第90話 答え合わせ
翌朝、7時にはいつものように目が覚めた。
ここ数日はグリセルダやおタヒがいて、起きるとまず朝食を作るところからだった。しかし、今朝は朝食がすでに用意されている。如何にも病院食という味も旨味も薄い一食だった。
寂しくないと言えば嘘になる。
俺が食べている間もあのカハールカさんという内務庁の職員だというお姉さんを含めて忙しく働いている様子が見えた。俺はケーブルがあるのでここから出られない。
まあ俺がいても何の訳にも立たないか……。専門的なことなんもわからんしな。
暇つぶしにスマホを眺めるも、なんとなく気がそぞろだ。ダンジョンのことが気になって仕方ないからだ。
グリセルダとおタヒは無事だろうか。ちゃんと飯を食えているだろうか。
あと数時間したらダンジョンに戻れる……はずだ。その間も忙しく吉田さんと清野さんたちの群れは働いていた。
「定期的に連絡が取れるようにインテリジェンスパックとダンジョンのユーティリティを改造しておきました。時間がかかってしまいましたが今までよりは連絡が取りやすくなったかと思います」
「おっさん、あのドイツ人のガキムカつくからぜーったいぶっ倒してきてよね!」
昨日は俺が死んでなくて残念そうな顔をしていたカハールカさんが、今日は全く違う事を言っていた。
「そんなにムカつくんですか?」
「そんなに。メスが声かけんなとか、女は穴とか面倒を見てる女性スタッフに対して最悪なんだよね。どんな環境で育ったらあんなゴミみたいな人格に育つのよ」
「うへえ……明らかにやばいやつじゃないですか。大丈夫です。おタヒとグリセルダもいるし。多分あいつ取ってるの【隠密行動】スキルと他の攻撃系じゃないですか? それなら多分対処できますし」
そう言うと、カハールカさんはちょっと目を輝かせた。興味はある話らしい。
「そうそう! なんで分かるの?」
「キャラクリするときにキャラを作る寸前まで数十パターン作って、仕様とスキルを探ったんですけど、明らかに強いスキルだったからですかね。そして、ガチガチ装備のアメリカ人が殺されるってことは、【隠密行動】からの不意打ちが一番可能性あるかなと。他のスキル二つはわかりませんけどね、自動小銃なら命中率向上とか?」
【隠密行動】を取っている確信はあったがあとは命中率向上は当てずっぽうだ。でも俺なら絶対に自動小銃があればそれを取る。
「お兄さんゲーマーなんか。見る目があるねえ……正解! ちなみにあとは暗殺術だったかな?」
あれ? 徐々にカハールカさんの俺への態度が軟化してる気がする。
そして貴重な情報をもらった。暗殺術は確かHPの50%以上のダメージが入った時それを25%の確率で致死ダメージにするとかいうスキルのはずだ。
自動小銃と相性が良く、おタヒと相性悪いな……。教えてもらえてよかった、記憶しておこう。
「ドイツとアメリカはさー、フィジカル強いやつ入れれば最強っしょっていうんだけどさー、私はそう思わないんだよね。仕様とスキルとテクニックの組み合わせの強さこそがダンジョンゲーで生きると思ってんの。お兄さん、初期スキル何とった?」
「【隠密行動】と【幸運のおまじない】と【鑑定】、ソロで一週間生存って話ならやっぱ必要なのこの三つかなと。それで素早さと幸運に全振り」
「渋いスキル構成だね! ソロ単騎ならたしかにあたしもそれが最強候補の一角だと思う。特にレベル上げてる時間のない、今回みたいな期間が限られてる時は幸運が強いもんね。あれ、敵に会いにくい効果とかもあるし、幸運カンストしてるとダメージ三割減るんよ。派生スキルの幸運も強いしねえ」
バサバサの髪を後ろで縛ってTシャツとジーンズのカハールカさんは楽しそうに喋る。ゲーム好きなんだろうな。
そして俺のステとスキルの考察は正しかったようだ。よかった、最初に数時間かけてキャラ作って……。
やっぱ極振りは世界を救うんだよ。人生で大事なことは全部ゲームとメテクエが教えてくれたんだ。
