第67話 装備確認
日が傾き始める頃ようやく目が覚めた。ステータスの時計を見ると17:45とある。そんなに寝てはいなかったのか。
そして何より体がスッキリしている気がする。
「起きたか?」
「ああ……なんだこれ、おタヒの呪符か?」
頭の上に二枚の短冊が貼り付けられていた。相変わらずその筆跡は玄人の書家のようだ。
「らしいな」
「おかげで何かスッキリした」
そういうと俺はグリセルダの手が俺の頭をナデナデしていることに気がついた。角度的に俺はグリセルダの膝枕の上で、なんというか、その、大きめの胸部装甲と美しい顔を見上げている。そして後頭部にはグリセルダの太ももがある。
あまりに都合が良すぎる夢のような現実だが、俺はそれを感づかれてはならない。
もしうっかり何かの拍子に元の姿に戻ってしまったらセクハラで訴追されかねないからだ。俺はまだ人生を捨てるわけにはいかないんだ。
ステータスはやっと『状態異常:疲労(軽微)』になっている。まだ本調子になったわけじゃないが数時間で戻っただけまだいいか。
「あの、グリセルダ」
「うん?」
ソファで足を組み、俺を見下ろすグリセルダ。
うん、ゾクゾクする。最高。なんでスクショ撮れないんだろうな……。いやスクショを撮ってもよからぬことにしか使えないから今は撮れないほうがいいのかも知れないが……。
「ありがとうな」
おそらく純然たる親切心で休ませてくれたのだろう。感謝するべきだ。
別の意味でも感謝はあるがそれは侮辱に当たる気もする。
グリセルダはしゃがみ込み、俺の額に手を当てる。
「構わぬ。少しは元気になったか? 熱があるわけではなさそうだな」
「まあ気疲れだろうな……まあ諦めてやれることをやるしかねえな」
「ああ、私もそれが良いと思う」
「そういや、王太子のところで貰ってきた装備鑑定してみようかな」
「それもよかろう、無理はするなよ」
すぐ横にグリセルダが居るので緊張するが、まあやるか。多分MP使いすぎたら止める気なんだろうな。
「どれどれ……じゃあ鑑定していくか」
とはいえ、金銀財宝の類は持って生きていない、ほとんどアメリカ人かドイツ人の残していった装備だ。
『軍用レーション/ 味が微妙な食料。高カロリー高蛋白高脂質。栄養抜群』
「軍用のまずい飯ねえ……栄養はあるみたいだからとっておくか…なんで不味いかは謎だが」
「美味いと食べすぎるからではなかろうか。うますぎるとあっという間に糧食が無くなるのだ」
「なるほどなあ」
食うものが無くなったら手を付けよう。他のものも見ていく。
『ミリタリーナイフ/ チタン合金製。錆びず刃こぼれしにくい丈夫なナイフ』
『ホルスター/ 拳銃を携帯するためのケース』
『軍用拳銃/ ダンジョン向けに開発された拳銃。21発の弾を装填できる。15発装填済』
『マジックマガジン/ 拳銃用の弾を収めたマガジン。魔法の力で1時間に110発まで弾を自動生成することが出来る』
『インフィニティパラコード/ 使っても無くならないパラコード。米国軍事規格適合品』
「げ……マジかよ、これ」
「どうした?」
「これエアガンじゃなくて拳銃なのか……」
俺が手に取ったのはなんか冴えない茶色の拳銃だった。
色からしてプラスチックのエアガンかと思ったらぜんぜん違う。ずっしりと重い。実銃で、装填されるのは本物の弾丸だ。しかもこれが魔法でどんどん生まれてくるらしい。
俺はミリオタではないので拳銃の種類まではわからないが、これが実銃なことだけは何となく分かる。
明らかにPKをするための武器だ。ダンジョンで冒険を楽しむための武器には思えないし、場違い感もある。だってキャラメイク時、そんなFPSみたいな装備は一度も出てこなかったのだ。
「それは何だ?」
