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無職のおっさん、幼女にTSして悪役令嬢とダンジョン最下層を目指す  作者: 芥部


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第46話 追い剥ぎ



 俺は小声で話しかける。


(グリセルダ、優しく子どもに話しかけるように飴があるって声をかけてくれないか)

(えっ、優しく? とは……)


 あー。普段子どもと接する機会がなくて喋り方がわからないのか……。


(道に迷っている、よかったら話を聞かせて欲しい。お腹をすかせているなら飴もあるよ、って呼び掛けてみて)


「わ、私達は旅の者だ。道に迷っている、よければ話を聞かせてもらえまいか。腹が減っているなら飴などで良ければあるが……」


 うーん、ぎこちない喋り……。でもそこからしか得られない栄養素を十二分に感じるので百点満点に加算して二百点だ。


「……飴?」


 ぺとぺとと、ゆっくり歩いてくる足音がして、岩陰から黒髪の少女がこちらを覗いていた。


「……飴、あるの?」

「あるよ」


 俺は腰のポーチから以前拾った蜜の原石を一つ取り出して手渡した。

 少女はこわごわと手を伸ばしてから蜜の原石をおずおずとつまみ上げると、数秒それを眺めてから口に放り込む。


 口の中で味わうように舐める少女に、俺はついでにコップに入れた水を差し出した。


「水も飲む?」


 少女は頷き水をごくごくと飲み干す。のどが渇いていたのかな。

 俺とグリセルダは女の子が落ち着くまで待つことにした。


「……悪くない味だったわ」


 この場にふさわしくない、白絹の和服の少女は俺達に上から目線の礼をする。

 なんとなく、既視感があった。


「ならいいんだけど…………あれ、なんか見たことのある顔と声だな」

「何よ、私はあなた達みたいな下賤の者知らないわ」


 あっ、解った。解りました。今記憶が蘇った。

 こいつおタヒじゃん。治験でプレイした『蘇芳宮すおうのみやの花嫁』の。

 初対面でこのセリフだし間違いない。


「お前、乙橘皇女おとたちばなのひめみこだろ」

「はっ!? なんであんたみたいな如何にも下々が私の名を知っているの、しかもいみなを! 無礼千万、手打ちにしてくれる!」


 あ、やっぱり合ってた。そしてやべえな、こいつ符術の達人なんだった。

 と思って俺は一瞬で後に引き、グリセルダが剣を抜く。


「あっ……い、今は……見逃してあげるわ! 荷物を全部おいていくなら許しましょう!」

「もしかして二層にいた追い剥ぎはお前だったのか?」

「違う! 私は盗まれたほうよ!」

「盗まれた?」


 なんとなく事態が見えてきた。こいつ、符術に使う道具一式盗まれたのか、あの追い剥ぎに……。


「……っ! どうするのよ! 荷物を置いていくの! いかないの!」

「置いていくわけ無いに決まってるんだよなあ。よーし、グリセルダ、行こうぜ」

「そうだな」


 この手のキャラはまともに相手してるとわがままとわがままが連鎖して時間がいくらあっても足りないからな……。敵対的なキャラなら放置するしか無い。時間は有限なんだよ。


 スタスタと俺達がさり始めて戻ってこない、と解った乙橘皇女は数十メートル離れたところで、泣きながら追いすがってきた。


「いかないで! 待ちなさい!」


 顔を涙と鼻水でグシャグシャにして、顔を真赤にしている。こうなるとは思っていた。


「人にお願いする時は言い方ってもんがあるだろ」

「……だって、知らないんだもの」

「そう言うときは『お願い、行かないで』っていうんだよ、普通は」


 おタヒは屈辱なのか、怒りなのかわからないが相変わらず顔を真赤にしたままだ。


「…………お願い、行かないで。私の話を聞いて」

「わかった。でもここはちょっと狭いし場所が良くないな。もうちょっと別の開けた場所まで歩けるか?」

「無理……くつも盗られたの。もう足が痛くて……」


「グリセルダ、ちょっと頼んで良い?」

「……貴公の頼みなら仕方ないな」


