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第2話 ダンジョンにて 2


「グリセルダ、食えるもんあったぞ。スープにしよう、俺が作る」

「すまぬな、料理だけは経験がないのだ」

「あとこれ、必殺技撃って疲れてんだろ。これ食うと回復するらしいぞ」


 俺が琥珀色の飴みたいな蜜の原石を渡すと、グリセルダは恐る恐る受け取った。


「まるで宝石のようだな、食えるのか?」


 蜜の原石は本当に透き通ってガラス玉や宝石のように見える。食べ物離れした色と透明度をしていた。


「食える。なんかダンジョンの蜂は巣じゃなくて腹の中に蜜を溜め込むみたいだ。鑑定したけど疲労回復するって出てるぞ。お前食っとけ」


「そうか、頂こう」


 グリセルダは恐る恐る蜜の原石を口に放り込むと、甘さのためか一瞬だけ若い女性らしいぱっとほころんだ顔になり、それにすぐ気がついてすぐ顔を元に戻す。


 戻さなくてもいいのに。


「うむ……甘いな。久々に菓子の類を食べた。お前の分は?」


「まだ何個かあるけど、俺はただ小石投げてヘイト集めて逃げ回ってただけだからな。なんにも消費してないよ。後でなんかあったときのために取っておこう」


「チケンは幼いのにしっかりしているな……」


 グリセルダが俺に感心している。グリセルダは俺のことを外見通りの幼女扱いするのだ。中身はアラサーの男、世間的にはほぼおっさん扱いなのに……。


 もちろん、声もおっさんの声だ。


「俺は中身おっさんだからな、30だぞ。見た目は幼女でも」

「わかっているが不思議なものだな」


 俺はこのゲームのプレイヤーキャラクターだ。

 チケンは本名をもじってつけた中学生の頃のあだ名である。


 俺はせっかくVRゲームなのだから、とハーフリングという素早さと器用さに溢れた種族を選び、ステータスは素早さに極振りした。


 魔法も楽しそうだけど、びょんびょん飛び回るのがVRらしくて楽しそうだと思ったからだ。


 今までやってきたゲームがステータスは極振りが強いゲームばかりだったという経験則と、せっかくのダンジョン、痛い思いもしたくないし宝箱を一杯開けてみたいし、ドロップも一杯欲しい。

 ということで素早さと幸運に振りまくったのだ。


 女なのも男だと力にボーナス、女だと素早さにボーナスが付いたので女を選んだ。


 あと、自キャラって永遠に視界に入る。ファーストパーソンだからたとえパーツしか見えないとしても、現実の俺みたいなむさいおっさんみたいなのはちょっとな……。


 腕毛や胸毛溢れた男性ホルモンあふれる容姿にすると筋力ボーナスが付くようだが、俺はちょっと遠慮しておきたかった。


 俺は身長1メートルほど、体重はわからない。ピンクの髪をツインテにして軽装のアーマーなどをつけている。テンプレファンタジーのシーフだ。

 こんなパーティーメンバーが出来るとわかっていればイケメンキャラにしたのになぁ……。




 しょうもないことを考えているうちに、カマキリの足のスープが完成した。

 蜜の原石の欠片を入れたのでほんの少しだけ甘みもある。というか、調味料っぽいものが僅かな塩とその欠片しかない。

 酒とか胡椒とかめんつゆが恋しいぜ……。


 カマキリの足はもちろんガチガチに硬かったので、ナイフで何回もバンバン叩いて筋繊維をボロボロにして、細かく裂いて煮込んだ。


「美味い」


「味薄いけどまあまあいけるな」


 塩が限られるので、どうしても薄味になってはしまうが、意外とうまみが強くて食べられる味だった。


「塩とか胡椒とかドロップしてくれんかな」

「胡椒などという贅沢品はともかく、塩はな……」


 人間型生物は塩と水がないと生きられないからなあ。まーじで見つけたい。

 この味だとこのカマキリの肉の中にも多少のナトリウムは入ってそうだが俺達の今の運動量だと足りないだろう。


 ゲームの中とは言え、空腹だとステータス低下するんだよこのゲーム。

 空腹すぎたり栄養なさすぎると普通に死ぬかもしれん……。


 そして、このVRゲームで死んだ時どうなるかの説明がないのだ。極力死なずにクリアしたい。


「チケン、お前は平民に見えるが胡椒など食ったことがあるのか?」

「胡椒は俺の世界では子どもの小遣いでも買える値段だよ」

「なんとも凄まじい世界だな……想像がつかぬ」


 グリセルダが不思議そうな顔で俺をじっと眺めていた。


「なあ、チケン。お前はなぜここに居るのか、よければ話を聞かせてくれないか」


 グリセルダは唐突に話を切り出してきた。


「お前は何故か私のことも知っていた。私がローレンツェン王国のリーフェンシュタール公爵家の出で元軍人であることも、私が武器を持たぬ者に手を上げぬことも」

「うーん……そうだな、なんて言えば良いんだろ……」


 俺は考えた。どう説明したらこの状況を信じてもらえるのだろう。


 ここは俺はVRのダンジョンであると認識している。それなのに、グリセルダはまるで生きている人間のように受け答えをし、怒り、喋り、戦っている。

 そういう疑問を喋ってくるのもAIの作業なのか、本物の人間なのか判別がつかない。そのくらいのリアルさがある。



「……嘘みたいな話だし、信じてもらえないかもしれないけど、聞いてくれるかな」

「信じるかどうかは私が判断することだ。ただ、お前は嘘をつかぬと思う」


 たしかに、判断するのは俺じゃないな。

 グリセルダの信頼がちょっと重い。しかし、信頼には応えたい。


 俺は、治験に来ただけなのにVRダンジョンでこうやって悪役令嬢と並んで戦う羽目になっている理由を精一杯説明してみることにした。


 自分で思い返すと治験とダンジョンがそもそもメチャクチャな話だよな。自分でも他人に聞かされたら信じられないと思う。

 まず、治験のバイトに行ってVRダンジョンに入る。その言葉が繋がらないもんな。


「ええと、俺は日本という国にいて、それでその国は……」


 ここに来る前に貰った結界のチョークでモンスター避けの結界を張って、俺はグリセルダに少し長い、俺の話をすることにした。

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