第95話 悪役令嬢タクティクス
「そうだインテ、その着ぐるみもう一個作ってくれるか? 着るのは俺な」
「はい! かしこまりました!」
背に腹は代えられない。可愛い服は嫌だが、流石に中に入った瞬間死ぬのは困るので俺も防弾着ぐるみを作ってもらうことにした。
「ただ、手足は出るようにして、動きに支障のないようにして胴体だけ覆ってくれればいいや、デザインは適当に任せた。なんかポンチョみたいな簡単そうなのでいい」
「お任せください! 出来上がりをお楽しみに!」
致命傷を受けなければインテが助けてくれるだろうからな。俺は最低限度の防弾でいい。
そこから更に数十分歩く。本当に敵が毒虫とかしかいなくて助かる。毒虫は来るたびにインテが捕獲したり、俺がナイフで叩き落としている。
「あ、そうだチケン様。スフォー様の残していった素材とこの辺の毒を融合して武器など作ってみたのですが」
インテが作ったのはあの『エンジェルリリィ』の花粉や毒虫から抽出した毒を数倍に薄めて作った毒を塗ったナイフだった。投擲して当たれば一瞬で相手の意識を持っていけるらしい。
俺のステータスの『器用さ』は初期値だが、それを補ってあまりある『幸運』がある。まさに俺にうってつけの武器だ。俺の小さな手でも扱えるようないい感じのサイズに仕上がっている。
そのへんに試し投げをしてみたがズバズバ狙ったところに当たるので気持ちいい!
うーん、ナイフ投げ楽しい~!! ナイフの回収が面倒なことだけが難点。
「……インテ天才か?」
「インテ、あなたってとても器用で賢いのね! 従三位を授けたいわ」
「うむ、素晴らしい、マエストロといっても過言ではあるまい」
「いやー! やっぱりそう思いますか?! 私もそう思います!」
自信満々のインテだが、たしかにいい仕事なので褒めざるを得ない。これでやる気を出してくれるならいくらだって褒める。
それから二十分ほど歩き、ついに第五層入口に到着した。今までと同じように黄金の光の柱が空の果てまで続いている。
俺はその周辺を念入りに調べてみた。何かが明らかに埋まっている痕跡を見つけ掘り返してみるとレーションの空き容器だった。やっぱりここから移動したようだが、痕跡隠しが下手だ。
劣化具合を見ると数日前っぽそうな感じがする。
「あーこれは開封から78時間ほど経過した感じですかねえ」
インテの意見もだいたい同じようだった。
「78時間……3日くらい前ってことか。なあ、グリセルダ。おタヒ。手負いの犯罪者が同じ場所で3日間俺達を待てると思うか?」
「うーむ……あまりにも情報が少なすぎるな、相手方をよく知らぬし」
「動かずに回復を待ちながらならありえなくはないかしら……」
うーん、犯罪者になったことないからどういう相手がどう考えるかわからんな……。
「あっ、そうよ! 立場を置き換えて考えましょう。私と兄なら、絶対に待ち受けてはいないわ。嫌な奴やどうでもいい奴のために痛む手を抱えながら時間を使うの嫌だもの。でも罠を張ってると思う! 嫌なやつがひどい目に合うのは痛快ですものね!」
そういやこいつ身内と間接的な殺し合いするくらい身内と仲が悪いんだったな……。
流石にグリセルダも鼻白んだ顔でおタヒを見つめている。気持ちは分かる。流石に引くよな。
「でも怪我をしているんでしょう、じゃあ大した罠じゃないわ。罠って作るの大変なんでしょ、普通の下々の民には」
「……まあそうだろうな」
おタヒの言葉のトゲにいちいち反応していてはしょうがない。
だが本当にこいつ言葉が刺々しいな。舌にモーニングスターでも装備してるんじゃねえのか。
