第94話 インテのアトリエ
インテの急な申し出に、俺達は困惑した。
「何が作れるんだ、インテ」
「ゆりかごから墓場までカバーするありとあらゆるお入り用の品を揃えられるように新機能を追加していただきましたとも! 材料さえあればですが」
何だそれは。むちゃくちゃ幅が広い。ただ材料がわからん。グリセルダとおタヒは首を傾げて怪訝な顔をしていた。
「具体的には何が作れる?」
「そうですね、ごく少量なら分子組み換えで低分子から高分子までの様々な薬品だとか、鉄の塊からナイフやフォークなども出来ますよ。適切な材料があれば武器や防具をお作りすることも出来ますね、サイズは限られますが……何しろ中の容量は巨大ですが、入口のサイズは限られますので」
うーん、サイズ制限がチート技術に対する最後の良心だな。
「銃とかは?」
「それは無理です。法令に違反しますし鉄や硝石、硫黄などの材料がございません」
残念だ。未来の科学技術で作られた銃とかめちゃめちゃ強そうなのに。
でも四方さんたちもコンプラには気を使ってるっぽいからしょうがないか……。
「じゃあ何を作るつもりなんだ?」
「防弾きぐるみなどいかがでしょうか、それなら今ある材料でお作りできますよ!」
きぐるみ、と聞いて少しおタヒが反応している。
「それってどんな奴?」
「牛頭さまに似ていらっしゃる感じですかねえ」
インテが完成予想図を空中に投影する。もこもこの羊型の着ぐるみにおタヒの顔だけが出ている感じだ。かわいいが幼児的ではある。
グリセルダがうっすらと笑いを噛み殺している顔をしているが(俺はグリセルダのオタクなので理解る)、対象的におタヒの目は輝いていた。
「素敵! 私あの羊というやつが気に入ってたの! 作って頂戴!」
あ、いいんだあれで。まあ似合うとは思うが……。
「ちなみにどのくらい防弾出来るんだ、インテ?」
「どのくらい動けなくていいかによりますが、移動を完全に牛頭さまにお任せ、手足も動かせなくていいのであれば対物ライフルも防御できるようにお作りできますが、多少の自由が欲しい場合は自動小銃で即死しない程度になりますね」
なんか思ったよりも強い。俺も欲しいんだがそれ。いや、動きにくいのはだめか。俺の長所を殺してしまう。
「とはいえ、物理的なショックを全部消すのは流石にこの高性能インテリジェンスパックの私にも難しいので流石に直撃すれば打撲などは受けると思いますが……かすっただけで即死は無いと思いますよ、顔面を直撃などがなければ」
「即死しないなら応急手当キットもあるし大丈夫か」
俺は振り返って本人に聞く。
「で、おタヒはどうする?」
「着る! 動ける方で!」
話は決まった。話を詳しく聞くと、材料は俺が寝ている間に村で買っている羊を毛刈りしたらしく、その羊毛をメインに、あとは半端に余っていた蜘蛛の糸を使うらしい。うーん、何ともファンタジー……。
製造に一時間ほどかかるらしいので、五層入口に着く頃には出来ているだろう。
俺はずっと地面を見ながら歩いている。
「どうした、チケン? 地面ばかり見て。前は見ぬのか?」
「いや、あの追い剥ぎの痕跡ないかなあと思って」
「ああ……犬でもいればよいのだがな」
一瞬犬ですと名乗り出ようと思ったがやめた。一時的なご褒美のために長期的な喜びをふいにしてはらない。
「なんでクソボケ追い剥ぎの痕跡なんか調べてんの?」
「考えても見ろ、まだこのエリアに潜んでるとかじゃない限り大体五層に行ってる、というか、五層に行ってるって王太子が言ってただろ?」
「そうね」
「ああ……」
グリセルダは気がついたようだ。
「俺なら【隠密行動】が使えなくても五層入口が見える場所に隠れて俺達を狙撃するだろうからな」
「えー! 何よそれ卑怯よ!」
「五層にな、インテの元ご主人様スフォーのおっさんのご主人がいるんだと。そんで、そのご主人のお姫様を殺すと莫大な賞金が出る。だから、それを取られないために元々俺を殺すつもりだったんだってさ」
