第84話 現実にて 5
「いやあ、いいですねぇ、人間の魂の叫びは……! 健康になっちゃいます」
俺の絶叫を聞いた吉田さんの反応である。
あっ、薄々感づいてたけどこの人やっぱり怖い人だ……。俺は助けてくれという願いを込めてインテの鞄のベルトを握りしめる。
「ただ、まあやっぱり茅原さんにはダンジョン攻略に専念していただきたいんですよ。なのでこういうのはどうですか? 弊社負担で引越し業者にお願いして荷物を回収して、レンタル倉庫に茅原さんがお家を決めるまでの間に保管しておくというのは?」
「そんなん出来るんですか!?」
マジか、まあ見られるのがちょっと恥ずかしい(水着タペストリーとかもあるので)が、背に腹は代えられない。
「出来ますよー、そのくらいの予算は出ます。ちなみに、何のジャンルのグッズですか?」
「メテクエです! ソシャゲのメテオライトクエストです! 他のジャンルは多分無いはず!」
そう言うと飲み物を飲んでいた清野さんと四方さんが飲み物を吹き出し呼吸困難に陥り、吉田さんが急に背中を向いてひーひー言いながら床をバンバン叩いている。
「うぇひっひ……アハハハハハハハハ! 解りました! 回収に……アハハハハハハハハ! ひー!! ウヒャヒャヒャヒャ! 人生!! おもしろすぎですねっ!」
「ゲホブホッガハッ」
「!?!?!!!?!」
10分経っても吉田さんはツボに入った何かが取れず爆笑しているし、四方さんと清野さんはテーブルにうずくまって呼吸困難に陥っている。二人は明らかに喉から鼻に飲み物が直撃して大ダメージを受けていた。
鼻から吹き出したコーヒーが見るも無惨にテーブルに撒き散っている。
「インテ、これ何が起きてるんだ? あの……皆さん大丈夫です?」
「さあ……この天才インテリジェンスパックの私にもわからないことがあるんですね、世界は広いです……」
「……メテクエ、そんなに駄目でした?」
「いえっ……うふふふふふふ! 全然駄目じゃないですよ! アハハハハハハ、ごめんなさい、ちょっとツボっちゃって! うふっ、ごめんなさい、ちょっと席外しますね。五分で戻ります!」
吉田さんはそう言うと、見た目にそぐわぬ怪力で清野さんと四方さんを抱えて部屋の隅から何処か別室に消えた。
予告通り五分後に戻ってきた三人は、元通りの冷静な顔に戻っていた。
「失礼いたしました、それではお話の続きですね! で、買い物は何がほしいんですか?」
俺はさっき書き込んでいた欲しいもののメモを渡した。
「えー何々……包丁、ピーラー、皿数枚、ステンレスのコップ(キャンプ用のアレ)、箸、スプーン、カレールー、ビーフシチューの素、味塩コショウ、めんつゆ、どらやき、サラダ油、お茶、羊羹、コーヒー、紅茶、チョコチップクッキー、チョコレート……なんですか、この子どものお使いみたいなメモは?」
四方さんが困惑している。まあ俺でもそう言う感想は持つだろうな。
「いや、あのですね、多少先程のヴィルステッド村で調味料は補給したんですけど、基本自炊なんですよ。現地で採ったものを現地で捌いて食ってるんです。ずっと味付けが塩とペッパードラゴンの胡椒味しかなくて……グリセルダとおタヒは料理できねえし、でもまともなもの俺も食いたいし、あいつらにうまいもん食わせてやりたいし……」
「レーションとかじゃ駄目なんですか?」
もっともな質問ではある。
「そんなの絶対すぐ飽きるし……野宿みたいなもんなので楽しみがほしいんですよ」
「あー、確かに。主任、そのくらい買ってあげましょうよ。単純なアイテムですから1日くらいで転送できるはずです。それに食生活の豊かさはQOLを上げます。QOLが上がると効率も上がるんです。主任みたいに1年中同じご飯で生活できる人のほうがこちらには少ないんですよ」
