第28話 水を求めて
隠密行動を使用しつつ、地図を見ながら迷宮をウロウロする。
頭上を飛び回るコウモリや、足元をカサカサ歩いていくムカデやよくわからない虫、スライムがダンジョン感を盛り上げている。
いやあ、虫が平気で良かった。虫嫌いには不可能なルートだな、こっちは。
地図によると、スタート地点から北の方に水場があるらしい。
まずはそこを目指そう。
あと、何か燃やせそうなものの確保だ。魔法使いスタートだと火魔法と水魔法とってターンエンドだから楽なんだろうな……。
だが魔法使いスタートだとカブトムシどころか鹿に殺されてスフォーのおっさんとズッ友だった可能性があるので、こちらで良かった、と思う。多分。
見つけ次第スライムは潰しているが、最初のときほど経験値を溜め込んだスライムはなかなかいない。途中、人影を見かけた。
もしかして先客だろうか、近寄って声をかけてみよう……とすると明らかに腐臭がする。ゾンビっぽいな……。
ゾンビっぽいものに【鑑定】を使用する。
『ゾンビ/ 動きの遅いアンデッド 火魔法、もしくは頭部が弱点』
よし、挑戦してみるか。俺は隠密行動を解除した。
「□□□□□□□!!」
ゾンビが俺に気づいた。声帯まで腐れ落ちたのか、声にならない叫びを上げてゆっくりと襲いかかってくる。
俺はじっくりと引き付けてから、ゾンビには反応不可能な速さで飛び越えて後ろに回り込み、ナイフを一閃させた。
クリティカル! という心地の良い表示とともにゾンビの首は胴体と泣き別れして地に落ちる。
自分の首を置いて歩いていくゾンビの胴体は放置しておいて、あたりに落ちていた石でゾンビの頭を潰した。
頭を潰すと胴体も倒れ、100という数字がふわりと空に浮かんで消えた。
一匹100か、一層の鹿より低い。量も稼げないし、ここでレベルを上げるのは難しいかも知れないなあ。コウモリも一匹80くらいだったし。
ゾンビが倒れると、すぐにぞろぞろスライムや虫が寄ってきてゾンビだったものを消化し始めた。
俺は生前は人間だったであろうそれに手を合わせて、また隠密行動をかけつつ水場を探し歩き出した。
しかし、思ったよりも大きな敵が少ない。モンスター図鑑によるとゴブリンやコボルド、ダンジョンウルフ、ダークアナコンダなどが出るらしいのだが……。
安全なのは良いんだが、レベルを上げないまま行って倒せないと通過できない門番とかがいたりした場合大変まずい。そういう強制イベントは結構ある。
なので、できればレベリングはしたいのだが……。
気がつくと俺のレベルは14に、時間も9時15分になっている。そろそろもう一回声をかけてみよう。
「清野さーん、いませんかー」
返事はない。
「吉田さーん、四方さーん……誰かいませんかー!」
やはり返事はなかった。何かあったのだろうか。
俺の本体になにか事故が起こって、モニターどころではないとか、機械にトラブルが起きたとか……。
どちらにせよ、あまり芳しくない事態だ。出来るなら今すぐにでもログアウトしたいが、それも出来ない。大変に困った。
やっぱりスフォーのおっさんのところで色々話を聞いておくべきだったのかも知れない。もし中身が最強AIだとしても、話し相手がいるだけでも結界の中で一週間を耐えることは出来ただろうし。後悔しきりだ。
唯一の救いは思ったよりも腹が減らない事だ。
全く減らないわけではないが、ダンジョンにログインしてから食べたのがでかいカブトムシ一匹(可食部極小)と、バランス栄養食の一欠片、あとコウモリ三匹。
たしかに体は小さいが、俺はそれ以上に動き回っている。こんな量で足りるわけがない。なので、多分点滴が効いてるんだと思う……そう思いたい。
それでも、喉は渇く。俺は立ち上がりまた水場を探して歩き出した。最悪、そのへんにいるコウモリの血やスライムを水袋に入れて浄化するなどの力技も思いついたがそれでもし浄化石が壊れたら困る。最終手段にしておこう。
歩いている最中、気がついたことがある。
さっきはカスみたいだったスライムの経験値が、水場と思われる場所に近づくに連れ増えていっているのだ。お陰でレベルは上がって14になったが、このまま先に進んでいいものか悩む。
スライムは死体という形で経験値を吸収している。
つまり、俺のレベルを上げまくるだけの強い生き物の死体を食っているということだからだ。このダンジョンにいる、強い生き物か、はたまた強いプレイヤーが居るのか……。
どっちにしても俺には好ましくない状況だ。
俺と同じテストプレイヤーとしても、スフォーのおっさんのように安全な人物なら良いが、このゲームが対人可能なゲームなのかどうかすら解っていない。殺人NPCや、凶悪な敵である可能性がある。
そして、その強い生き物を狩りまくっている何かが水場にいる可能性は高い。生き物は水を摂取しないと生きていけないからだ。
うーん、せめて水だけでも汲める状況だと良いんだが……。
俺の本体は死なない、はずだ。だが喉は渇く。喉の乾きは状態異常となり、ステータスが低下する。それ以上にのどが渇いたままあと6日過ごすのはあまりにも厳しい。
水場と思しき場所に近づけば近づくほどスライムが増え、そのスライムは経験値を溜め込んでいる。うーん、レベルが上がるのは良いんだが、あまり状況はよろしくない。
地図によればあと角を三つ通過して右に曲がれば水場だ。だが、異変がある。
地面に数十体のコボルドや狼、ヘビ、モンスターの死体が積み上げられ、血が流れ、それらに虫やスライムがよってたかってそれらを血肉に変えている。
陰惨な光景といっても差し支えないだろう。
幸い、血の匂いだけで、腐敗臭はしない。つまり殺してからさほど日数は経っていない。
いや、ゲームだからそこまで再現はしてないのかも知れないが……。
でも、さっきのゾンビにはやや腐臭があったので、これは楽観が過ぎるかも知れない。
ここまで血と獣の匂いに満ちていれば俺が隠密行動を使えば水場までは安全に進むことが出来るだろう。
幸い、ずっと使いまくっていたせいで隠密行動のスキルレベルは5まで上がっている。死体を積み上げた奴が温度可視化や嗅覚強化、直感などのスキルを持っていなければ、俺が攻撃や大きな音の出る行動さえしなければ看破されることはない。
最大スキルレベルの10になればこれら全部もなかったことに出来るんだが、流石に開始1日じゃあなあ。
俺は恐る恐る、血や体液、スライムを踏まないように慎重に歩みを進めていった。
進むほどにモンスターの死体が高く積み上がっている。
ゆっくり進んでいくと、まるで天井から光が降り注ぐかのように明るい場所に出た。
奥にはよく整備された泉があり、そこにかなり背の高い人間がうつむき座っているのが見えた。




