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無職のおっさん、幼女にTSして悪役令嬢とダンジョン最下層を目指す  作者: 芥部


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第31話 グリセルダの疑問


「俺は一層の草原で亡霊のおっさんに頼まれたんだよ。この最下層にたどり着いたら外に出られるから、そこで法務官だかなんだかにおっさんの遺品を渡してほしいらしい」


「貴公は心優しいのだな」

「いや、色々あってな……そんな優しさで引き受けたわけじゃないから、勘違いはしないでくれ」


 俺はたまたま装備をもらっただけだし、基本全てを【隠密行動】で隠れて安全を確保してから暗殺するタイプのキャラだし、グリセルダが思うような真っ当さから離れた外道スタイルだからな……。


 安全地帯からのレベリング大好き。


「そういえば、グリセルダはこれからどうするんだ? 俺は水を汲んだら三層に行く道を探す予定だが」

「その、聞きたいことがあるのだが」

「何だ?」


 言いづらそうにしているグリセルダ。このキャラがはっきりしない様子なのは珍しい。


「その、貴公は女なのか? 男なのか? 姿は童女に見えるが、声は大人の男に聞こえる」

「体は幼女だけど、中身はただのおっさんだよ。扱いはおっさんでいい」

「何かの呪いか……?」

「そんなもんだと思ってくれればいいよ」


 そう、俺には呪いがかかっている。効率厨という名の呪いが。

 効率のためなら容姿だって変える。


 グリセルダは、下を向いて少し悩んでいるようだった。

ローレンツェンでは見られないグリセルダの姿を色々見ている気がする。少し嬉しい。スクショして保存しておきたいところだ。


 だが、そんなものは現在ないので、心のスクショフォルダに保存しておく。


 第三層に行く前に、色々準備しておく必要があるのを思い出した。


「ところでグリセルダ、なんか枯れ枝とか可燃物落ちてそうな場所に心当たりない?」


 火が使えれば動物性タンパク質の選択肢が増える。味はともかく。可燃物はぜひとも確保したい。


「上を見るといい」


 グリセルダが指差す方を見ると、明かりがあるだけあって上の方には何らかの植物がツタのように絡まって生えていた。

 ただ、かなり高い場所にある。俺のジャンプでも届く気がしない。


 俺は10メートルほど離れて助走をつけ、壁を利用して三角飛びでツタに手を伸ばしたがあと数センチほどのところで手が届かない。悔しい。素早さカンストしてるのに!


 何度も繰り返すが失敗し、俺は諦めて泉の水を飲んで一息ついた。


「クソ、あとちょっとなんだけどな……」


 指の一本でも引っかかれば俺の体の軽さならそこからツタを採取できる。今取れるスキルにジャンプ力強化とかあったら取るかな……と悩んでいたときだった。


「私が手伝おう」


 急にグリセルダが俺に声をかけてきた。


「え、どうやって?」


 流石にグリセルダを踏み台にするとかは嫌だしなあ、と思ったがグリセルダはつかつかと俺に近寄ってくる。

 ひょいと俺を両手でつまみ上げる。まるで猫でも抱き上げるような気軽さだ。


「……思ったよりも軽いな。いくぞ、それ!」


 グリセルダは抱き上げた俺を軽い感じで、だが高速で上に放り投げた。


「うわっ!」


 びっくりはしたものの余裕でツタに手が届いて、俺はしっかりと天窓付近に生えているツタを握りしめた。


「なるほど、投げてもらえば届くのか。グリセルダ頭いいな……」


 そういえば、こいつ頭もいいし力も強いし器用さもかなり高いんだった。俺は握りしめたツタを起点に、取れるだけツタを採集し、ひょいと地面に飛び降りた。降りるのは楽勝なんだよなあ。


