第78話 愚かさについて
「やだぁー! インテ、チケンを帰らせないこと出来ないの!?」
おタヒは自分の思うようにならない件があるとどんな努力でもするタイプの人間だ。良くも悪くも何でもする。
「うーん、私もそうしたいのは山々ですが、肉体が存在しリンクしている以上、地球にあると言うチケン様の肉体を保護している人間次第なのですよね……」
インテも引き止めてくれるのは嬉しいが、そうなんだよな……。送り込んできた治験会社の人たちの意図がわからないんだよな……。
「まあいいや、なるようになるだろ。とりあえず村に戻って挨拶して、五層入口まで行こう。進めるだけ進んでおきたいしな。もし俺がいなくなったらインテを頼れ。多分俺よりインテのほうが頼りになる」
「インテ嬢が頼りになるのは私にもわかる。しかし、私はチケンとともに最下層にたどり着きたいのだ、どうにかならぬのか」
うう……グリセルダの言葉が死ぬほど嬉しい。何なら今死んでもいい。
しかし、グリセルダに苦しい顔をさせている自分が憎い。俺のアホ。
あ、そうか。ひらめいた!
「じゃあ今ここで死ねば接続切れて黒いモヤになって最下層までついていけるんじゃないか!?」
俺は天才的アイディアを思いついたつもりだった。
「チケンの馬鹿! そんなのだめに決まってるでしょ! そうしたら誰が私の代わりに敵にとどめを刺すのよ!」
「辞めておけ、死ぬのは楽ではないぞ……私は正直もう天寿以外では死にたくない」
グリセルダの言葉には実感がこもっていた。そうだよな、死ぬのは楽じゃないか……それを何十回もやってもめげなかったグリセルダのメンタルが強すぎるんだが。
「私もお辞めになったほうがよろしいかと。亡霊になれるかどうかは才能の世界です。臨死体験もかなり現実に近い設定になっていますし、かなりの心理的負担が想定されます。魔力が初期値のチケン様が亡霊になれる確率は1.45%です、無謀な賭けですね。むしろ、ここで死ぬと肉体に戻ったうえでこのダンジョンへの再接続が不可能になる可能性もございます」
インテからも怒涛のダメ出しを食らってしまった。
まあ俺も死にたくはないけどさあ……。
くそ、どうしたらいいんだ。まーったく! 何も! わからん!
俺はヤケクソで草の上にゴロンと寝転がった。
「とりあえず俺が考えうる対策は全部やった! と思う……いや、まだやってないことがあるな」
「何だ?」
俺は飛び起きて、グリセルダに手袋を外してもらっていつもの儀式をする。
「グリセルダが幸せになりますように!」
「おタヒも幸せになりますように!」
「よし、次は村に戻るぞ」
「自分の分はどうした、チケン」
「いや、まだ使うべき場所があるのを思い出したから」
怪訝な顔をするグリセルダとおタヒ、インテを連れて俺は村に戻って村長を呼んだ。
「そろそろ出発しようと思うんですよ、色々お世話になりました」
「おや、もうご出発するのですか……そうだ、ミネルヴァ、村のみんなを呼んでおいで」
「ええ、皆様もう少しだけここでお待ち下さいね」
しばらくすると黒モヤの人たちがたくさん集まってきた。手に手に何かを持っている。
「よかったら着替えにこれを、普段遣いに出来るデザインにしましたわ!」
「俺の作ったナイフだよ、よかったら持っていってくれ」
「そのお姫様によかったら私の作った髪飾りを、魔除けにもなりますの」
「これ日持ちするお菓子なんです、なんなら1年後とかのほうが美味しいやつなんですよ!」
「そこの女剣士さんによかったらこれどうぞ。俺の作った剣の手入れ用のオイルだよ。切れ味が落ちにくくなるんだ」
村の人々はそれぞれの手に自慢の品を持ち見送りに来てくれた。
一晩しかいなかったし、ちょっと敵を倒しただけなのに、盛大にお見送りをしてくれる。俺はカバンに頂き物をしまい込み、おタヒとグリセルダがそれぞれに礼をする。
暇つぶしとか、そう言う面もあるんだろうが、ここに居る人達は善良な心の持ち主なんだろうな。少しは見習えよあのPK追い剥ぎは。
恩返しができればいいのだが、少なくとも最下層にたどり着く必要はあるんだろうな。この次の層には俺の運命? とおそらくPKがいるはずだが、PKはもう6層とかにいってるかも知れないし動きが読めない。
そもそも俺の運命とは何なのか。さっぱりわからん。あの王子はもっと現代文、もしくはローレンツェン語の勉強をしたほうがいいと思う。
貰い物の中に、何かきれいなリボンがあった。おタヒは金色の櫛を貰ってご満悦だしグリセルダはリボンを使わない。そして、それは俺の推しであるエト姫のイメージカラー、ラピスラズリブルーだった。
「これ貰っていいんですか?」
「ええ! 使ってくださると嬉しいです! 私が染めましたの!」
「じゃあカバンにつけさせてもらいます」
インテのカバンには何かを引っ掛けるための金具があった。それにちょうちょ結びでリボンを縛り付ける。なんとなくメテクエ(エト姫)のオタクである自負がわいてきて気分が良い。
「どうでしょう、似合いますか?」
「いいと思います!」
「ふむ、カバンを装うというのは想定外だったが似合うではないか」
「髪の毛につけたら何か引っかかったとき悲惨だからな……」
蜘蛛の巣の時はブチブチ髪の毛が抜けて地味に痛くて最悪だったからな……。
空気を読んでインテは喋らないが、ご機嫌そうな雰囲気がある。喜んでもらえてよかった。インテも可愛い女の子っぽいからな。
「あ、そうだ、これって使いますか?」
俺は戦利品をカバンから取り出した。白いサッカーボールのような玉をいくつか取り出す。
「これ、上の層にいるギガントケイブスパイダーって蜘蛛の糸なんですけど、なんかいい布になるみたいなんで」
加工法のわからない俺達には宝の持ち腐れだしなあ。
「まあ、助かります! この層にいる蜘蛛からはあまり取れなくて。これがあれば絹よりも上質な糸がたくさんとれるんですよ!」
「釣り糸にもいいんですよねえ」
鑑定は本当だったようだ。喜んでもらえてよかった。
「そうだ、ちょっと皆さん近寄ってきてもらえますか?できるだけ詰めて」
俺は当初の目的を思い出す。沢山の人がいる今でなくては試せないこと。そして成功すれば少しは恩返しになるかもしれないことだ。
モヤの人たちは一応薄っすらと感覚があって触れはする。ただ、力を抜くとすり抜けていってしまう。よし、やるだけやってみるか。
「ここに居るみなさんが幸せになりますように!」
ブワッとここにいる村人全員に緑色の光が浮かんで消えて、俺のMPも同時にゼロになった。
なるほど、しかし熟練度が一気に村人の人数分だけ上がった。
村人は一日だけだが幸運になる。俺は熟練度が上がる。Win-Winだ。【幸運の祈り】とかいうクソ強スキルの熟練度が上がり、レベルが上った。詳細は後で見よう。
そう思った瞬間、頭がくらくらし始める。やべえ、一気にMP消費しすぎたのか……まあ寝ていれば回復するだろう。このままだと倒れる予感がある。それはまずい。
「ちょっと休憩します!」
そう大声で宣言して、俺はその場でごろりと横になって目を閉じた。いきなりぶっ倒れるよりは多分いいだろう…………。




