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第3話 チケン、治験と出会う

 その日、俺は狭い部屋のベッドの上で延々とスマホをスワイプし続けていた。


「うーん、ないなあ……」


 俺は求人情報アプリを眺めてため息を付いた。

 事の起こりは三日前。


 俺は三ヶ月前に中途で、ホワイト待遇で有名な外資系の工場に社員として入社した。寮付き食事補助付き、部屋にはエアコンに冷蔵庫などの最低限の家具も用意されている。

 人生をやり直すにはちょうどいい場所だ、と思っていた。


 しかし、その日は朝から全員が朝礼に参加するように通達されていて、顔色の悪い工場長が苦しそうな顔でアナウンスする。


「えー、当工場は本社の意向により本日より業務を停止いたします。工場長の私を含め全従業員は解雇となりますので、これから手続きを……」


 そこから先のアナウンスはあんまり覚えていない。

 外資系って本当にバッサリ切る時は切るんだな。

 確か、本業で大赤字を出したと聞いている。この工場自体は超黒字なんだが、それでも無くなるのか……。



 流石に社員やパート含め全員驚き、うろたえた。

 工場長他事務方も事後処理の期間一ヶ月を過ぎたら解雇されるらしい。羨ましいとは思わない。お疲れ様だ。


 寮に住んでいる社員に与えられた猶予は一ヶ月。それまでに次の住処をみつけなくてはいけない。

 皆出社して半日で帰ってきて、次の勤務先や引っ越し先を探すのに大わらわである。


 長年勤務している社員には解雇予告手当に加え規定通りの退職金が出ているものの、三ヶ月前に入社した俺には流石にそこまで出ない。

 出るのは今月の給料と解雇予告手当だけだ。そのうえ俺には貯金がなかった。



 なぜ貯金がないのかというと、俺はゲーム、特にスマホゲーが好きで、その中でもメテオライトクエスト(通称メテクエ)というゲームにドハマリしていた。


 四年前サービス開始したメテクエにハマった結果、ガチャキャラ配布キャラ含め全キャラ完凸、サブ垢も人権キャラは完凸。

 推しキャラに至っては完凸キャラを10人揃えた。

 メインスマホ、サブスマホ、情報検索用のスマホの3つに端末課金もした。


 メテクエはガチャは渋いがシステム、ストーリー、世界観、キャラのすべてが良かった。俺は最高のゲームにハマっていたと今でも信じている。


 そこまで入れ込んだメテクエも三ヶ月前にサービス終了した。メインストーリーが完結し円満なサ終だったので後悔はない。


 しかし、メテクエ終了と同時に、俺の当時の勤務先もサ終してしまったのである。これは予想外だった。


 そうするとどうなると思う? 渋いガチャのせいで高級外車が買えそうなくらいあった貯金は全部溶けきっており、半年後のアパートの更新料が払える見込みがなくなってしまった。


 流石にガチャでお金が溶けたので、とは言えず、親に金を借りるのも恥ずかしかったので俺は慌てて仕事を探し、この三ヶ月で消えたホワイトだった工場に就職したのだ。


 そして、そのホワイト工場もサ終だ。また就職先を探すところからスタートである……。

 

 流石にちょっと自分の先の見通しの甘さや運の悪さにげんなりしてしまった。

 それでも俺はガチャに全ブッパしたことは特に後悔していません。


 求人アプリを閉じ、俺は気晴らしにまたメテクエのアプリを開いた。メテクエはサ終こそしたものの、オフライン版として残っている。

 そして、メテクエの攻略情報を検索しようとして、ある広告バナーに気がついた。


『健康な成人急募! 治験モニターになってみませんか』


「治験かぁ……」


 最近、ゲーム系のサイトで良くこのバナーを見る。よっぽど人手が足りないのだろうか。

 治験って、薬飲んだり、注射されたりだよなあ。

 健康な俺に出来ることってあるのか?


『健康な成人男性を探しています 負担軽減費:1日12500円~ 医療器具のテスターの募集です』


 なんとなく気になって、記事を詳しく見ると募集している場所もここから近い。

 見ると、日帰りの簡単なテストで12500円もらえると言う。

 しかも入院しての長期のテスターなら日給23500円、入院中の食費滞在費は依頼者(非公開)の負担でしかも個室らしい。


 俺は数十秒悩んだが、早速申し込みのフォームに名前やメールアドレスを書いて申し込んだ。個室なら求職をしつつ、当座の居場所も確保できる。一石二鳥の考えである。


 申し込んだあとに治験のサイトを見てみると、副作用が出た時は保障してくれるらしいし、不安になったらいつでも止めてもいいらしい。

 いつでも止められるなら安心そうだ。


 申し込む前に見ておけよと思うかもしれないが、こう言う募集は速さが勝負のことが多い。

 俺も今の職場の空きに潜り込めたのも見て即申し込んだ行動の速さがあるからだ。

 まあ、その行動の速さでたまに失敗をするんだが。




 治験の申し込みフォームに入力したのが午前10時。

 午後2時には『治験へのご協力の申し込みにつきまして』というメールが来た。思ったよりもスピーディーだな。


 俺はドキドキしながら中を開く。


茅原ちはらケンイチ様

 弊社医療機器モニターテスト治験へのお申し込み誠にありがとうございます。

 詳しいことをお話しさせてただきたくご連絡を差し上げました。

 実際に病院で医療機器の操作に関する簡単なテストをして、その後に治験適性を判断させていただきたいと思います。

 ご都合のよろしい時間をこちらのフォームにご記入の上ご送信お願いします


 http://~~~~~~~~

 □□治験事務局』


 やはり行動が早いのは正義だった。


「やった! とりあえず、少なくとも12500円はもらえるな」


 この寮にいられるのも残り僅かだ。1日で12500円。もし入院テスターに選ばれなくても少しは生活費の足しになるだろう。どうせやることもないし、いい小遣い稼ぎだ。

 多少注射や採血はあるだろうが、渋沢さんの魔力の前には些細なことである。


 俺は早速メールフォームに送信し、次の返事が来るのを待った。



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