第26話 運命の分かれ道
その後、おっさんのご厚意に甘え俺は敵のターゲットを集めて結界と衝突させたり、安全圏から攻撃していく外道戦法ですくすく成長した。
おっさんと出会ったのは2時間ほど前のはずだが、もうLv10になってしまった。鹿や巨大ネズミではなかなか上がらなくなってきた。
ここでレベルを上げるにはあと数時間かかりそうだ。
「そういや、黒いモヤになってるけど、おっさん悪霊かなんかなの?」
「いや、ただの亡霊だね」
「霊体ならその辺の鹿に取り付いて殺すとかできないの?」
「できなくはないんだけどねえ、やると本物の悪霊になって、君が最下層にたどり着いて助けを呼んでくれても復活できなくなるんだよ」
「そうなのか、面倒なもんだな……」
俺はザクザクと鹿にとどめを刺しつつ、道具の使い方を教わったり雑談をした。血まみれの俺と黒いモヤの亡霊。はたから見るととても邪悪な光景だと思う。
「そろそろ、次の層に行こうかなあ。レベル上がらなくなってきたし」
「おやそうかい。気をつけてね」
「そういや、おっさんの名前聞いてなかったな」
「そういえばそうだね、ははは」
おっさんは笑った。死んでるというのに本当に呑気だな。
「おじさんの名前はスフォーだよ。君は? 見た目は女の子だけど声はおじさんだねえ」
「俺の名前はチケンだよ。まあ、中身は見た目が女の子なのはステータスを重視したからだな」
「聞き慣れない名前だ。この辺の出身じゃないのかい?」
「そうだな、日本から来た」
おっさんはふと考え込むような仕草を取る。
「ああ、思い出したよ。地球って星にあるんだよね、確か」
「……そうだよ、よく知ってるな」
あれ、おっさんはNPCか何かだと思ってたんだが、こんな世界観ぶち壊すこと言うのか?
「君も色々事情があってきたんだろうね。気をつけていくといい」
「うーん、俺はアルバイトのつもりできたんだけどな……」
それにしても、このおっさんの喋り方は自然だ。フルダイブVRを作るくらいの技術力のある会社だ、高度なAIの為せる技なのだろうか。
「世の中には悪いバイトというのもあるからね。一応、大事なことだから教えておこう。このダンジョンははるか昔に誰かが作ったものだ。だがちゃんと踏破できるように作られている。踏破不可能ではないから、頭を使いなさい」
「つまり踏破者はいるってことか?」
「この数百年現れてないけどね」
それは良かった。少なくとも、設定上だけでもクリア者がいるなら一応クリアは出来るんだろう。今回の俺に出来るのかはわからんが……。
最後の鹿の一匹にとどめを刺すと、またティローンという気の抜けた音がして、俺の頭上に輝く称号が『カブトムシの天敵』から『ディア・ハンター』に変更された。素早さ+5、力+5されていた。これはステータス的にも嬉しい。
「カブトムシの天敵かっこよかったのにねえ……もったいない」
「それをかっこいいと思うのはスフォーのおっさんだけだと思うぞ」
「そうかなあ、カブトムシだよ。おじさんははその称号ほしいなあ」
「俺は鹿でいいかな……」
俺は先程浴びた血しぶきをさっき汲んだ水で拭き取って身支度を整えた。血の匂いがしてると【隠密行動】を使用してもバレバレになるからな……。
水場を鹿に独占されてるので、今は水で拭くくらいしか出来ないが、しないよりマシだろう。
「まあ、日が落ちないうちに行きなさい。後二時間くらいで日が落ちて、そこから50時間くらい夜が続くからね。暗くなると違う生き物が出てきて面倒になる。まだ二層のほうが安全かもしれないよ」
おっさん曰く、第一層は夜が異様に長く、夜になるたびレイスなどの上級アンデッドが出没するらしい。
おっさんは件の結界に守られているが、上級アンデッドは目についた生物の生命力を片っ端から吸い取っていく上に、魔法以外の対抗手段は聖剣や魔法剣などに限られる厄介な相手なのだそうだ。
