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無職のおっさん、幼女にTSして悪役令嬢とダンジョン最下層を目指す  作者: 芥部


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第19話 間話1:某所某室にて



 白い無機質な部屋に、大きなテーブルとコーヒーマシンが置かれている。

 テーブルの上にはタブレット端末や何枚もの書類が散らばり、男女三人がそれを囲んで話し合いをしているようだった。


 何杯も飲んだのであろうコーヒーの紙コップが積み重なり、三人の煮詰まり具合が見えるかのようだ。


「ヨシュア、セーレ、進捗はどうですか」

「主任、順調です! しかしちょっとさっきのは強引すぎませんか」

「僕もそう思いますねえ」

「やっぱりそうよねえ、でも他に説明のしようがなくて……」


 主任と呼ばれた女はため息を付いた。


「いきなり健康で病気もしたことのない人間に、カテーテルだのの話はちょっとねえ……」

「でも実際やらないとダメじゃない……やらないと人間は死ぬし」


「そうなんですけどねぇ……やったことない人には大分恐いと思いますよ。こっちの技術でやるのは大変でなんですよね……非侵襲的治療がまだ発達してないから……」


「ううー、そんなのうまく説明できないわよ! 私、人間相手は向いてないのよ。ヨシュア、今からでも立場を代わりなさいよ!」

「無理ですよ、諦めてください」


 主任はしょんぼりとした顔でタブレットで書類をめくったり紙の書類を眺めたりして考え込んでおり、ヨシュアと呼ばれた人物はノートパソコンに向かって超高速で何かを入力している。

 セーレと呼ばれた男は、大きなタブレットに何かを書き込み続けていた。


「あ、ヨシュア。情報の漏れとかはどう?」

「はい、候補者ナンバー35ですが早速漏洩する気配がありましたのでSNSを凍結した上で記憶操作術を執行しました。匂わせ程度の投稿でしたが万が一がございますので」


「そうね、それがいいわ。もう、これ以上私達は失敗できないもの」

「そうですね……姫、ご存命であらせられるでしょうか」

「姫が死ぬわけはない、とは思うのだけれど……」


 主任と呼ばれた女も、ヨシュアもセーレも上を見上げた。無機質なLEDのシーリングライトが寒々しい色で煌々と輝いている。


「姫……」


 誰ともなく呟く。


「あのクソども、絶対ぶちのめしてやるわ」

「そうですね、主任。百倍返しくらいしてやりましょう」

「法律に則って、厳正なる罰を食らわせてやらないと」


 三人の顔が怒りに燃えている。姫と呼ばれる人物はよほどこの三人に愛されていたらしい。


「しかし、私達では姫をお救いに行けない……悔しい」

「僕達が動いたら救出に行くのバレバレですからね……」

「あの人間に頼るしかないのよね……」


 主任と呼ばれた女はまた深くため息を付く。

 自分の運命を人に委ねなくてはいけないのはいつも心苦しく、ままならない気持ちになる。ため息の一つや二つ、出ようというものだ。


「今回こそは大丈夫ですよ、主任。私、今回は手応えを感じるんですよね……あの人間、かなり適正があると見ました。あと人間的にも信用できそうです」

「根拠はあるの、ヨシュア」


 主任は胡散臭いものを見るようにヨシュアを見つめる。


「あります。環境適応が早いのと、なによりゲームが好きなのがいいですね。軽く話しましたけど、かなりこちらの知識はありそうです」


「できればテスターは女が良かったんだけど……姫に万が一のことがあっては、生きて帰ってもその後が……」


 セーレと呼ばれた男もため息を付く。


「この国の治験会社が治験なら男がいいとか言うし女にする理由もエビデンスも出せなかったし……」


「流石に極秘でやってるから女にする理由も言えないし、仕方ないわね……あの男が姫に危害を及ぼさない人物であることを祈りましょう」


 ヨシュアは主任を見据える。


「それよりも、あの人間が逃げないことを祈りましょうよ。隠しマイクから聞こえてきますよ……『うーん、ググったら静脈の点滴こえー! めっちゃ長いじゃんこんなの入るんか!? あーどうしよう、痛そう過ぎる、やっぱやめようかな……尿道の方も恐いし……』とか言ってます……これ、逃げられたら次が見つかるのいつになるかわかりませんよ」


 ヨシュアの報告にセーレと主任は困り果てた顔になった。

 しかし、誰もプライバシーを侵していることには誰も罪悪感は感じていない。


「……無痛で施術するので安心してくださいとか言って安心させましょう。恐怖の原因はだいたい痛みですから、それが無くなるとわかれば多少は安心するでしょう……」


 セーレが眉間にシワを寄せながら提案する。


「あとは、休養期間をあと一週間つけてそこにもお金を出すとか言えばやる気でないかしら?」


「ああ、いいですね。あの人お金好きみたいですし。テスト中もよく『諭吉ー!』とか『栄一!!』とか叫んでますよ」

「……はした金で姫が助かるなら、もっと詰みましょう。怪しまれない程度に」

「そうね、他に適格者がいないんですものね……」


 主任はバサリと書類の束をテーブルに放り投げる。それには大量の人名が書いてある。その中から一人だけ、ようやく選ばれたのがあの人間だった。


 三人は壁に貼ってあるポスターをちらりと眺めた。

 そのポスターにはとあるゲームのティザーアートが描かれている。

 三人は姫と呼ばれる人物の救出に、全力を尽くすことを改めて心に誓った。





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