第80話 現実にて 2
「茅原さんからお願いします。そこの犯罪者をちょっと別室に移送しますのでしばしお待ち下さい」
「はー? まだ未決なんじゃないのー!?」
犯罪者呼ばわりされた謎のお姉さんが抗議する。俺をさっき「死んでないの?」とかいってたお姉さんだ。
「カハールカさん司法取引おやめになるんですか? 法廷行っちゃいます?」
楽しそうに吉田さんが言うと、一瞬にして謎のお姉さんことカハールカさんが青ざめる。
「いえ! なんでもございません! 私は犯罪者です!」
「宜しい」
「司法取引辞めたくなったらいつでもおっしゃってくださいね♡ 法廷でバトルも望むところでーす♡」
四方さんは満足そうに肯いてるし、吉田さんが凄まじく笑顔だ。俺、こう言うお姉さん怒らせるとやばいの知ってる。カハールカさんは清野さんの後ろに隠れてガクブルしていた。
清野さんからは(面倒くせーな)という感情が伝わってくるが微笑みを崩していない。偉いなあ……。
清野さんに連れられて部屋の隅に行ったカハールカさんは清野さんと一緒に一瞬で消え、数十秒経ってから清野さんが単独で再び現れた。
「容疑者については拘禁室で残りの作業に戻ってもらいましたよ、監視もしてます。ご安心を」
「ありがとうセーレ、では……茅原さん、追加のお水などはいかがですか?」
「あ、お願いします」
四方さんは自ら水差しからコップに水を注いで渡してくれた。ゲームのコスプレのような服だが、着こなしが熟れている。明らかに普段着ている感じだ。
なにかの服に似ていると思ったが、そうだ。メテクエ(メテオライトクエストという俺の人生をかけたソシャゲ※サ終済)のイベントに出てきた司法官の服に似てるんだ。
「四方さんは……一体何を聞きたいんですか?」
「私共はあのダンジョンを『牢獄』と呼んでおります。その牢獄にログインしてからあったことを事細かに教えていただきたく」
「ええと、まず第一層に着いたんですよ。そこは草原と小さな木立のあるフィールドで、最初はそこでカブトムシを狩ってレベル上げなんかしてたんです」
カブトムシ、と言った瞬間四方さんの眉間にシワが入り、吉田さんと清野さんが笑いをこらえている顔が見て取れた。何? カブトムシってギャグなの? まあ俺も聞いたら笑うかもしれんな……。
「どうぞ、お続けになってください」
「そのフィールドで黒いモヤの亡霊さんに出会って、カブトムシを欲しがってたから上げたらマジックバッグと装備いっぱいを貰ったんですよね」
四方さんの眉間のシワは限界まで深くなり、吉田さんと清野さんの顔もチベットスナギツネの顔になる。え? 一体何?
「何だっけな、カバンの名前はあとで本鞄から聞いたんですけどインテリジェンスパック1025-イプシロンデルタとかだったっけ……」
四方さんは口をあんぐりと大きく開け、吉田さんと清野さんも口には出さないが(マジか)って顔をしていた。
「え? あの、駄目でした?」
「いえ、あの、茅原さん。その亡霊の名前、聞きました?」
「はい。スフォーって名前のおじさんでしたよ。死んでるけどのんびりして気の良いおっさんでした!」
三人とも口をあんぐり開け、俺を凝視している。え? なに、もしかして、知り合いなのか……?
俺がビビっていると、なんとか力を奮い立たせたような決意を秘めた表情で四方さんは俺を見つめて、口を開く。
「私、四方と申し上げておりましたが、実は本名がございまして……」
えっ。四方さんは四方さんじゃない? どゆこと?
「私の本名はジュスティーヌ・ド・スフォー。茅原さんのお会いした亡霊、ジュスト・ド・スフォーの姪です……」
「ええええええ!? 似てないですね……雰囲気とかが……」
よく考えたらスフォーのおっさんの顔知らないもんな。でも雰囲気がぜんぜん違う。
「それはまあよく言われますが、少々お待ちください。セーレ、叔父様の鞄、取り寄せられる?」
「あ、すぐ出せますよ」
清野さんはセーレと呼ばれているのか。清野さん、いやセーレさんは部屋の片隅のロッカーに何かを入力し、ドアが開くと鞄が出てきた。
「インテ!?」
そう、リボンこそ無いが、あれはインテだ。なんでこんな瓜二つの鞄が!?
