迷いを捨てたのか俺に銃を向ける。
「どのへんを狙えば良い?」
「利き手は嫌だから左腕を頼む」
俺は左腕をヒラヒラさせて上に上げる。
「撃つぞ」
銃を構えるグリセルダ。かっこよすぎる……見とれているうちに乾いた破裂音がして手に石がぶつけられたくらいの衝撃を感じた。
フカフカの毛皮に埋もれて見事に弾は止まっていた。しかし、グリセルダ射撃上手いなあ……。拳銃拾えてよかった。便利に使って欲しい。
「どうだ、チケン?」
「まあ全くノーダメってわけでもないけどHP減るほどの痛みじゃないな。指のササクレ剥がすほうがまだ痛い」
「ならば良いな。さすがインテ嬢、良いものを作る」
「いやーわかってたことですが褒められると照れちゃいますね! グリセルダ様お褒めの言葉ありがとうございます! おタヒ様もこれで安心してお召しになれますね!」
インテの自信満々さが眩しい。俺にはないものを持っている。
人工知能というのは皆こんなに自信満々で口数が多いのだろうか。
五層に行く前に、いつもの【幸運の祈り】をする。前回の考察結果を活かし、おタヒとグリセルダに同時にかけて、俺にかける。
そしてもう一度グリセルダとおタヒにかける。二人の幸運が30プラスされ、俺の幸運が15プラスされる。満足な結果だ。
「次回からかける順を逆にしてはどうだ、チケン。我らよりお前のほうが前に出ることが多かろう」
「いいんだよこれで。俺の幸運を30上げたところで効果はさして上がらないけど1と31はかなり違うからな。対数関数的成長ってやつだ」
「対数……?」
「数学の話になるからな詳しくは説明しないぞ……まあ玄人が更に上達するよりも初心者の方が上達の度合い自体は大きいだろ? そういうことだ」
1が命運を分けることはあると思うが、多分このダンジョンの人間で俺よりステータス的な意味で幸運なやつは多くないはずだ。
特技があるなら伸ばすほうが強いと思うが、それにも限度はある。伸ばしきったあとは弱点を補った方が良いに決まっている。
そして、こいつらの唯一の弱点は幸運である。
「忘れ物はあるかー?」
最終点呼をする。なぜならもう戻れないからだ。層と層と行き来できない。一方通行だ。
「無い」
「無いわ!」
「私も確認済みでございます」
よし、じゃあ行くか。おタヒが牛頭くんを一時収納し、グリセルダが俺とおタヒを軽々と抱えた。
「では行くか」
グリセルダが光の柱に足を踏み入れる。すると、毎度おなじみのめまいに襲われて、次の瞬間には別の場所に移動する。
そして、音がした。短く大きな連続音。
考えるより先に体が動く。
居合抜きのようにナイフを一閃。
俺は器用さはほとんど無いが、素早さをカンストさせてあり幸運もほぼカンストに近い。無事飛んできた何かをナイフに命中させる。
代わりに、ナイフは衝撃に耐えきれず砕け散っていた。まあしゃーない。予備があってよかった。
「インテ、これ何だ……?」
「小銃弾でございますね……」
砕けた欠片をインテが触手で器用に受け止めて俺の顔に少々の傷を作っただけで済んだ。
よかった、俺の顔で。
グリセルダやおタヒの顔に傷がついたら俺の心が傷ついてしまう。
「グリセルダ、動くなよ」
「承知」
「えっえっ、何? 何!?」
おタヒが怯えるが、まず安全の確保が先だ。スキル【エリア鑑定】を発動する。
ちょうど出没地点になる場所にスイッチが有り、この出没地点の部屋に仕掛けられた小銃が自動的に発射される、という仕組みのようだった。
幸い、他に罠はなかった。
俺はグリセルダの腕から飛び降りる。見ると、俺の防弾きぐるみに数発弾が埋まっていた。
撃たれた場所にじわじわと痛みが来る。打撲の痛みだ。流石にインテのオーバーテクノロジーでも100%の減衰は出来ないか。
「痛ってえな……打撲くらいか。良かった、防弾着ぐるみ着てて」
俺はきぐるみからぽいぽいと弾を取り出す。とりあえず埋まっているのは8つだった。顔に当たるはずだったのを入れると9つか。潰れてひしゃげて酷い形になっている。
これ、俺に直撃していてよかった。後ろのグリセルダはノーガードだからな……。
「チケン、痛みは? ああ、せっかくの愛らしい顔に傷がついているではないか……」
「俺の顔はどうでもいいよ、普通に痛いけど喋れる程度には元気だ。ええとインテ……」
といいかけた瞬間インテの蓋が開き、すごい勢いで顔に何かが吹き付けられベターン! とすごい勢いでテープのようなものが貼られた。
「どうでもよく有りません! 治療しますよチケン様!」
「そうよチケン! 顔は女の命なんだから大事になさい!」
おタヒは言うことが古いんだよな……。昭和のおっさんみたいだ。
「俺の中身はおっさんだからな。別に顔の傷はどうでもいいよ。かすり傷だし。どうせこのダンジョンにいる間しか使わない顔だからな」
「よくない!」
「よくはないぞ、チケン」
「駄目です!」
怒涛のダメ押しを食らう。そんなにだめか。
まあスカーフェイス幼女は痛々しいだけか。傷が味になるには年月が必要だもんな……。
砕け散ったのは一層から苦楽をともにしてきたナイフなのでちょっと残念である。一応砕けたナイフをインテに渡して修復できるならしてもらうことにした。
その後、誰もいないのを確認し打撲にも応急手当をした。
あっという間に皮下出血が消えて痛みが引くのは助かる。未来の技術すごい。
どのあたりの怪我まで一瞬で回復するのかは気になるが実験するのは怖いな。やめておこう。