「本星の内務庁メンバーがクソでさ、ゲームのことなんもわかってねーの。あたし元々ゲーム制作してたからスカウトされたんだけど、こっちの話なんにも聞かないしさあ。マジムカつく。私はちゃんとゲームのことわかってるやつのほうが最終的には成功しますよ、って言ったのにさ~早速仲間割れしてやんの、馬鹿みたい」
あー、ゲームの仕事でゲームを蔑ろにされるのはいやだろうな……。しかし、内務庁側にもこんなまともな人がいるのか、安心した。
「それにデータで見たけどあんな話聞いてなかったの! ただ廃用監獄に要人を拘禁できる場所を作るだけって話だったのに! 嘘つかれてたのホント腹立つ! あたしがほとんどの改修請け負ってたのに!」
そりゃ腹が立つし寝返るだろうな……。なんとなく納得した。犯罪の片棒担ぐなんて嫌だよなあ。
「ちなみにカハールカさんはメインなんですか、サブなんですか?」
「そらこっちがメインよ。メインじゃないと出来ない業務があるかんね……サブはずっとゲームしてる」
「ゲーム好きなんですか? こっちのゲームもやります?」
「やるやる! 夜を渡ったりガチャ引いたり一狩り行ったりめっちゃエンジョイしてる! あ、そうだ。おにーさん、これであたしと遊ぼ!」
かなりゲーム好きっぽいな。カハールカさんは指でピースサインを示す。
「もしや……あの新しいやつ……!?」
「へっへっへ、先週帰りにビカメによったら売ってたんだよねえ、これが人徳ってやつよ」
そんなわけで俺とカハールカさんはなぜか例の新ゲームハードで、最新のレースゲームを遊び始めた。いやー、久々に眼の前にいる人と対戦したな、初見だけどくっそ楽しい。
一時間ほどエンジョイして、時間は10:30になっていた。
「あー、もうこんな時間か。最終チェックに行かなきゃ。結局ほぼ互角ってところだねえ……今度は別のゲームで対戦しようね!」
そう言ってカハールカさんはゲームハードを抱えて手を振って去っていった。好感度の振れ幅がでかいが面白いお姉さんだったな……。おかげで、あまり嫌なことを考えなくて済んだし。
カハールカさんと入れ替わりで帰ってきたのは吉田さんに抱えられたインテだった。鞄なのに暴れる猫のように荒ぶっている。
「チケン様ぁあああああ! おはようございまあああああす! お会いしたかったですよおおおおお!」
「茅原さんこの鞄どうにかしてください!」
鞄ってあんなにアクティブに動けるんだな……。俺とインテの距離が1.5メートルになったあたりでインテが吉田さんの腕を離れて飛び込んできた。なんとか俺はそれをキャッチする。
「チケン様ぁぁぁぁぁ!」
「ああ、よしよし……お帰り、インテ。少し変わったか?」
全然変わったところはわからないが一応聞いてみる。
「えへへへ! おわかりですが、さすがチケン様慧眼でいらっしゃいますね! 本体に機能が追加されて、こちらの本体もコーティングを新しくしたんです! あちらの私にも追々追加機能が反映されるはずですのでご安心ください! 新機能についてご説明いたしますと、装備者の視界を用いた【視界拡張】のようなナビゲーター機能と、バックアタックを防ぐためのオートバリアが実装されてございます! あと新機能といたしまして内部にナノ……」
数時間ぶりの再会だったがインテの怒涛のお喋り癖は特に改善されていないようだ。むしろ悪化しているかも知れない。
「なるほど、つまり更に便利に、更に良くなったと」
「左様でございます!」
気を抜くと無限に話し続けそうなので途中で褒めてストップを掛けた。満足気に体をうねうねさせている。これが改造の効果なのだろうか……。
「そろそろご出発の時刻が近いですね、チケン様、こちらでなにかやり残しなどは?」
「うーん……特に無いけど、明日サブの俺とやらがちゃんとグッズ回収してくるかが気になるなあ」
「インテが確認してお伝えします!」
「助かる。さすが優秀な鞄だ」
インテを撫でるとご機嫌そうだった。鼻歌まで歌っている。聞いたことのない歌だが楽しそうなので俺はそのままにしておくことにした。




