第93話 久々のご褒美
俺が嫌そうな顔をしていると、グリセルダとおタヒが畳み掛けるように俺にとどめを刺してくる。
「ずっとお前だけ服がみすぼらしいのが気になっていたのだ。我が家の犬でももう少し見栄えが良かろうよ。いい機会だ、その服を着ておくべきだ。この先で誰かと会うやも知れぬ、着るもので見下されぬよう見かけだけは取り繕っておけ」
割と直球で来たな……犬以下とか言われてしまった……。
やめてくれ。喜びで顔がほころびそうになってしまう。いや、でももうちょっと厳しく言ってくれていいんだけど。ご褒美だ……。
「そうよ! 高貴な身分の私達に付き従うのだからチケンもマシな服にすべきだわ。私は斎王、グリセルダは女中将とでもいう凛々しい雰囲気だけど、あなただけ河原の物乞いみたいだったし」
好き放題言われている。
特におタヒは放送禁止用語とかポリコレとかを考えて言葉を使っているわけではないので、グサグサ刺さる言葉を平気で放つ。俺はお前の下僕じゃないっつーの。
正気に帰ると確かに一理はある。
パーティーメンバーの中で一人だけみすぼらしかったら明らかに奴隷か使用人ポジションで怪しいもんな。
グリセルダにそう思われるのは全然構わない、むしろご褒美だが。他の人全てにそう思われるのは心外である。
「チケン様、予備の服はございますので、安心してその服をお召しになってください!」
インテが追加情報をくれた。予備があるのか。
俺は諦めてこの王子様っぽい服を着ておくことにした。
俺の中身は男だが、体は女である。そして着ている服が男。これは男装なのであろうか、それとも女性用の男子服なのだから女装なのだろうか……。
有識者に質問したいがどこにも存在しない。残念だ。
「グリセルダ、髪の毛だけこれに合うように結び直してもらっていいか……?」
グリセルダは肯いて、俺の凝った髪型を一度崩してまっさらに戻し、編み込みなどが多少あるが動きやすく服に合う感じの髪型に直してくれた。
さすがにさっきのお姫様ヘアーのまま動きたくないからな……。髪飾りとかぼとぼと落ちそう。
「よし、じゃあ行くかあ。五層に」
「そうね!」
「ああ、そうしよう」
まだ時間を見るとこちらではまだ12:30だった。日暮れ前には五層入口まで着けるだろう。
五層は事前にもらった情報によるとまたテンプレ迷宮で、日の出日の入りの影響がないらしい。だから、着いて中にさえ入ってしまえば夕暮れも関係なくなる。
俺達は荷物をまとめ、というかインテを背中に背負い三人+鞄で別れの挨拶をした。
「今までお世話になりました。皆さんどうぞお元気で」
「ええ、こんな楽しいお客様が来たのは久しぶりでしたわ。十五年ぶりだもの。またいつでもいらしてくださいね」
「そうですね、機会があればまた」
迷宮は一方通行ではあるが、俺がクリアすればこの人たちが現実に復帰できて再会できるかもしれない。頑張ろう。
おタヒは牛頭くんに乗り、俺とグリセルダは徒歩で村を後にした。
村をすぎると草原が平和に広がるばかりで、ところどころに毒草や毒虫はいたが、特に問題になるモンスターもいない。平和なものだった。
悪霊もこの層にいるやつは全部退治したしな。
途中、インテが急に声をあげる。
「あっ! チケン様その草の周辺まで近づいていただけますか?」
「あの草? なんかアレ毒草じゃないの?」
たしか前おタヒが欲しがっていた見た目はいい毒の花だ。エンジェルリリィとか言うやつ。花粉を吸い込むと昏睡して死ぬ。
「はい、なので私が適当に回収しますので」
インテは鞄からにょろっと触手のようなものを伸ばして花をむしっていた。おタヒがそれを興味深そうに眺めている。
「インテ、それ何に使うの?」
「珍しい花ですので成分を解析してなにかに使えないかと思いまして。毒は量によって薬になったりしますし、他の成分と合成して新しい薬を作ったり、試行錯誤でございますね」
