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第7話 女もすなる乙女ゲーといふものを

 翌朝から本格的な検査が始まった。

 最初に会った検査技師の清野さんが、ベテランとも新人ともつかない看護師さんと入室する。


「おはようございます、茅原ちはらケンイチさんですね?」

「はい、茅原ケンイチです」


「早速検査始めていきますね! 検査技師の清野ですよろしくおねがいしますね」

「看護師の吉田です、よろしくお願いします」


「よろしくお願いします!」


 技師さんはサクサクと俺の周辺にガラガラと、前回の検査のときよりも大きい機械をセッティングしていく。


「茅原さんはゲームはなさいますか?」

「え、はい。さっきもゲームしてました」

「あはは、それはよかった」


 ゲームが何の関係があるのだろうか。俺は少々疑問に思いながらも値段分の仕事はするべく大人しくされるがままになっていた。

 技師さんはニコニコしながら俺に謎の機械を接続していく。

 最初言われたように、一切痛みはない。よかった。


「ベッドの上で横たわったままお聞きください。これから茅原さんには先週の検査でしたようなVR機器を体験してもらいます」

「えっ、マジっすか、やったー!」


 あの謎体験がまたできるのは、正直ちょっと嬉しい。

 しかし、看護師さんがなんともいえない微妙な顔をしている。なんでだろう。


「はい、中で自由に動けるかどうかの検査のためにゲームをしていただくことになってます」

「へー。体動かすVR音ゲーとかもありますよねえ」

「リハビリに使うのでそんな激しいゲームではないんですよね……」

「へえー」


「とりあえず、茅原さんにはこちらで用意したゲームをお昼までプレイしていただくことになってます」

「わかりました!」


 そして俺は技師の人の言葉に従い、ベッドに横たわると俺の頭全体と体の一部をVR機器が覆う。そして、アイマスクと耳栓をして全く外の様子がわからなくなる。


『茅原さん聞こえますか? 聞こえたら右手を動かしてみてください』


 技師さんの声がしたので俺は右手をぶんぶんと振った。


『それではゲーム開始しますので、2時間ほど遊んでみてください!』


 俺は了解のつもりで、親指をぐっと上に上げた。


 数秒の後、ふわっと風が吹いて薔薇の花弁が舞う。ば、バラ?

 シャララララときらびやかな音が流れて、ジャーンとゴージャスな音がして、タイトルが現れた。


『ローレンツェン王国物語

 PRESS START』


 あ、このゲーム知ってる。

 最近流行りの乙女ゲーってやつで、メテクエ関係の神絵師がドハマリしてファンアート一杯描いてたやつだ。


 乙女ゲーなんだが自由度が高く、ヒロイン×ライバル女性の百合も出来るし、男視点でプレイして実質ギャルゲーに出来るとかで、男女ともにコアなファンがいるらしい。


 どうやってプレイすれば良いのか……と思いつつ、俺はここがVRで中で自由に動けることを思い出した。


 『PRESS START』に近づいて手でつついてみると、画面がフェードして、ついにゲームがスタートした。


 ローレンツェン王国は敵対的な隣国のやその隣国の革命思想の脅威、そしてモンスターに常に囲まれているが、エルドリッジ大陸で一番古く大きい国だ。


 そして、ヒロインはそのローレンツェン王国の下層民。

 しかし、光の魔法の才能に恵まれ、光のいとと呼ばれるようになり、命を救った貴族の養子になり、王国の貴族だけを集めている学園に放り込まれる……。


 百万回くらい漫画で見たやつだな、本当に面白いんかこれ。


 「やあ、君が光の愛し子だね。僕はこの学園の生徒会長でもある王太子、ディートリッヒ・フォン・ローレンツェンだ。よかったら君の名前を教えてくれるかい?」


 王子様はニコニコ俺に話しかけてくる。気がつくと、俺は光の愛し子ちゃんにふさわしい、金髪に青い目、小柄な美少女に変身しているのだった。


「あ……チケンっス……」


 これは治験をしているからというわけではなく、俺の本名『茅原ケンイチ』をもじった俺の昔のあだ名である。

 ネーミングの必要なゲームは大体この名前でやってるのだ。


「チケンちゃん、ようこそ学園へ! ここが君のデビュタントの第一歩だよ、今日は僕がエスコートしよう!」


 うーん、野郎が腕を組んできた……。つら……。

 全然予想してなかったけどそういうのも実感できちゃうのかぁ。腕の温もりが辛い。

 VRとはいえ、腕を組むなら女の子と組みたかったぜ……。


 そしてこの王子様、イケメンなんだが俺の好みじゃないんだよなあ。

 俺はもちろん女の子のほうが良いんだが、俺が女の子だとしても俺の好みはもっとクール系で、俺に冷たいくらいのヤツのほうが良い。


「あ、はぁ……」


 そんな俺の気のない返事も、『きゃっ、わかりました☆』に変換されている。

 もうやだこのゲーム。


 俺はチュートリアルに従ってそんな虚無の学園生活を進めていく。心の支えはこれが終わったら渋沢の群れに会えることだけだ。


 学園生活を進めるが、ヒロイン=俺が光の魔法を持ってるから皆チヤホヤするし、男どもはすぐスキンシップをとろうとしてくる。

 女共も俺が何かすると「流石愛し子様」と褒めそやしてくる。気持ち悪い。


 ちょっとクールなやつもおるやんけ、と思ってもすぐデレてツンの部分をほとんど味わえない。俺は翻訳が必要なくらいツンがキツイやつが好きなのに……。


 ただ、ゲーム性は難しいところはなく、俺の言葉は適当にヒロインのセリフに置換されたり、また選択肢を本当に腕でタップすれば進む。

 確かに、ゲーム初心者がやるならこのくらいのゲーム性が良いかもな。


 そうこうしているうちに、全く希望していない王太子との結婚エンドになって終わった。

 王太子、婚約者がいるのにそいつを捨てて俺を選びやがった、クズすぎる……。


『君は絶対に僕が幸せにするよ』


 そう王太子は言うが、こいつ違う女に目移りした瞬間ぜってー俺を捨てるだろ……。

 それに、もうすでに不幸になっている女=元婚約者がひとりいる。

 あまりにも信頼できないセリフだ。


 こいつ痛い目に遭わねーのかな……と思っているうちに二時間経ったのか、セーブ終了、の表示が出て一気に現実にもどってきた。


「お疲れ様でした! いかがでしたか?」


「ゲームの中に実在してるみたいですごかったですねえ。でも男とイチャイチャするのはメンタルに来ますね……」


 そういうと技師さんは苦笑いし、看護師さんはニッコリと笑っていた。なんか笑う要素あるか?


「強制王太子結婚ルートは初回だけなので、次から少しずつプレイアブルキャラや攻略相手も選べるはずですよ!」


「あ、まだこのゲームやるんスね……」

「頑張ってください、明後日は別のゲームにしますので」

「ウッス……」


 つまり、明日もこのゲームなのか。

 自分の趣味趣向に合わないゲームをするのは思ったより苦痛だな……。

 まあ、仕事だしやるが……。金をもらうのも楽じゃないぜ……。


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