第57話 中身がおっさんの幼女ならではの苦労
俺は風呂に入った二人に飯を食わせる。
今日一日、色々あったおタヒは疲れたのだろう、食べ終えた途端ウトウトし始めて式神の牛の上で眠り始めてしまった。
なんかこいつが図々しすぎ&面白いやつ過ぎて忘れていたが、まだこいつと出会ってから1日も経ってないんだよなあ。そしてまだ12歳。
蘇芳宮の世界では成人は13歳からだということだったがそれにしてもあまりにも幼い。疲れて寝てしまうのも仕方ないだろう。
「あー、寝ちゃったか……でも杖握ったまま式神に包まれて寝てるなら大丈夫か」
「そうだな、結界もあるしな」
「じゃあ俺も寝るかな……」
「いや、貴公は風呂に入るべきなのでは?」
「あ、そうか」
そういや風呂あるんだった。無い生活に慣れすぎて忘れてた。
「んじゃ入ってきまーす」
俺は適当に服を脱ぎ、温泉に浸かる。この体をまじまじと眺めるのは初めてだが本当に子ども同然だ。そして、何も無い。上半身にも下半身にも。
これで出てくるのが俺の声だというのが酷い。アニメっぽいかわいい女性声優の声であってほしかった。
のんびり風呂に入っていると、急に声をかけられる。
「チケン?」
「うわっ、なんだ、グリセルダか……何かあったか?」
「いや、何も無いのだが、チケンになにかあっては困るので見張っていようかと」
「えっ、俺は一人で入れますけど?」
一緒の風呂、嬉しいけど倫理的に宜しくない気がする……。いや、グリセルダからしたら幼女だから心配とかなのかもしれんが……。
「先程おタヒが『頭の洗い方わかんない!』とか『体を自分で洗ったことがない!』とかいうので不安になってな」
「まあ……あいつは……箱入りのお姫様だから……」
「そうか」
そう言うとグリセルダは近くの岩に腰掛けて俺に背を向けた。
「終わったら言うがいい、髪を乾かしてやろう」
「別にいいよ! すぐ乾くだろ、グリセルダより短いし」
「自分で髪を結えるか?」
そう言われると、そこは自信ない。ダンジョンに入ってから髪型には一切触ってない。ただのツインテールだが、そういえば自分で縛った髪型じゃないんだよな……。
「うーん、縛らないと駄目か?」
「動きの邪魔になりそうな長さに見えるが」
俺の髪の毛は下ろすと肩につくくらいある。確かに、これはリアルだと我慢できなくて理髪店に行く長さよりも遥かに長い。無理だな。
「……マジでやったことない。頼んでいいかな」
「もちろん」
俺の気のせいかも知れないが、グリセルダの声にほんの少しだけ嬉しさの色を感じる。
ただのゲームの性能で選んだ体なので、髪の毛のことまではノーチェックだったな。次に本当に効率重視でやるとしたら、ハーフリングのスキンヘッドの幼女とかでやりそうだな、俺……。
「うーん、次があるとしたら、スキンヘッドのハーフリングにしようかなあ」
「また何故そのような……」
「髪の毛洗うの面倒くせえし乾かすのも面倒だし、自分で結べないからな。女の体ならヒゲ剃らなくていいから楽かと思ってたけど、髪の毛のこと考えると全然楽じゃないな」
そう言うと、グリセルダは面白そうに笑う。
「私もそう思うが、短くても逆に不便でな。軍務につくものはいつでも理髪師を呼べるわけではないから、逆に伸ばしてまとめていたほうが便利なのだ」
なるほどなあ。そういや、マッチョ先輩も長髪だったな。いやあれは関係ない気がする。絶対ファッション長髪だろ。偏見だが。
「理髪店もこまめに行かないと見た目が悲惨になるからな。あんまり見た目が残念になると上司にお小言もらうんだよな……本当に面倒くせえ」
一回ガチャのやり過ぎで理髪店に行く金まで使いこんだ時、髪がバサバサになって上司に怒られたことがあるのだ。客先に行く仕事じゃないからいいじゃねーかとその時は思ったんだが……。
「ふふ……子どもに見えてもチケンもちゃんと勤め人なのだな」