「さっき言っただろ。僕みたいな亡霊が生き物を殺すとレイスになるんだ、そして人間に戻れなくなる。おじさんは生き返ってまた仕事と趣味に復帰したいからね。レイスになるのはゴメンだよ」
「そりゃ確かに。じゃあ、頑張って最下層いってくるわ。スフォーのおっさん、元気でな」
「うんうん。チケン、僕の身分証もよろしく頼むよ」
「任せろ」
振り返ると、黒いモヤはずっと俺に手を振り続けていた。気の良いおっさんだったな。
【隠密行動】を使いつつおそらく次の層への入口である光の柱に向かって歩く。その間、こまめに【幸運のおまじない】も使用していく。
この数時間ずっと使っていたおかげで【隠密行動】のレベルが上がり、【幸運のおまじない】ももうすぐレベルが上がりそうなほど熟練度が溜まっている。
おまじない程度だから効果はないかもしれない、と思っていたがけっこうあったな、幸運なこと。
あのおっさんに出会ったこととか、その前にカブトムシ拾ってたこととか。
あのカブトムシを拾わなければあのおっさんに装備をもらうこともなかったし。良いスキル取ったな。これからもどんどんスキルを上げていこう。
行きがけに水を汲んで、数十分歩く。すると一本に見えた光の柱は実は二本あることが判明した。
同じくらいの太さの光が2本並んで立っているのだ。道理でなんか見る角度によって太さや色が違うと思っていたよ。
光の柱の前には看板が三つ立っていた。もちろん未知の文字で書かれているが、何故か読める。
『警告:ここから先の下層は命の危険があります 遭難者の場合はこの階層で救助を待ってください 100年に一度救助隊が周回しています』
ボロボロの看板にはそう書いてあった。おいおい、100年ってなんだよ。そんなん待ってても死んでるじゃねーか。というかこの周辺も十分危ないんだが……。
そしてなんであのおっさんがのんびりしてるのかも解った。定期的に救助隊が来るって知ってるからなんだな。
……あれ? じゃあこのダンジョンを作ったのはよっぽど長生きする種族ってことか。あのおっさん、もしかしてエルフの亡霊とかなのかなあ。
もう2つの看板も読んでみる。
『第二層東側入口:迷宮』
『第二層西側入口:平原』
平原と迷宮か……俺はどっちにするか悩んで、おっさんからもらった地図とモンスター図鑑を取り出した。読んだ情報を総合するとこうだ。
平原は本当に平原で、爽やかな環境で遮蔽物がなく戦いやすいが、強敵が出た場合死ぬまで追いかけてくる。平原は成人男性の膝の高さまで草が生えており動きにくく、ヘビや獰猛な草食動物がたくさんいるらしい。
俺の身長だと大分動きにくいな……。1メートルくらいだし。
迷宮はジメジメしていて居心地が悪いらしい。スライムや大型ナメクジ、ムカデなどの不快モンスターがたくさんいるが、遮蔽物もあり休憩もしやすい。しかし、方向感覚を失いやすく第三層入口を探すのが難しいという。
うーん、悩むな。
【隠密行動】を使って草原を走り抜ける、というのも手ではある。しかし、俺のレベルはまだ10。あと少しで11にはなるがレベリングもせず第三層にいった場合どうなることか予想がつかない。
草原からつながる第三層の地図を見ると、火山地帯とか書いてある。
火山地帯に現れるモンスターは溶岩や火の玉を飛ばしてくるらしい。隠密行動が切れた瞬間死にそうだ。危険過ぎる。
逆に、迷宮の方は第三層も比較的マシで、洞窟になっているらしい。
第四層も考慮にいれると火山の先は氷山地帯(ただし敵がいないらしい)、迷宮側は街のようななにかがあるらしい。危険度は不明。
火山を気合で乗り切っても氷山地帯がある。氷山地帯、敵がいないってことは多分エベレストみたいな環境を一人で乗り切れってことだよな。なるほど、こっちを選ぶと詰みだ。凍死の危険がある。
よし、迷宮を選ぶか。一応、地図もあるしな……。
しかしワクワクしてきた、これぞVRダンジョンゲームって感じで大変に良い。
俺は覚悟を決めて、『迷宮』とある方の光の柱に触れた。




