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無職のおっさん、幼女にTSして悪役令嬢とダンジョン最下層を目指す  作者: 芥部


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第25話 鷹揚な黒いモヤ


「まあいいや、一般人にも色々あるんだろうからね。ほら、おじさんのカバンから好きなの持っていきなよ」


 黒いモヤは立派なカバンから色々なグッズを取り出し並べていった。俺はそれを【鑑定】していく。


『地図/ 9層までの迷宮の地図 不正確だがないよりはマシ』

『結界チョーク/ これで線を引いた場所を不可侵の結界にする。水に弱い。持続:1日』

『モンスター図鑑:迷宮編/ 10層までのモンスターを記録している図鑑』

『身分証明書/ 高等法務官である証明書』

『上等な魔法杖/ 持っているだけで徐々にMPの回復する杖』

『浄水石/ 水袋に入れておくとどんな水も飲用可能にしてくれる 持続:半永久的』

『朽ちた携帯食/ 食べると腹を壊す』

『浄火のランタン/ 悪霊を寄せ付けない明かりを灯すランタン』


 ここで、鑑定するMPが尽きた。うわー。まだ鑑定しきれてないけど何かすごいのがいっぱいあるぞ……。


「えっ、じゃあ一個だけもらおうかな……」

「いやいや、君若いんでしょ、全部持っていきなさいよ」


 若者に大量の食事を押し付けるおじさんみたいなことを言っている。


「俺、素早さに極振りしたから力も1しかないんだよね。だからあんまり重いもの持てなくて」

「ああ、大丈夫。ほら、この杖握ってカバン自体を鑑定してみて」


 声に出してないけど鑑定してるのがバレバレだったか。お言葉に甘えて杖を持つと、それだけで一気にMPが5も回復した。俺の今のMAXMPは30で、鑑定に必要なMPは2だ。


 うわ、すげえ。この杖、ダンジョンの終盤とかで拾うような装備じゃないのか?


「ほら、カバンを鑑定」


 そうだった。俺はモヤのおっさんに言われたとおりカバンを鑑定する。


『高級背嚢(はいのう)/ 見た目よりも容量のあるカバン。重みを感じさせない』


「えっ、これっていわゆるマジックバッグ?」

「そうだよ、おじさんはお金だけはあったからねえ……まあ、死んだら使えないわけだけど」

「そんな貴重なもの貰っていいのか!?」

「いいよ、使えないもん」


 おっさんはあっさりしたものだった。


「いやいやいやいや、でも遺族が遺骨を拾いに来るかもだろ?」


 そう言うとおっさんは首を傾げた。


「うーん、まあそうだけど、だからって僕の遺族がカバンごときでどうこう言うとは思えないねえ。遺族には僕から説明すればいいでしょ。というかさ、ここは『赦し』があるか12層にたどり着くかしないと外に出られないから」


 赦し? 初めて聞く用語だな……。


「悪いんだけど、もし12層まで行って君が外に出たら、おじさんの身分証を誰かそのへんの法務官に渡してくれないか? 運が良ければおじさんはそれで生き返って家に帰れるから」


「……うーん、解った。クリアできるかわかんないけどな、ここにいるの一週間だけのはずだし」


「まあそうなったらそうなったでいいさ。少なくとも死体を守ってカブトムシや鹿を眺めて過ごすよりはマシだからね」


 おっさんは肩をすくめた。


「しかし、不思議だ。知らない文字なのに読める」


 俺はパラパラと貰った図鑑を眺めていた。読めない字だが、薄っすらと日本語訳が上に追記されている。ありがてぇ。

 ドラゴンだのケルベロスだの、オオカマキリだの定番のモンスターがたくさん乗っている。これは役に立ちそうだ。


 その中に、あの一角鹿の事も書いてあった。レベル上げもしたいし、ついでにおっさんの仇も取ってやりたいところだ。


「何々、一角鹿は凶暴な分頭は悪いから好物のバベラの葉でおびき寄せて罠に掛けるのがオススメ、か」


「へえ、鹿、あんなもんが好物なんだ」

「おっさん、バベラの葉っぱってどれか分かる?」


「バベラはあれ、あっちの方向の赤っぽい茂みだよ。人間が食っても美味しくないから食べるのはおすすめしないね」


 おっさん生きてる時に食ったのかな……。


「でも罠とか、俺は作れないぞ」

「ああ、いいアイディアがある。えーとね……」


 おっさんの言う通り、俺はバベラの葉を摘み、手でもんで潰した。すると葉っぱから、デパートの一階の化粧品売り場のような匂いが周囲に漂い、一角鹿の群れが走ってくる。


「うおおおおおおお!」


 素早さで上回ると解っていても、流石にこの数の集団に追いかけられると怖い。

 おっさんに貰った手鏡で後ろをチラ見しながら俺は一角鹿が追いつけそうで追いつけない速度を保って結界に向けて走る。後ろを振り返るよりはまだ手鏡のほうが安全だろう。


 何も知らない鹿は殺意をムンムンに放ちながら走ってきたが、おっさんの作った結界にぶつかり、弱点である頭の角が折れて皆続々と死んでいった。この結界は害意のあるものを通さないという効果があるらしい。


「この鹿、アホだ……」

「うーん、おじさんもこんなに上手くいくと思わなかったねぇ」


 鹿が息絶えると1匹に付き120の経験値が入って、5匹死んだので経験値600。カブトムシ100匹分の経験値が手に入って、光のエフェクトが二回発生。

 一気にレベルが2上がった。


「おめでとう、いい感じにレベルが上ったねえ」

「ありがとうございます、いやーこんなに楽にレベル上がっていいのかな……」


「いいんじゃないの、最初だけだよ、あはは」


 黒いモヤのおっさんは鷹揚に笑っていた。

 その横で、俺はドロップした鹿の角を鑑定する。


『一角鹿の角/ 煎じて飲むと腰痛が治る』

『一角鹿の肉/ バベラの匂いのする肉。食べすぎると食中毒を起こす』


「なんかドロップはいまいちだな、まだカブトムシのほうが食えるからマシか……。食中毒にはなりたくないし」

「えっ、カブトムシ食べられるの?」


 そこに反応するのかよ。


「前鑑定した時に食用って出てたよ」

「ちょっと、君食べてみてくれよ!」


 黒いモヤのおっさんはどこからともなく俺がプレゼントしたカブトムシを差し出した。いくら好きだからってカブトムシ食べる発想が出るのはやべえな……。


 と思ったけど、水族館に行けば魚が美味しそうに見える俺におっさんを責めることは出来ないのかも知れない。だが、全然食べたくない。


「嫌に決まってんだろ!」

「まあ、そう言わずに。ほら、他の道具の使い方も教えてあげるから! 僕もう亡霊でしょ、物食べられないんだよね、だから代わりに食べて味レポ頼むよ」

「……うへぇ」


 交渉の結果、せめて火は通すことになった。生で食べて食中毒で死んで、おっさんと一緒にここを彷徨うのは嫌だからだ。


「……すっげえ甘い土。土にメープルシロップ混ぜたらこういう味すると思うわ。飢え死にする寸前なら美味いかもしれん」

「なるほどねぇ……復活したら是非食べてみたいものだよ」


 このおっさん、亡霊になって数十年経ってるらしいのにまだ復活する気でいるらしい。心が強いな……。



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