「身軽なものだな」

「まあな。身軽さに特化してるから。でもおかげで助かったよ、松明も残り少ないし、このへん可燃物がなくて火が焚けなくて困ってたんだよな。ありがとう」


 俺はゴソゴソと鞄にツタをしまっていく。

 そういや、この辺に積み上がってる死体、【鑑定】してみるか。もうすぐで鑑定の熟練度がカンストしてスキルレベルが上がるはずだ。


『ダンジョンウルフ/ まだ食用可。食べるならお早めに。毛皮も利用可』

『オオネズミ/ 食用可。割と美味』

『コボルド/ 魔石(小)が入っている』

『迷宮コウモリ/ 普通のコウモリ。食用可』

『ムラサキオオムカデ/ 針に毒がある』


 何か微妙に親切なんだよな、この鑑定。


「お、ラッキー。昨日仕留めたやつかな? このネズミと犬とコウモリみたいの食えるっぽい」

「何故分かる?」

「俺、鑑定スキル持ってるもん。まあ、早く食べないと腹壊すっぽいけど」


 せっかく水場もある。よし、サバイバルチャレンジだ。……その前に。


「グリセルダ、血の匂いは平気か?」

「平気だ」

「じゃあここで捌かせてもらうな」


 水があれば捌いたあとの始末が楽で助かる。汚水はスライムが食うだろうし。


 俺はうろおぼえながら、また内蔵がありそうな場所を避けて肉をさばく。生々しいけど肉欲(食肉への欲望)には勝てないんだ……。ゲームのくせになんでこんなところまでリアルなんだろうな。


 ダンジョンウルフは毛皮利用可、とある。でもなめす方法、全然知らん。毛皮利用できたら寝るのが楽になるから欲しいんだけどな。諦めるか。


 俺はなんとか素人ながらに数十分かけて肉をさばくと、グリセルダから離れた何も無い場所に落ちている壁の欠片を集めてサークルを作る。

 その中にツタを放り込んで、火打ち石で火を付ける。しかし、まだ水分が残っているのか全然火がつかない。


「うわー、全然火がつかねえ! ライターとガソリンが欲しい……」


 でもガソリンで焼いた肉、まずそうだな。どうにか火をつけたいが……。四苦八苦していると、後ろにグリセルダが立っていた。


「私がつけてやろう。【植物よ、干上がれ】そして【炎よ】」


 グリセルダは魔法でツタから急速に水分を蒸発させ、一気に火をつけてくれた。魔法、便利すぎる……てかあんなに強いのに魔法も使えるのずるくない?


「これで良いか?」

「……うん、ありがとうな」


 俺は礼を言った。そういえばこいつは魔法もそこそこ出来るんだったな……。完璧超人かよ。しかし、まだ回復しきれていないのだろう、立ち眩みを起こしたグリセルダはその場に座り込んでしまった。


 そういえば、ここ数日何も食べてなくて、さっき薄い粥を食っただけっぽかったしな……。


 俺はさっきしまったコップをまた出して、今度は内蔵を抜いたコウモリの骨を肉ごと煮込み、塩を入れて柔らかい肉のスープを作った。軽く味見をしたけど、まあただの茹でた肉と汁だ。不味くもないが旨くもない。


 ついでに、肉も串にさして焼いていく。スフォーのおっさんのカバンはいろいろ入ってて助かる。


「グリセルダ、よかったら食う? 骨は食わなくていいからな」

「……有り難く頂こう」


 グリセルダにはコウモリスープと携帯食を渡し、俺は足の早そうなウルフ肉の串焼きに軽く塩を振って食べた。クセは強いが昨日の化粧品の匂いでムンムンの鹿肉よりは多分美味い。本当に舌が肥えてなくてよかった。


 ネズミの方は薄く切ってスモークにチャレンジしている。食べられるかどうか判明するのは暫く後かな。


 さして旨いものではないが、グリセルダは文句も言わずコウモリのスープを飲んでいた。よかった。タンパク質は必要だからな……。


「はー、何か飯食ったら休みたくなってきたな。ちょっと昼寝していい?」

「……貴公には警戒心はないのか?」

「無いわけじゃないけど、秘策があるんだよな」


 呆れ顔のグリセルダを尻目に俺は泉の側にぐるっと結界チョークで大きめに円を書いた。あっという間に完成である。超お手軽。


「結界の出来上がり!」

「……これで?」


 疑うグリセルダに俺は外から小石を投げてみせた。すると、結界チョークのところでコツンと良い音を立てて跳ね返された。


「なんともすごい魔道具を持っているのだな」

「一層であった亡霊のおっさんに貰った。最下層まで行くなら必要だからってくれたんだよ」

「なるほどな……」

「じゃあ、俺は昼寝する!」

「……ああ、そうするといい。私も少し休みたいところだ」


 久々の明るい空の光の下、俺はカバンからローブを引っ張り出しくるまると、いつも通りすぐ眠りに落ちた。


 もしかすると、結界の中のグリセルダが俺に危害を加えようと思えば出来るのかも知れないが、こいつが物を盗んで自分の有利に事を運ぼうとかいう考えはないと思うんだよな。


 なので、安心して昼寝することにした。



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