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無職のおっさん、幼女にTSして悪役令嬢とダンジョン最下層を目指す  作者: 芥部


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第60話 美しい道

 王太子と話していると気が狂いそうなので、おタヒの荷物以外にもあの追い剥ぎマンが剥ぎ取った装備をいくつか見ていく。


 明らかにあのアメリカ人のものであろう防弾チョッキや軍用ナイフ、レーション、応急手当キットなんかがあった。

 ハンドガンと弾なんかもあったが扱い方がわからない。一応鞄の中につっこんでおくか……。


 防弾チョッキなんかはサイズ的に無理だが軍用ナイフやレーション、水筒、応急手当キットなんかは貰っておこう。その他にも金銀のネックレスや指輪、宝飾品、そんなたぐいの金目のものがどっさりとある。

 金目のものは、身分が解りそうなもの以外はもちろん持っていかない。

 人の遺品で金稼ぎなんてやりたくないからだ。


 そう考えると、追い剥ぎは窃盗が生業なんだろうな……と言うかあの蜘蛛の巣に溜め込まれてた死骸から盗ってきたとかじゃないだろう。どんな方法で剥ぎ取ってきたのか考えたくもない。


 身分を証明するものとかがあれば、と思ったんだがそれはあまりなさそうだった。指輪に名前が彫り込まれているものがあったので、これは最下層に行ったらおっさんの身分証や二層で拾った令嬢の手帳と一緒に法務官に渡そう。


「おタヒ、靴はそれで行けそうか?」

「うん!」


 ご機嫌で歩くおタヒだが、歩くたびにポクポクと良い音がする。


「……おタヒ、それ静かな靴に出来ないのか?」

「この音がいいのよ!」


「あかんやろ、敵の良い的になるぞ」

「でも他にくつないもん」


 結局、魔法メガネが静音魔法をかけてくれることになった。助かる。


「このくらいお安い御用でござるよw」


 有能だなあ、このメガネ。喋り方以外……。


「助かったよ、有難う。なんか礼でもできれば良いんだけどな」

「デュフフw 王太子と二人きりになれるだけで充分でござる」

「そうだよね、エミール♡」


 黒いモヤは重なってイチャイチャしている。まあ本人たちが幸せそうなら良いか。


「ディー、世話になった。それと、辛い思いをさせて済まない。本来なら、そこで死んでいるのは私の役目であろうに……」


 グリセルダは沈痛という言葉そのものな顔をしていた。


「それは僕の言葉だ。君には悲しい思いをいっぱいさせたよ。でも多分、これで終わりだ。僕はここから動かない。誰も殺さない。だから安心して最下層まで行ってくれ」

「ああ、そうしよう」


 グリセルダは短く返したが、その短い中に色々な感情が入り混じっている気がした。

 長い付き合いだし色々あるんだろうな。疎外感をちょっぴり感じなくもないが、まあそういうものだろう。見守るしかない。


「ゼルダ……いや、グリセルダ。これが終わったら君は自由だ。幸せにおなり」

「幸せ……?」


 グリセルダは、それをまるで自分とは関係ない遠い世界のことのように呟いた。


「そう。僕とは関係のない、君だけの幸せだ。君にはその資格と義務がある。僕は君の親友のつもりだからね。君には幸せになってほしいのさ」

「……考えておく」


 王太子、たまにはいいこと言うな。そう、グリセルダはもっと幸せになる権利があるし、俺もそうなってほしい。できればそうなるまで見届けたいものだが……。


「未来のことは詳しくいえないんだけど、とても大変だと思う。でも、全力を尽くせば未来が開けるだろう。乙橘姫、茅原くん、ゼルダをよろしくね」

「努力はする」

「お、仰せのままに……」


 おタヒは式神の後ろに隠れている。俺にはわからんけど亡霊が怖いってことはないだろうし、よっぽど王太子の力が怖かったのだろうか。

 グリセルダがおタヒの頭を撫でる。


「大丈夫だ、アレは頭こそ悪いがお前を害したりしない」


 くっ、ひどい言い方だが素晴らしい。俺も言われたい……。しかし、俺はこんな軽口を叩いてもらえるような人間関係をまだ築けていない。出会って数日だしな……。


「ゼルダ、そのあたりで。僕が妬まれてしまうからね」

「……?」


 思ったこと全部バレてるじゃねーか……。何でも思ったことを口にするんじゃない。このアホ王太子め!

