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無職のおっさん、幼女にTSして悪役令嬢とダンジョン最下層を目指す  作者: 芥部


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第63話 王国の崩壊


「クラヴァット? 存じておりますわ」


 そう言うと婦人は席を立った。


「あなた、ちょっとこちらへいらして!」

「何かね、ミネルヴァ」

「お客様がクラヴァットについてお聞きしたいのですって」


 そういって、夫人よりも大柄な黒いモヤが現れた。


「ようこそご客人。体調は回復されましたかな? 私はこの村の村長を努めているデヴィアス・オブ・ヴィルステッドと申すもの。しかして、クラヴァットは当村の村民でございますが、何用が?」


 俺は恐る恐るカバンから例の手帳とハンカチを取り出す。


「実は、二層でコボルドを倒したのですがそのコボルドがこれをドロップして……手帳の最後にクラヴァット侯爵に届けてくれ、とあったので、その……」


「なるほど、今クラヴァットを呼んでまいります。しばし待たれよ」


 村長は部屋を出て、十分程すると二人の黒いモヤを連れてきた。大柄なモヤと黒いモヤだ。


「クラヴァット、こちらのお客様がこの落とし物を拾われたそうだよ」

「陛下、お知らせいただきありがとうございます!」

「まあ、お客様ごきげんよう」


 大柄な黒いモヤがクラヴァット侯爵、小柄な黒いモヤは女性のようだった。

 女性の方が、テーブルの上に置かれた血まみれの手帳と、薄汚れたハンカチに気がついて駆け寄る。


「まあ、まあ……! もう返ってこないと思っておりましたわ、お父様!」

「ほんとうだ、この家紋、刺繍の緻密さ……これは妻の……」


 もしかして、あの手帳を落としたのはこの人たちの家族なのか……。

 と思ったのだが。


「私があの時落とした手帳とハンカチですわ。うふふ、お恥ずかしい」

「どういう事だ……?」


 俺達がうろたえるのを尻目に小柄のモヤのほうがハンカチを手にとって思い出の品のように眺めていた。


「これらを落としたのはたしかに私。エミーリア・クラヴァットですわ」

「じゃあ、コボルドに殺されて……?」

「いいえ、最後のページを書いていた時にスライムに顔を覆われて気絶してしまいましたの……」


 ああ、よかった……のか? 少なくともゴブリンやコボルドにひどい目に合わされたのではないのはよかった……のか? なんと言っていいかわからず俺達は神妙な顔をしていた。


 俺達の中でグリセルダがいち早く正気を取り戻す。


「エミーリア殿、では貴殿はこのダンジョンで死んで、ここへ?」

「そうなんです、気がつくとこの村に居りましたの。そうしたら、お父様や国王陛下、国民の一部がこちらに居りまして……」

「国王陛下?」


 すると、村長さんが「私です」と名乗った。名前が何かそれっぽいから気になってたんだよな。


「このモンスターだらけのダンジョンで、何故このように普通な村があるんです?」


 国王陛下、もとい村長はこの村の成り立ちについて教えてくれた。


 二百年程前、ヴィルステッド王国に謎の白い霧がどこからともなく現れた。

 霧はそれに飲み込まれた人を消したり消さなかったりした。徐々に王国の人間は減っていき、やがて一ヶ月ほど経って王国から全ての人間が消え失せた。


 王国は島国だったため他国に救援を求めるも、その使者が届いて、救援が来る前に国は滅びた。


 最後まで国に残っていた者の記憶によると、人間が消える時はこつ然と消え、死体も残っていなかったらしい。


 そして、消えた人間の一部はこの迷宮で黒いモヤとしての第二の人生が始まった。集団でなんとか第四層まできたものの、この四層の穏やかさや五層での困難を考えて王国の民たちはここにささやかな街を作ることにした。


 住む場所も体も奪われ全てに恨みを持つものもいた。しかし、黒いモヤになっても正しく穏やかに生きたい、と思う者もいた。

 恨みを抱いて周辺の生き物を殺して回ったものは、夜しか出歩けぬ悪霊に変わった。


 ただ、例外もいた。エミーリアさんや少数の人間が生者の体を持ったまま迷宮に放り出されたのだ。


「私はこの迷宮に転移した時多少魔法が出来たもので、一緒に転移した皆さまを守りながら進んでいたのですがはぐれてしまいまして……それでいつの間にか光の柱に触って迷宮に飛ばされてあんな最後を……」


 エミーリアさんは恥ずかしそうにしていたが、それはおそらく百年以上前のことだから言えることだったのだろう。俺なら絶対そんなの思い出すのも嫌になると思う。


「それでも正しく生き続けている、お強くいらっしゃる」


 何度も自分の国が滅ぶのを見たグリセルダの言葉には複雑な気持ちがこもっていた。



「出来ることをしただけですよ、しかしねえ。ここには文化的な生活がないでしょう、それで森から木々を分けてもらい、皆で手分けして家を建てて、羊を探して糸を紡いだり紙を漉いたり。亡霊となって睡眠が不要になった分、いくらでも時間は有りましたからね」


 村長、いや国王は感慨深げに呟いた。


「兄君に村長様の爪の垢を煎じて飲ませたい……」


 おタヒもしみじみしていた。気持ちはわかるよ、クソ兄だもんな……。


「ちなみに、周囲が毒草で包まれていたのは一体?」

「こんなナリでもわたしたちは人間のつもりですから。しかし、人間を辞めた同胞も、怪物も出ます。それで、荒らされたくなくて怪物や悪霊が触るのを嫌がるものを周囲に植えて護身しているのですよ」


「なるほど……その人間らしい生活の一環として、このいただいた素晴らしい菓子や茶があるのですね……」

「なに、たまには客人が通りますからね。ちゃんとした客人に振る舞って喜んでもらうのは嬉しいものです」


 そう、客人。望まれぬ客人がいたはずだ。


「あの、ここ一ヶ月の間ここを通った人はいませんでしたか?」

「ああ……あの心の荒んだ旅人のことか。若い男が来たけれどもね、挨拶も何もせず通過していくんだ。それはたまにはあることだ。だが勝手に村の中のものを物色していってねえ……」


 ああ、あるよな、そういうの……。RPGなんかで勝手に人の家の家探しして金目の物漁るやつ。あれって住人にしてみたらたまったもんじゃないよな。


「何か盗まれたんですか?」

「入口に銀色の毛に包まれた草むらがあっただろう? あれは生き物が触れるとひどく痛む毒草でね。それを編んで作った布に包んであったから、本当に大事なものは盗まれなかったよ。多少食べ物は盗られてしまったけどね」


「ああ、あのシルバーギンピとか表示されてたやつ……。白い毛が毒のトゲで刺さると超絶苦しむやつですね」


 多分、地球にあるギンピ・ギンピという草の類縁なのだと思う。地球においてはその草をトイレットペーパー代わりに使った人間があまりの痛みに耐えきれず自殺したといういわくつきの植物だ。

 真偽は知らないが、激痛に襲われるのは本当らしい。

 日本に生えてなくて本当に良かった。


 しかし、ドイツ人は今頃大分ひどい目に会ってるだろうな。自業自得だが……。




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