「じゃあ最初の一発をしのげればどうにかなるのではないかしら。怪我してるんでしょ? 逃げられないわよ。すごく痛いんでしょ、その植物に触ると」
グリセルダも何かを考え込んでいる。
「インテ嬢、この光の柱の仕様について問いたい。これは全員一緒に入れば同じ場所に出現し、一人ずつ入った場合別の場所に出る可能性はあるのか?」
「はい、ございます! というか、後者の場合ランダムですの同じ場所への出現はあまり期待できませんね。突入タイミングはできるだけ全員同じにすることをおすすめいたします!」
ああ、やっぱりそうだったのか。第二層でグリセルダが懸念したことは正しかったんだ。助かったな……。
「あ、俺からも質問! これって生物だけを転移させるの? 物も行ける?」
「生物に付随する非生物は転移できます。非生物のみの転移は不可能です」
「ねえねえ! じゃあ毒虫を大量に投げ込むとかはどう? 相手にぶつかるまで転送させまくればどれかの毒虫は相手を無力化するんじゃないかしら?」
おタヒがすげーイキイキとしている。これはあいつの好きなタイプの権謀術数だからなのかな……。
ていうか、その毒虫どうやって調達するんだよ、俺にやらすつもりじゃねえだろうな。
なんでそんな発想ができるんだ、とそこまで考えて気がついた。
そういやこいつ悪役令嬢だったな。普段が面白いから忘れてたけど……。
俺が考えたのは例のエンジェルリリィの毒をガス状にしてばらまいて相手を沈静化させようと考えていた。これもあんまり宜しくはないと思うが、おタヒの考えは俺の斜め上を行くな……。
「ある程度大きい生き物、サイズ的に犬くらいのものでないと転送術が発動しないようになっております」
「うーん、いいアイディアだと思ったのに悔しい~!」
「惜しかったな、目の付け所は良かったのだが」
悔しいんだ……。グリセルダも惜しかったな、とか言ってるし価値観が違う。
まあ日本人ぽいけどそうじゃないからしょうがないのか。
おタヒは特に平安とか鎌倉っぽい時代の世界の住人だし、割とバイオレンスの世界で生きてるんだよな……。なんか良く戦乱が起きてたはずだ。
グリセルダの国はフランス革命くらいの時代感覚の国だったし、多分俺が一番ヌルゲーの世界を生きているのだとは思う。
「……ならば野犬でも探してくるか? もしくは鹿でもいればそれになにか罠を仕掛けて……」
「いやこのフロアの犬は全部飼い犬だったはずだから辞めてさしあげて、あとここの鹿って鋭い角が生えてて凶暴だから。スフォーのおっさんを余裕でぶっ殺してるからな」
「鹿程度なら行けると思うのだがな、ダメか? 鹿におタヒのいう毒虫の籠でも持たせて狂ったように走り回らせれば追い剥ぎの脅威も削げて一石二鳥ではないか?」
「まあ、グリセルダいい考えね! ついでに蜂でも入れれば刺された鹿が暴れまわるから、追い剥ぎも手傷を負うでしょうし、とてもいい考えだと思うわ!」
駄目だ、ストッパーが俺しかいねえ。
どんどん話が物騒になっていく。相手も多分ヤバい側の人間だとは思うんだが、過剰防衛もなあ。
「動物虐待は辞めような。多分法律的に駄目だと思うぞ。ここ、ダンジョンという名目の刑務所だから品行方正にしておこうな……」
価値観が違うからしょうがないけど、俺の第六感がここで止めないと後で困ると囁いているので止める。
グリセルダも地味に怖いことを言うけど、士官学校出のエリート軍人コースに行くはずだった悪役令嬢だったんだよな。暴で育ったタイプのキャラだ……。
親しくなったせいでこいつらが悪役令嬢なことをすっかり忘れていた。
でも頼むから、俺に向けるなら暴力ではなく罵声とかにして欲しい。それなら笑顔で受け止められると思うから。
罵声やお叱りははご褒美です。




