第69話 悪霊退治 下の句
そう思いつつも、グリセルダに飛びかかる火の玉なんかは念入りに切り刻んでいくことに余念はない。
俺の推しに触んな、悪霊風情が。
俺だって触らないように気をつけてるのに!
俺とグリセルダは悪霊を誘導しつつ、村の広場へと向かう。同じタイミングでおタヒの式神の牛頭くんがものすごい勢いでゾンビを蹴散らしまくっていた。
牛頭くんが斬り飛ばしたゾンビの頭が俺に直撃しそうになり、ナイフで叩き落とす。
「うわ! 牛頭くんちょっとゾンビの頭が飛んできてるって!」
「にゅわーん……」
牛頭くんはペコペコ頭を下げながらもゾンビや悪霊を切り倒していた。
ものすごい数に囲まれ、お互いにゾンビの対処にいっぱいいっぱいで、気持ち悪いとか思う暇もない。
上からはレイスが、横からはスケルトンとゾンビが、合間を縫って火の玉も襲ってくる。
「おタヒ、まだ!?」
流石に対処できるレベルを超えてきつつある。この周辺どんだけ悪霊居るんだよ。
グリセルダが無心で斬り飛ばし続けているが十分以上のフル稼働だ、流石に疲れが見えてきた。
「ちょっと待って!」
牛頭くん越しにおタヒからの返事が来る。
「そろそろランタン着けて良い!?」
「まだ!」
「そろそろこっちが死ぬが!?」
「待ってってば!」
たまに火の玉を斬り飛ばしたところから火の粉が体をかする。かすった火の粉は燃え上がりはしないが、少しずつ体の中のエネルギーのようなものを吸い取っていってる気がする。
俺はグリセルダにかかる火の玉をメインに斬り飛ばしていくが、たまに自分に襲い来るものの処理が追いつかない。
牛頭くんやグリセルダも気がつけば助けてくれるが同じようにじわじわとエネルギーを吸い取られているようだ。
牛頭くんもグリセルダも動きに精彩を欠き始めている。正直俺もしんどい。疲労が限界に近づいて、動きは当初の鋭さには遠く及ばない。
そういや、朝、あれを忘れいていたのを思い出した。
俺は申し訳無さを感じつつグリセルダの顔に一瞬だけ触る。
グリセルダは驚きで目を見開いている。
「ん!?」
「グリセルダが幸せになりますように!」
引き続きごずくんの頭に手を置く。
「牛頭くんも幸せになりますように!」
ついでに俺にもかける。
「ついでに俺もなんとかなりますように!」
三人とも緑色に輝いて、少なくとも俺には幸運が+15される。さっきよりも回避が楽になった実感がある。手袋を外してもらってる場合じゃないから許してくれ。
グリセルダの剣筋も先程よりも回復しているのが見て取れる。
「ごめんな、かけるの忘れてた!」
「感謝する!」
「にゅおーーーん♪」
グリセルダも牛頭くんにも効果はあったようだ。少し状況が好転する。
それから三分ほど経った。
「おまたせ! チケン、明かりをつけて!」
おタヒの声に合わせてランタンに火を灯す。青い光が広がるとともに、周囲から断末魔のような叫び声が大量に上がる。
「ギヒイイイイイイイイ」
「グアアアアアアア」
「ウゴッ……グオオオオオオ……」
ランタンの近くにいる悪霊やアンデッドから順番に溶け落ち、崩れていく。しかし、崩れ落ちた肉や後方にまるで工場廃液のようにドロドロと集まり流れていく。
薄っすらと青い灯りに照らされて、ヘドロさえ青い反射光を放っている。それはどんどんと巨大化し、俺達がどうにかして良いものなのか悩む。
高さは三、四メートルほどあるだろうか……。
そこに、やっとおタヒが現れた。
「ごめんなさい、準備に時間かかっちゃった。でも、来るわよ!」
「何が!?」
「この階層の悪霊の首領」
「あれがボスか」
「昼間チケンが寝てる間に調べたらいるっぽかったのよね……」
それは教えておいてほしかったがボスが居るのか……ここで倒しておけば楽になるだろう。俺達も、村の人達も。
おタヒは俺からランタンを奪い取ると、細い線香に火をつけた。そして、式神を呼び空に解き放つ。