 グリセルダは渋々乙橘皇女を抱え上げた。俺よりは重いはずだが、グリセルダなら余裕だろう。


 クソ、その位置は俺の位置だったのに……。でも仕方ないか。俺のこのアバターでは俺より大きな乙橘皇女――――おタヒは持ち運べない。現実の俺ならできるんだけどな。

 地図を見ると道を戻って逆の分かれ道をしばらく行ったあたりに少し休めそうな場所がある。


 そこまで進むと、幸いなことに水場があった。そして洞窟なのでコンロを作る手間も楽。

 エリア鑑定でも敵らしきものはいなかったので、俺達はそこで小休止を余儀なくされた。ここでおタヒ見捨てていくのも後味が悪いしな……。


「じゃあちょっとお茶……はないけど、白湯でも飲むか……」


 俺は水を沸かし、グリセルダとおタヒにコップを渡し、俺は適当に自前の水袋から水を飲むことにした。ここの水は軟水でうまいんだよな。それだけが救いだ。


「で、聞いてもらいたい話ってなんだ?」


 水袋からゴクゴクと水を飲みながら質問する。おタヒとグリセルダはゆっくりと白湯を飲んでいた。


「……私、ちょっと前に色々あって流刑になってたんだけど、流刑になる途中の船にいたはずなのに、気がつくとこのへんてこな場所にいたのよね。それで、なんか化け物とかがいたから倒しながら歩いてたら何となくここにたどり着いたのよ。ここ、どこなの?」


「この階層のことか? それともこの迷宮自体を指してるのか?」

「両方」

「ここは何だっけ……魂の辿り着く場所、って名前の迷宮だったような。ここに入る前に聞かなかった?」

「聞いた気がするけどどうでもいいなと思ってよく覚えてない……」


 すげーおタヒらしい。

 ゲーム中でも自分の興味のあること以外は全く気にしないタイプのキャラだった。それが悪い方に向きすぎて何度もゲーム中で死んでいたのだが……。


「ちなみに、この場所に飛ばされた時の第一層、どんな感じだった?」

「私が飛ばされたのは異教の聖堂っぽい場所だったわ。中央に何かを殺す場所があって気持ち悪かったから早々に逃げたの」


 うーん、かなりエリアが広いらしいな……。しかし、中央に何かを殺す場所のある聖堂ってなんだ、こえーな……。


「俺は草原だった」

「私は迷宮だったな」

「えっ、あんたたちも飛ばされてきたの?」

「私もそうだ」


「いや、俺は望んで入った口だが……」


 そういうと、おタヒは信じられないものを見る目をする。


「こんなところに望んで!?」

「仕事なんだからしょうがねーだろ」

「こんなところに仕官の口なんてあるの?」

「ないけど、色々あるんだよ。それより、お前はその聖堂の次に飛ばされたところはどこだった?」


「草原よ。一週間くらいいたわ。草原になってた草苺や甘酸っぱい青い実なんかを集めるだけ集めて採りつくしたから、適当に別の光の柱に触ってここに来たの」


「その草苺も盗られたのか?」

「うん……」


 うーん、ちょっと可哀想になってきた……。


「そういえば、足は大丈夫か?」

「大丈夫くない」


 足の裏が傷だらけだった。これは確かに歩けないだろうな……洞窟の通路は岩と砂利しか無い。

 すぐ横の水場で傷を洗い流し、スフォーのおっさんのカバンにあった応急手当キットを出して薬を塗り、とりあえず足を保護する意味で包帯で巻いた。

 靴はどこかで確保したいところだな。


「……あんたたちになにか言いたいんだけど、こう言うときってなんて言えばいいのかわかんない。知ってる?」

「嬉しい、とか有難う、とか?」

「それだわ。ありがとう……助かったわ」


 本当にひでー育てられ方をしている割に、割と素直で助かる。

 こいつ、基本的に放置で、でも頭だけは超絶いいから手はかからず、しかし物だけは与えられるテンプレわがままお嬢様なんだよな。おつきの白梅って乳母以外に味方がいない。

 しかし、どうしたものか。放置していくのも後味が悪いし。



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無職のおっさん、幼女にTSして番外編
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