第87話 現実にて 7
流石に俺は眉間にシワを寄せ、目を擦って部屋の様子を確認した。何度見ても同じ人間が二人ずついる。あまりにもあまりなので質問する。
「なんで部屋に俺含め6人いるんですかね?」
「な、何ででしょうね」
「ふ、不思議ですね、幻覚じゃないですか?」
出入り口ゾーンと思われる場所に近い二人が、そっと移動しようとしていたが、新たにそこにもう二人が出現した。
「主任ー! ……あっ」
入ってきた二人が気まずそうな顔をしている。もちろん吉田さんと清野さんのペアである。
「あっ……」
「ええ……」
「ちょ……」
ツーペアだった吉田さんと清野さんがスリーペアになり、部屋の合計人数が8人になった。
四方さんがこの世のものとも思えない顔で涙目をして絶叫する。
「あなた達ーーーーーーー!!!!」
「すみませんでしたああああああああ!」
6人が美しいユニゾンで絶叫謝罪するのを、俺は生まれて初めて聞いた。
「ええと、ご説明願ってもよろしいですか?」
俺はあまりの事態に理解が追いつかず、インテを膝の上に乗せながら質問する。この場で俺の理解がまだ追いつく人物(?)はインテだけなのである。助けてくれインテ。
3人の吉田さんと清野さん、そして一人の四方さんが気まずそうにしている。
「茅原さん、もう少しお待ち下さい……」
すると、部屋の隅からもう一人の四方さんが現れた。こちらの四方さんはスーツを着ている。四方さんは二人、吉田さんと清野さんは三人ずつ。あと三人のトリオが一組いれば麻雀の役が出来そうだ。どんな役かはわからないが少なくとも多分ツモれる。
ポーカーならフルハウスができて、なお三枚余る。意味がわからない。
人間ボードゲームか? 業が深い。
「インテ、俺が見てるこの光景は現実か? 夢じゃないのか?」
「現実でございますねぇ。なんならほっぺたに痛覚刺激でも与えてみます?」
「頼む」
インテの金具が一瞬光ってほっぺたに静電気のような痛みが走った。なるほどこれは現実である。多分。
それによく見ると、病院の制服の二人、私服でお買い物の二人、謎制服の二人。全組着ている服が違った。
「程よい痛みだった。確かに現実っぽいな……」
「お褒めの言葉恐縮です」
俺の眼の前に沈痛な面持ちの八人が並ぶ。しかしその内容は実質三人である。
四方さんは深く息をついて俺の前に椅子をおいて座り、覚悟を決めたように喋り始めた。
「大変な失礼をいたしました。インテから聞いてもうご存知かも知れませんが、私共はこの地球の人間ではないのです。後日ご説明しようと思っていたのですが……」
薄々はわかってたけど、はっきりと聞いてはいなかったな。
「いや、初めて聞きましたけど」
「スフォー様やダンジョンについての説明はいたしましたが皆様については何一つ喋っておりませんよ。私の情報保護機能を馬鹿にしないでいただきたいです、大変不愉快です」
それを聞いた四方さんはやらかした……という顔をしている。後ろで立っている六人もひたすらに気まずそうだ。
「そうなのですか、さすが叔父様の鞄、セキュリティ意識が高くて素晴らしいですね」
四方さんの力ない言葉に、インテはニコニコとしている様子が何となく伝わってきた。顔が見えればドヤ顔をしているだろう。
「ええと、それで……私達は地球から観測できない遠い宇宙の星、テオネリアという惑星から参りました。わかりやすくいえば人間に近い形の異星人ですね」
なんとなく知ってはいたが、ちょっとメテクエの舞台の星の名前に似ているな。テオレアって星が舞台だった。
「それで、この複数いる我々の体は、サブ運用のための体ですね。メインの体があって、全く同じ思考、同じ能力の体を複数運用しています。何しろ、人口が少ないもので、人的資源を最大まで活用するべくそうなってしまったのです……」
四方さん(制服の姿)は自分たちの来歴を話してくれた。
テオネリアは地球ににた環境の星で、数千年前から科学とともに魔術が発展した世界だった。魔術はやがて『スキル』と呼ばれるようになり、科学同様生活の一技術として発達したらしい。
テオネリアの住民は当初地球のように数十年程度の寿命しか持たなかった。
しかし魔法と科学技術の進歩により寿命が数百年に伸びると今度は人口問題に悩み、外宇宙へと進出を始めた。
そしてそれから暫く経つと、テオネリアの人口構造を大きく変える新技術が発見される。『魂の発見』そして『魂の物質化』である。
「あー。よくファンタジーとかで聞く設定ですけど、どういうものなんです……?」
四方さんは沈痛な顔で答える。
「魂の実在が発見されたんですよ。生き物は魂というエネルギーと物質の中間的な存在を持つことにより生を得るという発見なんですが、ここでは詳しく説明できません。大変長い説明になりますので……。そして、物質化のほうが問題だったんです」
魂には二つの性質がある。
宿っている物を生かす力。そして新しい命……子孫を増やす力の二つだ。
そして、生命体にある『子孫を作る力』を物質化し、生かす力に変えて再度取り込むことでテオネリアの住民の寿命は急激に伸びた。
数百年の寿命が千年を超えるものも珍しくなくなった。そして、貧しい民から『魂』を買い取り、自分の寿命に付け足す、という金持ち仕草が増えたらしい。
もちろん、それだとやがて金持ちしかいない世界が生まれてしまう。
なので、人口の増減や反対運動、法の改正などで、『自分の持つ命を生み出す力』だけを寿命の延長に使うことが法律で定められた。
そして、千年以上を生きるのが普通になったテオネリアに、新たな技術革命が生まれる。
「私達はただ『扉』と呼んでおりますが……そうですね、こちらの言葉でわかりやすく言うなら『アカシック・ドア』とでも申しましょうか……どこにでも行ける可能性のある異空間が発見されたんです」
「どこでもドアってことです?」
「うーん、どこでもドアの集合体みたいな場所です。ドア一つ一つは無限にあって、どのドアがどこにつながっているかは開けてみないとわからないんです。あるドアから行ける場所は固定なので、1つずつ調査は進んでいるのですが、なかなか……数十億個以上のドアがございまして、まだ1%も調査が進んでいないのが実情です」
ドアの中には入った瞬間即死するような環境へのドアも割とあるらしく、調査が大変らしい。
そして、テオネリア人は自分の子孫の寿命と言えるものを使って自分を延命している。故に人口は減少傾向にあり、これも問題になっている。
「それを解決しようとして、扉を使って外宇宙に進出しようとしているものが居りました」
「それって」
「……ご推察かも知れません。外宇宙の人間の『魂』を物質化して、自分たちの寿命に変えよう、という一派がいたのです。つまるところ、他星の人間を資源化しようとしたのですね……」
聞いてるだけで嫌になってしまう。
人間を資源にするというのはこちらの世界でもあった流れだが。
どこにでも、人の心のないやつはいるもんなんだな……。