「風伯! 紙吹雪を播いて!」
飛び出していった式神が白い紙吹雪を巻く。青い光に照らされてふわふわと風に漂う紙吹雪。おタヒは三枚目の式神を解き放つ。
「雷公! 行って!」
おタヒの手から疾風が飛び出して、青い光が稲光のように走る。すると、あたりを漂う紙吹雪が青い炎で燃え始める。
青い炎は風をはらみ、巨大な悪霊のボスを焼き始めた。あたりに漂う腐った肉の匂いが焦げた匂いに置き換わっていく。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァ!!」
「よし、もう周囲に養分の怨霊はいない、これ以上あいつは大きくならない!」
おタヒが叫ぶ。なるほど、そう言う意図があったのか。
聖なる炎に包まれて肉と骨と粘液の塊のような怨霊が皮膚を焼かれて断末魔を上げる。
なるほど、悪霊をひとまとめにすればあとは壊すだけである。
「チケン、グリセルダ、あとは壊せば勝手に浄化されるわ、お願い!」
「承知」
「おう!」
しかし、スキルは使えない。
俺は高く飛び上がり、頭と体をつなぐ頚椎をナイフで一気に切断する。
クリティカル!
この世でトップ10に入る程度には好きなエフェクトが出て、ボスの頭蓋骨が吹っ飛ぶ。それをすかさずグリセルダがサーベルで叩き砕き、粉々にする。
牛頭くんが残った体を一刀両断にした。
一刀両断にされたあとも、体は別々に動いていたので俺とグリセルダ、牛頭くんがそれぞれ復活できないくらいにバラバラに切り刻んでいく。
あとはあのランタンで照らすと腐臭とかび臭さは消えて、もう泥のような何かが地面に残るだけとなった。
「……これで終わりか?」
「そうね、多分。チケン、鑑定ってやつお願い」
そう言えばあったな、エリア鑑定。連発できないから存在を忘れるんだよな……。
『↓ヒュージレイスの残骸/ 強い呪いの力を持つ泥。 呪いの触媒に最適』
敵らしきものの痕跡はなかった。安心した。これ以上強いのがいたらかなり困る。
「何か強い力を持つ泥だってよ。呪いに最適だって。これ、おタヒ使う?」
「うーん、そういうのは扱いが難しいのよねえ。保存容器もないし止めとくわ。雷公、これ焼いちゃって」
強い泥に向かって青い光が走り、一気に青い業火で焼き尽くす。
不思議と熱も温かみもないが、清々しい感じがする炎だった。あとに残された灰は風に流されて消えていった。
「……これで終わったのか?」
グリセルダが不安そうに聞く。
「そうね、これでおしまい。この階層の悪霊は完全にいなくなった! はず!」
「はずかよ」
「少なくとも今はいないわ。けど、このあと誰か別の悪霊が来ないとは言えないもの」
「成程な」
ホッとすると、俺とグリセルダをこのゲームで一番大好きなエフェクト、レベルアップの光が包む。俺は三回、グリセルダは一回。よしよし、いい感じだ。
「やった、レベルアップした!」
「ふむ、私も上がったようだ」
「えー、私上がってない、なんで!?」
「おめー85もあるから上がらないんだよ。レベルが低い若者だけの特権だ、すまんな」
「年寄り扱いしないでよ、私まだ12なんだからね!」
レベルアップしたおかげで疲労も回復した。しつこい状態異常もレベルが上がれば消えるのは正直助かる。
ステータスとスキルを振るのはとりあえずあとでいいだろう。
「とりあえず、さっきの続きの飯食わない?」
「賛成!」
「そうだな、久々の食べられる植物だったしな……」
俺達は意気揚々と薄暗がりを村長の家へと戻った。
しかし、村長の家につくと、村長や村長夫人、エミーリアさんが俺達を驚愕の視線で見ている……気がする。黒いモヤだから確実ではないけど、雰囲気が。
「うわっ、皆様どうされたんですかれたんですか、その様子は!?」
黒いモヤながらもうろたえていることが伝わってくる。
はて、俺達には心当たりがなかった。