グリセルダが面白そうに笑っている。俺の失敗談で笑ってくれるなら、上司に小言を貰ってげんなりしたあの時の俺も浮かばれるというものだ。
風呂から上がると、きれいになった服がそこにあった。
おかしい。返り血とか、謎の虫汁とか、泥やホコリにまみれていたはずだが……。
「えっ、なんで? 何か俺の服きれいになってない?」
「不衛生な服は病気の温床だからな、そう言う魔法も士官学校で教わるのだ」
「あまりにも便利過ぎる……」
「全員が取得しているわけではないがな。私はたまたま使えたのだ」
「本当に助かる、ありがとうございます」
そういや、会った時は返り血まみれだったグリセルダの服が翌朝にはきれいになっていたのはこう言うわけか。おタヒの服もよく見たら草の汁だのが白い着物の裾に着いていたのがきれいになっていたし。
「服を着たか?」
「着たよ」
「ではここに立つがいい」
グリセルダの前に立つ。すると、俺のまだ濡れている髪を魔法で乾かし、乾くと櫛を通し始めた。
「こうしてみると愛らしい童女なのだがなあ」
中身がおっさんなのはどうしようもないから許してくれ……。
グリセルダは鏡を俺に手渡す。鏡の中にはセミロングの可愛らしい美少女がいた。これで、中身が俺でさえなければ……と思って気持ちがスンとなる。
グリセルダは器用に俺の髪の毛を結び、ツインテールだったのをお団子に変えてくれた。
鏡越しにちらりと見たグリセルダは楽しそうな顔をしている。
「私の趣味だがこちらのほうがよかろう。頭上の物にも引っかかりにくくなるであろうしな」
「確かに」
ツインテールは可愛いけど、飛び跳ねて戦ってるうちに蜘蛛の巣とかに引っかかって髪の毛が数本抜ける微妙に痛いアクシデントなんかもあった。数時間前に。
これなら可愛さと実用を兼ね備えている。自力でセットできない問題点は残るが……。
「こうしていると幼年学校の頃を思い出すな、まだ自分で髪を結えない下級生の髪をよく結ってやっていたものだ」
「幼年学校ってもしや全寮制?」
「もちろん」
「お嬢様が通う学校なんだから使用人とか居るんじゃないのか?」
俺が見た異世界の貴族の通う学校はだいたいそう言うのがいた。ソースがアニメやゲームだが。
「軍人を育成する学校だ、いるわけがない」
「それもそうか……」
それでも料理だけはやらないんだな。士官学校って偉い軍人を作るための学校だもんな。自分で作ることもサバイバルもほとんどなさそうだ。
だが、そのお陰で俺はグリセルダと行動をともに出来ているし、ほんのちょっとだけそのシステムに感謝する。
「明日は四層か、それでもあと八層残っていると思うと気が滅入るな」
「まあな……でもまあ、三人で行けばなんとかなるだろ」
今のところなんとかバランスの取れたパーティーだとは思う。俺のレベルがあまりに低いことを除けば。
「ショートカットとかあるといいんだが」
「そう言う期待はするな。なかった時に気が滅入るからな」
グリセルダが俺を珍しくわかりやすい笑顔で見つめていた。
「うむ、ちゃんと洗えば見栄えの良い童女だ。声が残念だがな」
「ホントだよな……次があるとしたらボイチェンでかわいい声にして坊主頭にするわ」
「そこまでしなくてもいいと思うが……」
「俺はゲームに関しては効率厨だからな。効率が良ければ体は爺さんでも婆さんでもなんでもいいよ」
「そこまでの執念には恐ろしささえ感じるな」
グリセルダの顔は恐ろしいという自称からは遠く、ごく穏やかだった。
その後、いつものように浄火のランタンを灯し寝た。
温泉に入ったせいか、体がきれいになったせいか、はたまた別の要因なのか、ダンジョンに来てから一番良く眠れた気がする。
多分この壁の向こう側が火山地帯だからたまたま温泉があったのかも知れないが本当にありがたかった。また、こんな楽しいアクシデントがあってほしい。




