第18話 フルダイブの夢と現実
翌朝から三日ほど、昨日のVRゲームが続いた。
翌日からは午後もプレイし、ゴブリンやコボルド、オークなどの敵を倒したり、お使いクエストで走ってレベルを上げたり。序盤の平和なRPGという感じだ。
現実に近いサイズ感なので一日に百匹オークを倒して魔石を……なんてことはとても出来なかった。
俺と同じか、それより大きく堅いオークやコボルドなんかを一時間に数匹とかを地道に狩る感じだった。
今回は検査の関係上、スキルは封印されており、地道に殴って倒すしかなかったのでなおさら効率は悪かった。
しかし、それでも慣れてくるとサクサク倒せるようになって楽しい。
俺は毎日スキルがないながらも楽しいRPGを堪能し、レベルとステを上げていった。
VR内で走ったり戦ったりすると疲れるし腹が減る。なのでもりもり食べているのだが、治験終わったら元のズボンが履けなくなってました。とかないといいんだが……。
三日後、また病院の外の体育館で体力測定が行われた。
気のせいだろうか、前回よりかなり楽だ。走るのもジャンプするのもものを殴るのも、何もかもが楽になっている。
その結果はどうやら俺の勘違いというわけでもなく、実際に測定結果は良い方に伸びているようだった。
「うーん、全体的に点数が上がってますねえ。こっそりVR外で運動とかしました?」
「するわけ無いですよ、する時間あったらゲームしてます! 看護師さんに聞いてくれてもいいですよ!」
俺は休み時間は飯食ったあとはナースステーション前の談話室を俺以外いないことをいいことに独占して我が物のように使っていた。
なぜなら俺に割り当てられた部屋ではスマホの電波が入らないようになっているからだ。
なので、看護師さんは俺の一挙一動を把握しているはずである。
「それでここまで上がりますかねぇ……」
「うーん、ちょっと僕、病院に問い合わせてみますね」
コーチ風の男性と医師は顔を見合わせて難しそうな顔をしていた。とはいえ、実際に何秒スコアが伸びたのか、などは一切知らされていない。
幅跳びなんかは多少伸びたな、というのは分かるんだが。
本当に医師は看護師さんに問い合わせをしたらしいが、俺の話は事実でありすぐ疑いは晴れた。
危ねえ、これでもし疑いが解けなければバイト代が出るかも危ういところだった。
病院に戻ると四方さんが待っていた。やや緊張した顔でこちらに一礼したので俺も一礼した。
「本日も体力測定お疲れ様です。明日からのスケジュールについて相談したいのですが、お時間大丈夫ですか?」
「大丈夫です。なにか違う検査をするんですか?」
「そうなんです。明後日の日曜から大規模実証の第一回を行う予定です」
四方さんが言うことには、実際に一週間弱VRの中で過ごすテストらしい。スケジュールを書いた紙を見せてもらう。
あれ? 休憩時間がない。
つまり、7日間24時間VR接続か。フルダイブVRとかよく創作物で見る気けど、そうか、ああいうのもこういう地道な進歩を経て実現しているのか……。
よくあるよな。VRMMOから出られなくなっちゃった! ってやつ。あんまちゃんと見たことないけど、あれってトイレとか風呂どうしてんの?
あれ? 俺もトイレとかどうするの?
「えっ、待ってください。トイレや食事は!?」
「トイレにつきましてはカテーテルなどを設置し、食事や水分に関しても鎖骨や太ももなど太い静脈に管を挿しまして、点滴で補給する予定です」
「マジの入院手術みたいな感じじゃないですか」
「はい、そうなります」
四方さんは当たり前のように言うが、俺は健康で今まで入院も手術もしたことがない。流石にちょっと怯んでしまい、言葉を失ってしまった。
どうしよう、金は欲しいが本格的な医療処置は怖い。
「かなり高度な検査となりますため、追加の負担軽減費もございます」
「……」
それでもちょっと悩む。太い静脈に管ってなんか恐いなあ。
「一日に付き2万円の追加。さらに一週間分完遂できた際には10万円を追加でお支払いします」
「……うーん」
でもなー、なんかあってゲームできなくなるの嫌だしなー……。
それでも悩む俺に四方さんは静かに合計金額を教えてくれた。
「あと一週間の治験をしていただけた場合の合計金額は81万4800円となります。もちろん、体調不良が起きたり不慮の事故で続けられなくなった場合も満額お支払いしますし、万が一の場合の保証についてもこの様になっております」
四方さんはわかりやすいカラーのパンフレットを渡してくれた。カラーコピーとかじゃなくてちゃんと印刷されてるお金のかかってるやつだ。
医療事故が起きた場合は治るまで医療機器の会社の責任で治療費生活費を全額負担してくれること、障害が残った場合の慰謝料もかなり大きい額が用意されていると言う。
「……やります」
悩んだ末に結論を出した。俺は渋沢さんには勝てなかったよ。
税金を払ったとしても三週間の稼ぎとしては十分な金額だ。
多分。実際、その81万の他に食費、最初の検査の負担軽減費なども考えると十分なプラスであると思う。それに、VRゲームは結構面白かった。できれば普通に遊びたい。
未知への恐怖VSわくわくと渋沢の連合軍の戦いは、後者の勝利に終わった。最後に物を言うのは実弾なんだよな。
「それではこちらの書類に署名を……」
四方さんは心からホッとした顔で俺にタブレット端末を差し出した。
俺は差し出された端末でさらっと規約などをチェックするが、正直小さい文字で細かい専門用語が羅列している読ませる気のない文章だ。
俺は完読を諦めて指定の場所に署名した。
「ありがとうございます。明日一日お休みですので、病院の中限定になりますがゆっくりお休みください」
そう言って四方さんは丁寧に頭を下げて出ていった。
しかし、俺でいいんだろうかと少し疑問に思う。
あの学生の兄ちゃんやおっさんは駄目だったんだろうか。そして俺の前の治験テスターもいるはずだが、それは失敗したらしい。
あれ? つまり俺がファーストペンギンということか。
……俺の選択、間違ってたのかも知れねえな……。どうしよう、今からでも中止のお願いをしたほうがいいのか。だって第一号って怖いじゃん。
こわごわ検索すると、『尿道カテーテル 痛い』とかサジェスト出てくる。
こ、こえーーーーーーーーーー!
だって普通そんなところに物入れないもんな……。いや、そういう癖があるのは知っているが俺はそうじゃない。俺はそう言う深みにははまりたくないんだ!
更にこわごわ中心静脈栄養法で画像検索する。
あああああああ、痛そう……無理……。
実際にはそんなに痛くないのかも知れないけどもう見た目で怖い。俺注射されるのは平気だけど、針が刺さってるところは見られないタイプなんだよね……。
やべえ、俺軽率にOK出しちゃったかもしれん……。
俺は病室のベッドの上に戻り、これからどうするべきか暫く考え込んでいた。