「金なんかのために!?」
おタヒさぁ……。いや、追い剥ぎクソPKを養護する気はないんだけども、こいつはあまりにも生活を知らなさすぎる。
「その金が無いとお前と違って俺みたいな庶民は生きていけないんだよ。お前、飢えと脱水で死んだことがあっただろ。金が無いとそうなるんだよ、誰でもな」
「…………」
おタヒは流石に言い返してこなかった。
「だからといって殺人をしていいわけじゃないけどな。何よりまずいのが俺と同じようにあいつがこれを『ゲーム』だと思ってやってるってことだ」
「……どういうこと?」
「非実在の相手だからどんな残虐なことでも出来る。現実にいる存在だと思ってないんだろうな。特に、あの追剥ぎは素が犯罪者らしいから、なおさらなんだろうな」
おタヒは不快そうに、グリセルダは嫌なものを見るような顔をしている。
「チケンもそう思ってるの?」
おタヒの言葉に答えたのは、何故かグリセルダだった。
「思っているわけがなかろう。思っているのなら此奴の性格なら我らを置いて一人で最下層に向かっているだろうよ」
「……そうなの?」
「そうだな。元々、俺は一人で行動して一人で最下層に行くつもりだったからな。同行者が現れるとか思わなかったてのもあるけど。まあ今はおタヒとかグリセルダとかインテとかおもしれー同行者がいるからこっちで良かったと思ってるよ」
それは本当に思っている。人間と行動をともにする面倒くささも喜びも。期間限定だから楽しめるというのはあるんだろう。
「ならいいんだけど……」
「お前の世界にもいただろ、乳母の白梅さんとか、いい人が。それと同じでいい人も悪い人もいるんだよ。比率はともかく、どこにでもな。俺も金は好きだけど残虐行為が好きなわけじゃないから、別に人殺しなんかはしないぞ」
「うーん……」
おタヒは納得いったようないかないような、微妙な顔をしていた。
「それよりも入った瞬間狙撃された対策を考えないとな」
「そうだな……」
「そういえば、私はあの男達の姿を知っているけど、あちらはチケンのことを知っているの?」
「あー、聞き忘れたな、インテちょっと四方さんに聞いてみてくれる?」
数分後、返事が帰ってきた。俺がいることは知っているが、俺がどんな姿なのか、どんなステータスなのかは知らないらしい。
じゃあもしかしてこの声が幼女になったのは逆に良い結果を生むかも知れない。流石に幼女ボディーの幼女ボイスが中身おっさんだとは思うまい。
これを上手く使えればいいんだが……幼女二人に大人の女が一人。そこに好きを見出させて逆に……みたいな……でも俺別に策士とか言うわけじゃないんだよな。
「チケン、どうした?」
「あー、考えたんだけど。相手には俺の正体わかってないみたいだから逆にそれで罠にはめて捕獲か無力化出来ないかなと思って」
「あら、いいじゃない、私そう言うの好き!」
「いい考えだな」
おタヒはそう言うの好きだろうな……。
「相手はどんな体格でどんな姿だったか覚えてるか?」
まず敵を知ろう。情報は大事だ。
「えっとね、身の丈はグリセルダより一回り高いくらいで横幅はもっとあったわ。金色の短髪で目の隈がすごくて目つきが悪かったことくらいかしら……」
「長い棒みたいなの背負ってたか?」
「背負ってた」
やっぱまあ銃は持ち込むよな。俺みたいに小さくて隠れやすい容貌でないのは幸いだ。シモ・ヘイヘ並の射撃の腕があっても体を小さくするのは無理だからな。そして、次のフロアはダンジョンだと聞いている。
ダンジョンは隠れる場所が角くらいにしかない。多分。
とりあえず、最初に入った時どうにかしのげればどうにかなるだろう。
だが、予想が外れるのは当たり前のことだ。斜め上の事態が起きる覚悟もしておいたほうがいいだろうな……憂鬱だ。