そう思った瞬間、インテが絶叫する。
「チケン様ああああああああ! インテは心よりチケン様にお会いしたかったです! いきなりログアウトされるだなんて酷いです! 繊細な鞄のハートを振り回さないでくださいっ! グリセルダ様やおタヒ様、村人様、皆様がチケン様のことを心配されてですねっ! いいですかチケン様、チケン様はインテの生存する唯一人のご主人で世界でいちばん大事な人なんです、ですので……」
「インテ、ストップ! 空気の読めるインテリジェンスパックのインテさん! ちょっとまって!」
「畏まりました!」
その様子を見ていた三人は頭を抱えた。
「マジかよ、マジで長官あそこで死んでるのかよ……一層で死ぬとかどんだけ抜けてるんだよ……」
「まあそんなこったろーと私は思ってましたけどね……しかし、インテリジェンスパックに懐かれるなんて面白すぎませんか」
「ごめんね二人共、叔父様がちょっと……アレで……」
大分混乱してきた。なんでインテが二人いるんだ???
「ええと、茅原さん失礼しました。本当に鞄の所有権限を譲渡されているようですね。インテリジェンスパックは持ち主の許可した相手にしか譲渡できない仕組みになっているので叔父様の鞄を持っている、ということで叔父様の死亡はだいたい確認しました……」
四方さんが沈痛な面持ちで頭を抱えている。可哀想に。
「ええと、僕からもいいですか? スフォー長官は僕らの上司なんですが、カブトムシを見に行くと言い残して行方不明になったのは事実なんです。しかし、カブトムシに殺されるほど流石にぼんやりしてないはずなんですが……」
清野さんが当然の疑問を口にした。
「あ、何かユニコーンみたいな角を持った鹿に後ろから突き殺されたみたいです。だよな、インテ?」
「はい! 左様でございます。私も確認いたしました!」
吉田さんが難しい顔をしている。
「茅原さんが最初に訪れた第一層『平和な草原』には虫しかいないはずなんですよね……他になにかいました?」
「でかいネズミとかもいたような……あっ、そうそう。スフォーのおっさんが『ここは日が落ちるとレイスなんかのたちの悪いアンデッドが出るから早く逃げなさい』って言ってくれて、それで二層に移動したんです」
「インテリジェンスパック1025-εΔ、事実ですか?」
「事実です」
三人はやはり酷い顔をしていた。例えるなら、同僚のあり得ないやらかしを見る会社員のような顔だ。
「ところで、なんでダンジョンの中にあったインテがここに?」
「えっへん。それはですね! 長期間の旅行などになりますと、後からあれがほしいこれがほしい! となりますよね! なので、詰めきれないものや忘れたものは別の場所にカバンを置いておけば、誰かに必要なものを入れてもらえればあちらで取り出せる仕組みになっているんです。お引越しやご旅行に大変便利な機能になっていると存じます! もちろん記憶も共有してございますので、更に詳しく機能を解説いたしますと……」
「インテ、ストップ!」
「はい!」
こっちのインテも放っておくと無限に喋るな……。ストップと言うと止めてくれるからまだいいけど。
「ええと、インテリジェンスパックは個人的なものを入れることが多いものですから、所有者以外には絶対口を開かないのですよね、基本的に……。なので、今まで叔父の安否がわからないままでいたのです。心よりご協力感謝いたします」
「そうだったんですか、お役に立てたなら何よりです……いや、お悔やみを言うべきなんですかね……」
なるほど、スフォーのおっさんは自称でも他称でも本当に地位のあるすごい金持ちだったっぽいのはわかってきた。あんなもんホイホイ俺にくれるんだもんな。
「もしかして、その為に俺をダンジョンに?」
まあ、それなら納得だな。