「インテは器用ねえ」
「まあ適当に欲しいのがあれば適当に摘んでくれ。後俺が拾ったやつとかも適当に使っていいから。持ち込んだやつは駄目だからな」
「畏まりました!」
【視界拡張】で見てみるとインテの蓋の隙間から10メートルほどの触手が数本伸び、もりもりとそのへんの虫や植物を捕獲し収納している。
グリセルダもおタヒもあまり気にしていないようだが、気にならないんだろうか……。
正直イソギンチャクみたいでちょっと怖い。
まあ捕獲に夢中で口数が少ないのは助かるけど。
歩きながら、俺達は五層と追い剥ぎについての話をした。
追い剥ぎが強い銃を持っていること、暗殺術と命中率向上のスキルを持っていて強敵だがおそらく今は【隠密行動】は使えないこと。暗殺術はHPの低いキャラクターに対してかなり相性が良いこと……。つまり、おタヒとの相性が悪い。
「むむむ……でも、隠密行動は使えないんでしょ?」
「インテ、自動小銃って何メートル先から狙撃できる?」
「400メートル、尺貫法に換算しますと4町弱、ヤード・ポンド法で437フィートでございますね」
「ゲッ……何よそれ……そんなの視界に入らないじゃない……」
400メートル先に、注意深く隠れた何かを探すのは厳しい。命中率向上があればもっと遠くても当ててくるかも知れない。
「しかも、装弾数が30発あるがそれを数秒でこっちに打ち込める。1発でもカスれば俺とおタヒは25%の確率で即死だよ」
「何よその卑怯な武器! 正々堂々とかかってくるべきじゃない、恥知らずだわ!」
おタヒは憤慨してるがそもそも正々堂々と戦うやつは【隠密行動】も【暗殺術】も取得しないし追い剥ぎもしないし盗みを働かない。
「だから五層に着く前になんか対策を考えながら歩こうぜ」
「うーむ……自動小銃はこの銃より強いのか?」
「多分倍くらい強いぞ。ただ、長いし取り回しが悪いからやるならどこかに隠れて撃ってくるだろうな」
そして、暗殺術と命中率向上を取ったのなら多分身体強化の視力向上とかも取ってるはずだ。
接近できれば倒せる自信はあるが……。俺だけなら絶対に当たらない自信があるが、俺に当たらないということは後ろに弾が流れるということである。
そうするとどうなる? おタヒとグリセルダに当たる。
「どうすっかなぁ……」
俺は考えて見るが特に思いつかない。一応、あの病室で動けない間に資料を見せてもらったのだが、五層でわかっているのはダンジョン構造と言うだけである。
数百年前の施設であることに加えて、四方さんたちと仲の悪い内務庁の管轄であること、色んな理由が複合的に重なって底に行くほど情報がない。
ダンジョンらしいダンジョン、と言っても石造り系洞窟系、リミナルスペース系とか色々あるだろうし。廃病院みたいなやつだったら最悪だし……いや、俺が個人的に苦手なだけだが。
「中に入ってから考えるしかなかろう、わからぬことを考えるのは無駄だ、辞めよ」
「まあ確かにそうだな」
「情報がないことは考えようがない、私が50回死んで学んだことだ」
言葉が重い。確かに余計な心配で疲れるのは無駄だな。
「しかし失敗したなあ、防弾チョッキ回収してくるんだった。俺はともかくグリセルダは着られただろうし」
「重かったからな、あれは……いざという時動けないというのもな」
「なんかこう、おタヒでも着られる防弾チョッキみたいなのがあればいいんだけどな」
「えー、あの重そうな羽織みたいなやつでしょ? なんかもっと軽くて可愛いのがいい」
こいつはいつも無茶苦茶言いやがるな……。
「インテ、鞄の中になんかいいもんないの? 子供用防弾チョッキとか流石にないよな?」
「そうでございますねえ、それでは何かお作りしましょうか」
インテは意外な申し出をした。一体何を作るんだ?