 そう思うと、王太子が面白そうにクスクスと笑い始めた。駄目だ、こいつ無敵だ。


「よし、四層に行こう!」


 そう、もともとそれが目的だったのだ。王太子から色々話を聞けて有益だったが、これ以上居ると俺がおもちゃにされるばかりだし、残り時間も気になる。俺がここにいられる残り時間を聞く、と言う手もあるけど多分教えてはくれないだろう。


「そうであったな」

「行こ!」


 グリセルダが俺とおタヒを抱え上げる。うーん、役得……。グリセルダの腕あったかい。うれしい。ハッピー。でへへへ……。


「茅原くん、顔、顔」


 王太子の言葉に俺はハッとする。しまった、ニヤけてしまっていた……。助かった。グリセルダとおタヒが不思議そうに俺の顔を見る。二人が見るまでにはいつもの顔に戻せた。

 ……俺は常にクールでありたいんだ。


「では、行くか。ディートリヒ、さらばだ」

「ゼルダ、茅原くん、乙橘姫、またね」

「グリセルダ殿と皆様、ご武運を!」


 二人が見送るなか、俺達は三人いっぺんに光の柱に飛び込む。


 一瞬のめまいのあとに広がっていたのは明るい朝の光。そして小高い丘の下に広がる牧歌的な村だった。

 季節は春のようだ。暖かく、気持ちのいい風が吹いて、道端には可憐な花が咲いている。


「えっ、普通の村?」

「そうなのか……?」


「向こうに光の柱が見えるな。あそこが五層の入口であろうな」

「誰か居るかしら……」


 相変わらずおタヒは式神に乗り、俺が先行しグリセルダが殿。なんだか謎の行列みたいになっているが悪目立ちしないと良いが。


 と思ったのだが、よく手入れされた畑。小綺麗な街道。それなのに、人の気配がない。


「……やっぱ誰もいねえな」

「先程まで誰かがいたかのような景色であるのにな」

「うーん……まあこの調子なら迷わなさそうなのは救いだが」


 そう話し込んでいると、久々の人里に浮かれたおタヒが式神から降りて走り出す。


「見て、蝶々!」


 気がつくと赤い蝶がひらひらとおタヒの斜め上方をふわふわと飛んでいる。それを捕まえようとおタヒが頑張っている光景はほのぼのするものだった。

 キラキラと光っているのが構造色ってやつだろうか。メタリックですごくきれいだ。

 赤い蝶なんて珍しいな。一応鑑定してみるか。


『セントエルモの蝶/ 鱗粉に毒のある蝶。鱗粉を吸入すると長い眠りの末に死に至る』


 ……毒!? 俺はダッシュで俺より大きなおタヒを捕まえて止めることに成功した。こけておタヒを全身で受け止めることになったが必要経費だな。


「急に何よ、危ないじゃない!」

「どうした、チケン?」


「駄目だ、あの蝶にさわるな! 毒だ!」

「えっ!?」

「毒か、厄介だな……」


 油断していた。蝶々には毒がないなんて勝手に思い込んでいた。俺が今まで見たことのある蝶に毒があるやつがなかったからな……。


「すっかり平和そうだから警戒を忘れてたな……【エリア鑑定】!」


『シルバーギンピ/ 銀色の毛が美しい植物。触った場所を一年間激痛が蝕む』

『カラバル/ マメ科の植物。種子に毒がある』

『ドクニンジン/ 毒草。口にすると呼吸障害を起こし死に至る』

『シアンイラクサ/ シアン化合物のたっぷり含まれたイラクサ。棘が刺さると死に至る』


 周りの草は毒草だらけだった。うへえ……。


「おタヒ、いいか、その式神の上に乗っておけ。降りるな。この辺にある草、ほとんど毒草だ。触ると死ぬやつも多い。特にその白い葉っぱとか多分解毒が聞かないタイプの毒だ」

「ええ、あのきれいな花も?」


 おタヒが指差す先には小さな百合のような可愛い花がある。俺はそれを鑑定する。


「『エンジェルリリィ/ 花粉を吸い込むと幸せな夢見せて死に至る芳香を放つ花』だってさ」

「うそー……摘んで髪飾りにしたかったのに……」


 まだ村にも到着していないのにこの有り様だ。

 一体村には何が待っているのか、俺は考えるだけで嫌になってきた。



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