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第4話 最初の治験


 1時間後、早速メールボックスに明日の午前9時に病院の受付に来て欲しいという返事が来た。


 すごいな、相手方も行動が早い。好感が持てる。

 当選でも落選でも、俺の時間は有限だから、返事が早い方に俺は好感を持ってしまう。お祈りされたとしても早いなら俺は許せてしまう方だ。


「よし、明日うまく行ったら俺も寮を退去するかあ」


 俺はこの寮に入るとき、必要最低限の着替えとスマホとゲーム機本体くらいしか持ってきていない。


 残りの荷物は処分したり実家に置かせてもらっている。

 ここに来るために買ったのは布団くらいなもので、それをどうにかすればいいだけだ。


 なんとなくバイトが決まっていい気分で夕食(カップ麺)を済ませ、早めに就寝した。


 翌朝は準備を整え約束の15分前に病院に到着。

 病院の指定場所には若者~老人までの十名ほどがおり、スーツの女性がにこやかに対応していた。


 「お集まりいただいた皆様、おはようございます。わたくしは治験コーディネーターの四方よもつかさと申します。皆様にはこちらの書類に記入の後、まず健康診断を受けていただきます」


 これは、事前にメールで説明されていた通りだった。

 既往症やアレルギーなどを書いたり、同意書や機密がどうのこうのという書類などに署名捺印した。


 その後、血圧や体重、身長を測定し、採血などをする。普通の健康診断と何も変わらなかった。その後、昼食に出された弁当を食べ、コーディネーターとの面談になった。


 コーディネーターの四方さんは、知的そうな顔の女性だ。しかし、笑顔なのに眼鏡の下の目が1ミリも笑っていない気がする。



茅原ちはら様は入院でのモニター希望と伺っております」

「はい、そうです」


「入院でのモニターは人数が限られておりまして、こちらの検査に適した体質かどうかの追加検査をさせていただいております。また、検査内容は極秘でございまして、追加の守秘義務契約をお願いしております。追加の検査に痛みはございませんので、そこはご安心ください」


 四方さんが差し出した書類に目を通す。こう言う書類ってやたらと字小さいのなんなんだろうな……。


 追加の検査を受けるだけで、俺は2万円をもらえる。

 ただし、検査の内容などを人に話したりネットに書き込んだ場合、膨大な損害賠償をする羽目になる。という趣旨のことが書いてあった。


 俺はこっちに来てから友達はいないし、SNSでもメテクエのことしか書いてない。毎日『今日もメテクエ。エト姫パで500万ダメージ出た 調子いい』とかを毎日書き込んでいる程度だ。


 あとはメテクエ関係の情報のリポストといいねが主な活動である。

 急に治験の裏情報なんて書き出したらおかしいものだろう。


「大丈夫なので追加の検査をお願いします」


 俺は契約書にサインし、四方さんに渡した。そんな事で追加で2万円がもらえるなら安いもんよ。


「ありがとうございます、それでは別棟にございます検査室にご案内しますのでこちらへどうぞ」


 四方さんは営業スマイルを浮かべて俺を病棟の奥深くへと案内してくれた。



 病棟の奥には「研究棟」と看板にある、真新しい建物があった。

 俺の他に、爺さんや中年のおじさん、大学生みたいな若者……。10名ほどが集められている。

 あれ、個室での検査なのに10人。これはほとんどの人間が落ちるな……。


 でもこの検査を受けるだけで合計32500円が手に入る。所要時間は待ち時間を含めても3時間ほどらしい。

 待ち時間にメテクエでもやるか。モバイルバッテリーを持ってきてよかった。


「兄ちゃん治験は初めてか?」

「あ、はい、そうです」


 急に爺さんに話しかけられた。

 気のない返事を返してしまったが、俺の頭の中は効率の良いPT編成のことで一杯だったので愛想がないのはしょうがないと思う。


「緊張してるのか? 俺は治験のプロだからな、体調も万全だ。こう言う検査はコレステロールだのGTPやらがまずいと落ちるんだよ。昨日酒飲んだりしたか?」

「いえ、飲んでないですね」

「なら俺のライバルだな、ガハハハハハ!」


 治験のプロなんかいるのか。まあ、寝てるだけで稼げるならやる人もいるか。


 爺さんの言葉を聞いた俺と同じモニター希望の大学生が顔色を悪くしている。ああ、確かに健康な成人男性、って募集だったもんな。


「ええー……おれ昨日飲み会だったんすよね……」

「俺も日本酒五合のんだ……」


 中年のおっさんも飲みすぎたらしい。可哀想に。

 モニターの座は俺がもらってあげよう。


「山本さん、検査室1番にお入りください」


 早速治験の玄人である爺さんが呼ばれて意気揚々と入っていった。

 20分後、爺さんは難しそうな顔をして帰ってきた。


「……俺にはありゃ無理だわ。若いの、頑張れよ」


 俺の肩をポンと叩いて爺さんは去っていった。

 ええ。治験の玄人じゃなかったのか。諦めるの早くないか?


 次に中年のおじさんは入って数分で出てきた。


「全然意味がわからねえ……」



 次々と挫折した顔で出てくる男たち。え、そんなにハードルの高い検査なの?


 唯一、ウキウキで出てきたのが昨日飲み会だったと自白していた大学生だ。

 若さか? 若さが問題なのか?

 俺も落ちるのかな。でも32500円もらえるから落ちても問題はないが。


 結局俺が呼ばれたのは最後だった。


「茅原さん、検査室2番にお入りください」


 俺は戦々恐々とした気分で検査室のスライドドアを開けた。



「茅原ケンイチさんですね?」

「はい!」


 返事だけは良い。これは俺が人に褒められる数少ない美点である。


「茅原さんの検査を担当いたします清野せいのです。よろしくお願いします」


 検査技師と思しき男性が俺を安心させるかのように微笑んでいた。感じのいい人だ。

 技師さんに進められて椅子に座り、眼の前に技師さんが座る。


「こちらは新規開発しているVR機器となっておりまして、これに適合するかの検査をさせていただきたく」

「でも普通にVRってもうありますよね?」


 そう、VRのチャットとか、ゲームとか、ちょっと前にブームになっていた。でも、その専用機器が高いんだよな。

 だから俺はやったことはない。ここ数年常にお金はガチャにぶっこんでいたので。


「はい、それとは違う、新タイプのVRです。脳に接続するものなので、まず医療機器としての認可を取らないといけないんですよ。ほら、体が不自由だけど、考えがはっきりしている方などに仮想空間で自由な活動をしていただくための機器なんです」


「はえー……脳ですか」


 俺は大変頭の悪い返しをして、すぐ正気を取り戻す。


「脳に接続って大丈夫なんですか? まさか、チップを埋めるとか?」


 実際に、脳から直接文字を出力できる機械があることや、そうするためのチップを埋め込んだ猿などがいるらしいことは知っていた。


 もし脳にチップを埋め込む……とかなったら、そりゃあの爺さんやおっさんが無理だと言ってたのも頷ける。


 なんかきな臭い展開になってきたかもしれん。


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