「拳銃だよ。小さい銃。ローレンツェンにはなかったか?」
「そのような小さいものはなかったな」
「どっちにしろ俺は無理だな。手に余りすぎる」
子供サイズの俺の手では、アメリカ人が使うようなサイズの拳銃は両手で持っても厳しい。引き金に指がうまくかからない。
「これはグリセルダが持ったほうがいいと思うけど、要テストだな。人の家で撃つようなもんじゃないから後でやろう」
「他の物は?」
「ナイフと拳銃のケースと、拳銃用の弾だな。制限はあるけど魔法で弾が生成されるっぽい」
「こちらが使う分にはいいが、敵も持っているとなると厄介だな……」
「ナイフは結構大きいな……俺が使おうかな」
「それが良かろう」
ナイフは俺の手では握りきれないのでパラコードで俺が持ちやすい持ち手を作る。
どうも、ドイツ人、もしくはアメリカ人は明らかにこちらとレベルの違う武器を持っている。俺が選べたのはナイフや剣や鈍器だった。警戒に警戒を重ねたほうがいいだろうな……気が重い。
相手も拳銃を持っている、とかならまだいい。
問題は相手がもっと進化した武器……例えばサブマシンガンや散弾銃、自動小銃、そんな武器を持っている場合だ。
流石に、そのレベルは結界を張っても防げるかわからない。あとで拳銃の試し打ちがてら試してみる必要があるだろう。
俺が武器を眺めて真面目に考え込んでいると、ドアが空いた。
「ただいま~、あっ、チケン起きたの? 少しは元気になった?」
「なったよ、呪符ありがとうな。あれすごいな、疲れがすごく減ったよ」
「まあね! もっともっと、もおーっと感謝してもいいわよ!」
「超絶助かりましたありがとうございます、プリンセス」
「ぷりん……? まあいいわ、感謝してるのは伝わってきたから!」
おタヒはご満悦だった。こいつの扱い方も、地味にわかってきた気がするな……。
「村長さんが夕食をご一緒に、って。行きましょ!」
「良いのかな、何もしてないのに豪華なお茶もごちそうになって……あのお茶とお菓子だけで俺の一日のバイト代くらいしそうだったけど……」
あのアフタヌーンティー、高級ホテルで食ったら絶対一万とか二万とか取られる味だった気がする。
「構わぬだろう、こう言うもてなしが出来るということは村の格が高いということを示す意味もあるのだ。気にせずもてなしを受けよ、それが相手のためでもある」
グリセルダの言葉に俺ははへー、なるほど。と思わざるを得なかった。
日本だとなかなかない考え方だよな。相手の顔を立てるってことか。
おタヒに連れられて、食堂に向かう。食堂には沢山の黒いモヤの人達が集っていた。
「ようこそおいでくださいました、ご客人。さあ、皆のもの、演奏を!」
すると、黒いモヤの人々がそれぞれに楽器を取り出し、なんとなく聞き覚えがあるようでない、クラシック音楽を奏でていく。腕前はかなりのもので、一音の乱れもない。
「うわー、すごい! プロの楽団みたいだ!」
「うむ……初めて聞く曲だが素晴らしい技巧が込められている」
「異国の曲って、こう言うやつなのね! 書物では読んでたけど初めて本物を聞いたわ、素敵!」
俺達がそう言うと、黒いモヤの人達はなんとなくニヤリと笑った気がした。
オーケストラのような素晴らしい音楽が流れる中、俺達は黒いモヤのメイドさんや執事さんに給仕をしてもらいながら素晴らしい料理が並べられていく。
「久々に菜を食べたわ、初めて食べる献立だけど美味しい~!」
久々の野菜におタヒが喜びをあらわにしている。ここに来てからはまともに食えるものが肉と飴だけだったからな……。肉もうまいけど、それだけだと流石に飽きるからな。
そんなわけで俺達は村長や村の皆さんのご厚意に甘えることにした。
なぜなら本当に植物的なものはずっと食べたかったので。