吉田さんが助け舟を出してくれた。天使か。てか一年中同じの食べてるんだ四方さん……。
「悲鳴も毎日同じ悲鳴だと飽きますからね……たまには別の悲鳴も聞かないと精神衛生が」
前言撤回。やっぱり怖い人だ。悲鳴の定義について聞きたいが、怖くて聞けない。
「なるほど、解りました。転送時間がかかるのですぐは無理ですけど準備させます。他に必要なものは?」
「うーん、スマホとか持ち込めます?」
「電子機器は持ち込み禁止なんですよ」
そりゃそうか、刑務所なんだもんな……。
「インテ、応急手当キットとかは未だあるのか? 何かこっちのやつよりだいぶん性能良さそうだったけど」
「はい! スフォー様が使う前に死んだのでたっぷり残ってございます!」
それを聞いた瞬間三人が神妙な顔になる。が、俺にはどうしようもないので見なかったことにする。流石にあの貫かれっぷりだと応急手当とかそう言う次元じゃなさそうだったしな……。
「じゃあ大丈夫そうだな」
「この先も水場は一定間隔であるんだよな?」
「はい、よほど変なルートを取らない限り1日に2回以上遭遇できる設計になっているはずです」
水の心配は今後も不必要そうだ。良かった。
「武器とかは……拳銃拾ったやつ一応あるんですけど、使ってもいいですか?」
「構いません。法令に則って私が許可を出しておきます」
「敵が何使ってるか解ります?」
「現在容疑者から聞き取り中ですね、暫くお待ち下さい」
あとの問題は俺のコレクション問題か……。
「あの、俺のコレクションって……」
「メテオライトクエストのグッズ他、全部回収、ということで宜しいですね?」
「それでお願いします! 何日ころに行きます? 今月中って言ってるんですけど」
「では明後日とご家族にお伝え下さい」
グッズは段ボール三箱分くらいで、目印に赤いガムテープをつけていること、寝具やゲーム機なんかはあるがそれは親の好きにさせて構わないことを告げると、了承してもらえた。
まあゲーム機や寝具や家電は買い直せるし……。DL派だから実ソフト持ってないんだよな。ある意味助かった。
箱を開けないから水着タペストリーとかの秘密は守られそうだし。
インテは『私がお預かりしましょうか?』と言ってくれたが、インテに見られるのもちょっと恥ずかしいし、そもそもこの治験を終えたあとインテといられるかもわからない。
お気持ちだけ有り難く頂戴しておいた。
「気遣いのできる良いカバンだよ、お前は」
「そうでしょう! ですからいつまでもおそばに置いてくださいね!」
それが叶うかどうかは俺ではなくスフォーのおっさんや、この四方さん達の判断によるところだろう。俺は曖昧にインテを撫でて誤魔化した。
その後、2時間ほどベッドに横たわってメディカルチェックを受けることになった。
吉田さんを中心に、病院でちらほら見た看護師さんたちが俺の体調をチェックしているようだが、見たことのない機材や制服を着て、未知の言語で話しているために全く何が行われているかわからない。
(翻訳しましょうか?)
小声でインテが申し出てくれたが一応辞めておいた。あの人達も俺に理解されない前提で会話してるんだろうしな。
(俺の生死に関わるようなことがあったら教えてくれ)
(畏まりました!)
さて、時間が余ったな……。とりあえず、かーちゃんと弟にはメッセージを返しておいた。あさって回収に行くと。かーちゃんからは即長文のお気持ちが返ってきたが既読はつけずにおく。
久しぶりにメテクエログインしてログボもらって他のゲームもチェックしてSNS見ておくか……。
グリセルダとおタヒ、怒ってるかなあ。元気にしてるかなあ。
全くわからないが今の俺にできることはメモで安否を知らせることだけだった。そろそろ届いているだろうか……。




