第81話 現実にて 3
俺の言葉に四方さんは首を横に振った。
「いいえ、もっと大事な、別の目的が有り茅原さんにダンジョンに接続していただいておりました。ただ、本当に極秘でしたので今までお話することが出来ず……心よりお詫び申し上げます」
「極秘ですか……」
一体、スフォーのおっさん(超金持ちで自分の親類で上司)の安否より大事な任務って、一体何なんだ……?
「あ、そうだ。あの、先に聞きたいことがあるんです」
「何でございましょう」
「あの、よければもう一回ログインできませんか、ダンジョンに。中で出会った人と約束をしているんです、俺」
「……いえ、それはこちらからもお願いしたいことでした。是非ともよろしくお願いします」
四方さん吉田さん清野さんは立ち上がり、こちらに見事な礼をする。
「ご協力感謝します!」
こうしてみると、何かの役人か何かに見える。
「インテに戻ることを伝えてもらっていいですか? インテ越しでなら多分同行者に話は伝わると思うので……というか、インテの中に俺が入って戻るわけには……」
「チケン様ごめんなさい! 天才かつ才能あふるるインテリジェンスパックであるインテにも生物の移動だけは出来ないんです! 死体ならいけますよ! どうしますか!?」
「いや、死体はちょっとな……」
流石に生物の移動は無理だったか。
「畏まりました。もちろん結構です。ただ、事情聴取のお時間をいただきたいので地球時間で24時間ほど後、ということでいかがでしょう?」
「……解りました。あと、紙と書くものか何かありますか?」
「どうぞチケン様!」
四方さんが立ち上がるより先にインテが先に俺の手元にメモ帳とペンを投げ込んできた。褒めて欲しそうな雰囲気を感じたので、一応褒めておく。
「インテは気が利くなあ、さすが天才バッグだよ」
「でしょう、そうでしょう! それをおわかりになるチケン様は誠に最高の御主人様です!」
「じゃあ書き終わるまでちょっと黙っててな」
俺はメモ帳に書き込む。多分、おタヒなら読めるだろう……多分。
『グリセルダとおタヒへ チケンです 今俺は事情があって元の世界に戻っている。しかし、一日後には戻れるようにお願いしたのでそれまでの間、村かどこか、安全なところで待っていてくれ。必ず戻るから。 急にログアウトしてごめん』
そう書き込んで、俺はいつの間にか膝の上に移動してきていたインテの中にちぎったメモ帳に書いたメモをつっこんだ。字は書家レベルのおタヒに見せるのは正直嫌だが、まあ読めりゃええやろ、読めりゃ。俺はペン習字は習ってないんだ。
「インテ、これグリセルダとおタヒに渡してくれ。頼めるか?」
「勿論でございます! かなり距離が離れておりますので暫くかかりますがお任せください!」
「インテ、お前に会えてよかったよ。お前本当にいいカバンだな」
「うふふ~~~~~~! えへへ、そうなんです! 素敵でしょう?」
俺はインテの表面を手で撫でる。すると、インテはカバンのベルトをパタパタと動かしていた。喜んでもらえて何より。
「中で会った人に約束したんです。絶対に最下層につれていくって。あ、そうだ。インテ、身分証を」
「はい!」
すると、インテはスフォーのおっさんの身分証(銀色のカードの上に名前っぽい記号と紋章の着いた豪華なやつだった)を出してくれたので、四方さんに渡す。
「これ、最下層に着いたら渡してくれって言われてたんですけど、とりあえず今渡しておきます。スフォーのおっさん、これで生き返れます?」
四方さんは身分証をもらうと両手で大切に抱きしめ、ボロボロと泣いた。
「叔父様、良かった……! これで手続きができます……!」
「よかった、長官復活ですね!」
「マジで良かったです。茅原さん、僕からもお礼を。ありがとうございます……!」
「色々お世話になったので、恩返しできてよかったです」
やっぱりこの人たちは法務官とという人らしい。そして、その長官と呼ばれるスフォーのおっさんは司法長官だったのか……。しかし、司法長官みたいな役職の要人が何十年も死にっぱなしで許されるのか?
わからないことだらけだった。
四方さんを囲むように吉田さんと清野さんも喜んでいる。うーん、いいことをした気持ちになる。実際には大したことをしていないのに……。
その間、俺は水を飲んでのんびり三人が落ち着くのを待っている。
聞きたいこと、してほしい事もまとめておいたほうがいいだろう。メモに思いつくことを片っ端から書き出すことにした。
しばらくして三人はバタバタといろいろな手続をしていたのが落ち着いたようだ。
「それでは続きの話を聞かせていただけますか?」
「それで二層にいったら、グリセルダにあったんですよ。吉田さんは知ってますよね、ローレンツェンのグリセルダ。あの悪や……いえ、あの王太子妃の婚約者のグリセルダにあったんです」
「え!? 知ってますけど、知ってますけど……グリセルダって実在の人物なんですか!?」
え? 吉田さんも知らなかったの? どういうコト?
「わかんないです……でも、グリセルダはゲーム中の情報だけではないいろんなことを話してくれました。ローレンツェンの幼年学校の寮にいた話とか、思い出話を色々……これってゲーム中やファンブックとかに出てる話なんですか?」
「いいえ、そんな話はないです!」
吉田さんは暫く考え込んで、メモを取っているようだった。俺の知らない文字で高速にメモは記入されていく。俺は続きを促され、ダンジョンでの出来事を語る。
「それで、グリセルダがダンジョンに放り込まれてお腹空かせてたから飯を分けてあげて、一緒に最下層目指すことになったんです。その間、ヴィルステッド王都って街に住んでた死んだ令嬢の手帳を拾ったりしました」
「ヴィルステッド王国の首都ですね……セーレ、その周辺の情報再調査」
「了解です」
「ええと、これは喋ってもいいのかな……グリセルダは、何回も死んだ記憶があるらしくゲーム内のイベントとかもいくつか覚えてました。それで、パーティーを組んで三層に向かうときに、三層入口の前に全裸の死体が有りまして……それが、なんかアメリカ人? か何かだったんですよね」
「なんでアメリカ人だと?」
「白くて茶色の髪で180センチ以上あって100キロ位ありそうな体格で、壁に血文字で『クソドイツ人許さん』みたいなことを英語で書いてたからですかね……あと、吉田さんだったか清野さんが言ってましたよね。アメリカとドイツでも治験をやってるって。だからです」
四方さんに目配せされた清野さんがデータを調べ始めていた。仕事早いなあ。
「それで、気になるけど二人で三層に向かったんです。そしたらおタヒがいて……」
「おタヒ?」
「えっ」
四方さんがわからなさそうな顔をしていた。そりゃそうだ。おタヒって『蘇芳宮の花嫁』のガチ目のプレイヤーの間での愛称だからな……。そして案の定吉田さんはぎょっとしている。
「ほら、治験で『蘇芳宮の花嫁』ってやりましたよね。あれの悪役令嬢の乙橘皇女、あいつがいたんですよ」
「茅原さん、そこんとこもうちょっと詳しく」
吉田さんがぐいぐいくるな。やっぱオタクなのかな。
「なんか、おタヒもダンジョンに叩き込まれて、第一層で中央に屠殺場みたいなのがある大聖堂でお姫様みたいな人が殺されるのを見たから二層に逃げたらしいんですよ。そしたら二層の草原でおそらく、なんですけど。そのアメリカ人とドイツ人がタッグを組んで女性を襲っていたらしく……」
そこで四方さんが清野さんに目配せすると、清野さんは了解、と言わんばかりにまた空中にモニターを増やして調査を始めた。




