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無職のおっさん、幼女にTSして悪役令嬢とダンジョン最下層を目指す  作者: 芥部


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第64話 亡霊と悪霊


「植物のことをよくご存知なのですね」

「俺のとこにも似たような草があって絶対さわるなって有名だったんで……」


 俺のとこ=地球である。嘘ではない。まあ一回も実物は見たこと無いんだが。


「その男以外に通り過ぎていったのは何人くらいいるか、解りますか?」

「うーん、15年前に女性が一人、10年前からは30人くらいの男が、今月は先週に荒んだ男、そしてあなた達一行ですね。その前は殆ど誰もいない、平和なものでしたよ」


 女性が一人だけなのか、気になるな。随分と腕に自身があるんだろうが……。


「しかし、どこまでいかれるのですか、ご客人」

「最下層まで。とりあえずあの奥に見える光の柱まで行こうかと思っています」

「この辺は危ないですよ、一晩休んでいかれては?」

「この辺は全部みなさんみたいな人たちというわけではないんですか?」


 詳しく聞いてみると、四層には亡霊派と悪霊派という主に二つの派閥があり、悪霊派は亡霊派がまともな生活をしているのを妬んで時々攻撃してくるのだと言う。


「週に数回来るんですけど、新月の日は特にひどくてねえ……」

「えっ、ここ月出るんですか!?」

「だって太陽もあるでしょう。そりゃあ月もありますよ」


 そうかな? そうかも……。そういや太陽あったな、どういう理屈なんだろう。


「悪霊ってヤバいんですか?」

「私達にはただの鬱陶しい泣き声を聞かせる存在ですが、生者には違いますから。生者の体をのっとったり、力を吸い取れるんです。そうすれば生きている頃に戻れると思っている愚かな生き物です……」


「うーん……ここから全力で光の柱まで行ってどのくらいかかりますかねえ?」

「速歩きでも日暮れは過ぎるんじゃないかな」


 うーん……。俺だけなら全力で走れば余裕かもしれないがグリセルダとおタヒがいる。


「悪霊というのは退治は出来るのであろうか」

「出来るならしたいんですがねえ、どう退治していいものやら……。延々家の周りで泣き叫ばれるのも嫌ですし、せっかく見つけてきて手なづけた家畜を殺していくのでねえ……」


 そりゃ困るな……。


「まあ、家からでなければ無害ですから。よかったら夜のお食事もよろしければ、是非」

「お母様の形見を届けてくださったお客様へのお礼もしたいですし……」


 時間を見ると14時だった。半日かかるのなら今からでは無理だろうな……。しかし残り時間がストレスだ。これをどうにかしたい。まだ状態異常は消えきっていない。

 畜生、己の無力さにイライラする。


「ではお世話になるとしよう。良いな、チケン?」

「……」


 俺は返事をしなかった。浄火のランタンを掲げながら走るという選択もあるのでは、と思っていたからだ。


「チケン?」

「いや、俺は……」

「おタヒもそれで良いか?」


 グリセルダは俺の返事を聞かずにおタヒに振った。


「うん! 全然いいよ、私ここでやりたいことある!」

「ふむ、迷惑をかけない程度に好きにせよ」

「わぁーい!」


 何をやりたいんだ、こいつ。おタヒは作中で呪いから式神、ありとあらゆる術に精通していた。だからこそ全く予想がつかない。そしてグリセルダに無視されてちょっと悲しい。


 普段なら嬉しいんだが……やっぱこれ頭が回りきってないな。

 健全な性癖は健全な肉体に宿るんだ。


「そういうわけで、国王陛下。一晩世話になる」

「うんうん、客人は嬉しいからねえ、村の皆も喜ぶだろう。狩りができないから肉は出せないがねえ」

「そうですよね、陛下! 私、みんなに声をかけてきますわ!」


 うきうきして家の外に行くエミーリアさん。


「では少し休ませてもらおう、世話になる」

「ああ、夕食時になったら声をかけるよ、ゆっくりしていきなさい」

「ねえ! 私もついてって良い? 羊が見たいの!」

「もちろんです、さあこちらへ」


 おタヒは年頃の少女らしく動物につられて外に出ていった。

 あいつ、12歳ってことになってるけど数え年の12歳だから、実際には11歳。遊びたい年頃だもんな。最下層に行き着くことばかり考えてて、休むなんてこと全然思いつきもしなかった。


 楽しみながら行く、そんな選択肢もあったんだな……。


「ええと、じゃあ俺も装備品の整理でも……」


 とカバンに向かおうとすると、猫のようにグリセルダに持ち上げられる。

 グリセルダはソファーに座り、俺はそのグリセルダの膝の上に載せられた。猫かよ。嬉しいはずなのに焦りのほうが先に立つ。


「チケン、勤勉なのは良いが休むべきときには休め」

「俺の国では感染症や37.5度以上の熱以外では欠勤が許されない世界だからな。このくらいでも働くのは普通なんだよ」

「だめだ」


 グリセルダはまるで威厳のある女王のような声で俺の提案を拒否した。


「わかった、休む。休むけど……その……距離近くない?」

「貴公はそばで見ていなければすぐ何かをし始めるであろう? それに貴公が声が大人なだけの子どもという説も捨てきれぬ。黙っていれば子供だからな、大事にするとも。」


 グリセルダは俺を横にして、頭を自分の膝に乗せる。興奮する気力も起きないので、やっぱり状態異常なのだ。普段の俺なら発狂して奇声を上げてるはずだ。


「私は恩を返したいと思っているのだ、チケン」

「いや、本当に気にしないで、俺の汚い心が傷つくから」


 そう、あれらはグリセルダを助けるように見せかけて、俺の下心を満たす行為でもあった。だからプラマイゼロだと俺は思っている。そんな風に言われると逆に辛い。


 できれば当たり前のように思って、ついでに正論で俺のことを数回ぶん殴ってくれれば最高だ。


「だとしても、今は休んでほしい。私の願いだ。駄目か?」

「解りました、休みます……」


 推しキャラのお願いなんて、そんなの断れないだろ……。

 多分今のグリセルダにカードの番号と暗証番号教えてって言われたら照れながらメモを書いて渡しちゃうと思う。

 エト姫だったらここで血反吐吐くまで働けとかいいそうだが。それもまたご褒美である。


「どうしても焦るんだよなあ、強制帰還とかになったら一生後悔しそうで……」

「焦って死なれたほうが困る」


 それは、確かに。

 メテクエにハマりたてのころあまりに楽しすぎて、二徹で出勤して仕事でミスって手をふっとばしかけたことがあるのだ。いわゆる猫案件というやつだ。

 それ以来、健康第一でゲームをするようになったのを覚えている。


「戻ってやりたいことがないって言ったら嘘だけど、今はおタヒとグリセルダにこのゲームを最良の形でクリアしてもらいたい、だから焦るんだ」

「そうか、ならば休め。夕食にはちゃんと起こす」

「はい……」


 この体は小さい。そういう種族とはいえ、成人男性のノリで動かすといけないのかもしれない。そこまではキャラメイク時に読み取れなかった。

 中身が俺でなければ、誰から見ても小学校低学年の女児(に見える種族)だからな……。


 温かい手が頭を撫でる。気恥ずかしさはあるが、やがて暖かさが眠気に変わって俺はウトウトと眠りに落ちていった。


「おやすみ」


 そんな声が聞こえた気がした。



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