第77話 ガチャで溶かしただけなのに
うーん、謎が多い。何故銃を持ち込んでるのか、そしてそれが現実のゲーム会社に関連しているという。
……このダンジョンゲーを作った会社の社員が趣味でPKをしているとかだろうか。
「インテ、その会社についてわかることってある?」
「うーん、データには登録されておりませんね……申し訳ございません。私のデータベースはスフォー様がダンジョンにお入りになった48年と2ヶ月前から止まっておりまして……」
「ああ、じゃあしょうがないよな、ありがとな」
インテでわかんないなら俺にわかるわけがねえ。諦めよう。
「これは使っていいものなのか、チケン?」
銃を持ったグリセルダが困った顔をしている。やっぱグリセルダの手にはぴったりサイズのようだ。かっこいい。似合う。写真撮りたい。
「いいよ、1時間にマガジン1個につき100発くらいだしうるさいから過信はできないけどな」
「結界を抜けるか試してみても構わぬか?」
そういえばそうだった。チョークで結界を作って拳銃で撃ってみる。ほぼ同じ箇所を狙って撃って50発目くらいでやっとヒビが入ってきた。
「結界は参考にならないんじゃないか?」
「そうだな……」
そこで、村にちょっと戻って板を数枚貰ってきた。薄い板と厚い板である。試し打ちしてみると薄い板は抜けるが厚い板も結構めり込む。
頼り切ることは出来ないが、全く無駄というわけでもない微妙なラインの武器ではある。
「ふむ……モンスター相手には威嚇位にはなるか?」
「グリセルダの腕なら普通の相手には剣のほうが強いかもしれん。でも、何かに役に立つかも知れないし持っててくれ。もし追い剥ぎが俺達を殺しに来るとしても、拳銃を持ってるだけである程度牽制になると思うからな」
そう、この拳銃ではおそらくモンスターは撃ち抜けない。でも人間は撃ち抜ける。ドイツ人が地球の人間だと言うなら拳銃を持つ者を恐れるはずだ。
そして、銃を撃たれて平気で動ける人間はまずいない。【隠密行動】にはかなりの制限がある。
【隠密行動】をとると、ヒールや解毒などの回復系スキルのツリーを取得することが出来ない。このゲームには『負の取得条件』が設定されているスキル(だいたいクソ強いやつ)が有り、まさに【隠密行動】はそれだ。
また、隠密行動自体も状態異常や負傷中は発動できない、隠密行動中に状態異常を食らって声を出してしまった場合も解除される。もちろん発砲なんて一瞬で隠密行動が切れる。
だからソロ攻略前提だった俺は隠密行動をとるにあたり、幸運と回避のステータスを振りまくったのだ。
「あとやっておくべきことは何だ、何かあったら教えてくれ。多分今日がラスト1日だ」
「えー! やだ、チケンずっと一緒にいてよ!」
「俺もそうしたいんだけど、延長をお願いしたくても連絡がつかねえんだよ……逆にこれで明日何も無いと一生ここで過ごす羽目になるんだが」
「そっちにしなさいよ」
「俺に選ぶ権利はないんだよ」
おタヒの言葉が嬉しくもムカつくが俺にもどうしようも出来ない。だって連絡がつかないから。
「困った雇い主だな……」
グリセルダがため息を付く。ほんとに俺も困る。
「しかし、このダンジョン何の目的で作られたんだ……なんでこんなところに俺を放り込んだんだ、雇い主たちは」
俺がため息を付くと、意外なことに答えを返したのはインテだった。
「このダンジョンはもともとリアルなサバイバルゲームを目的として、過去のとある星系の星をモデルに作られた施設です。それが750年前程の出来事になります。しかし、あまりにもリアルすぎて逆に危険で面倒だと人が寄り付かなくなり廃業いたしました。後年、犯罪者の増加に対する手段として、350年ほど前に本星内務庁がこの施設を転用して犯罪者の矯正施設として活用することになったのがこのダンジョンが魂の牢獄と呼ばれる所以です」
インテの答えに、俺達はぎょっとする。
「えっ、まって750年前!?」
「はい、正確には地球時間で751年と250日ほどですね」
「犯罪者の矯正施設ってつまり刑務所みたいなもん?」
「左様でございます。ゲームを通じて凶暴な囚人たちに世の理を理解させ、共同生活というものを教えるための施設ということになっておりました」
「あのさ、もしかしてこれって地球人が作ったんじゃないの?」
「いいえ、地球から遥か彼方のトラスティスト星系のエヴォーム社という会社が作ったものですね。金持ちの趣味みたいな感じで」
これを趣味で作れる金持ち、なんか桁が違うな……。
「まあ、そうか……。地球の技術にしてはフルダイブにしても、あんまりにも世界がリアルすぎるもんな……」
俺はインテを抱えて地面に座り込む。何もかもがわからない理由が、少しだけわかった気がする。
インテによると、そのトラスティスト星系の端っこの星にこの施設はあり、その星系は地球から観測できないほど遠い場所にあるという。
肉体はそのままに精神だけを接続させて牢獄に収監するのがこのダンジョンの目的だ。ダンジョンで規律正しく生活し、精神を整え最下層に到達する頃には真人間になる、というシステムのはずだったが、それは失敗し、この施設は300年以上前に放棄されたのだという。
「うーん、なんだこの急なSF要素は……」
「と申されても。事実でございますので……」
インテ的には『常識を説明したら困惑された』みたいな感じなんだろうか……。そして、やはりおタヒとグリセルダも納得できていないようだ。
「待ってよ! 私そんな犯罪は……多分してないわよ? たまに兄君にいたずらとかしたけど、殺されるほどじゃ……ないと……思うんだけど……」
そこは自信を持って言えよ。とはいえ、おタヒのいたずらエグいからな……。
枕に式神忍ばせて毎日髪の毛を無痛で抜いて10円ハゲつくるとか、兄の盃から無限にゴキブリが湧き出す術をかけるとか……。でも死刑になるほどではないな。……多分。
「私にも犯罪の覚えはない、何故このような場所に?」
「俺も心当たりがないけどもしかして無職ニート罪とかそう言うやつ?」
そう矢継ぎ早の質問にインテも困惑している。
「うーん、そもそも300年前に運用が止まっているわけですから、皆様は無実かと」
インテの言葉にグリセルダもおタヒも、俺も安心している。無実で冤罪とか最悪だからな。
「スフォーのおっさんはなんでこんなところに? 投獄されたのか?」
「いいえ、スフォー様は詳しくは申し上げられませんが政府の仕事をしておいででしたので、監察という名目でお忍びで趣味の昆虫観察にいらっしゃっただけです。そしてうっかり鹿に殺されて戻れなくなっちゃって、救助要請を出そうにも誰もこんな廃棄施設に救助が来るわけがなく……鹿も、本来のデータでは存在しないはずだったのですが」
スフォーのおっさんがドジっ子だったのは本当だったのか。
「それでスフォーのおっさんがインテを託してくれたのか」
「左様でございます! ここから出るには恩赦か最下層から出るかの二択ですので……」
「恩赦って出ないの?」
「恩赦は王家の慶事でもございませんと……それに、私共は公的には『存在しない収監者』ですから……かなり難しいですね。ただ、チケン様が最下層まで到達してくだされば、スフォー様も救われるかと存じます!」
うーん、何か難しいことになってきた。そして、逆にもう戻れないんじゃないか、俺。謎の犯罪者に身を落としてしまってあまりにもショックだ。
どうしてこうなった。
ガチャで有り金全部溶かしただけなのに……。




