第171話 二人のサラと風評被害
侵入者を排除しろ、というアナウンスと共に現れたのは、なんとも無機質な白い箱が四つ。
動力不明で動くそれは、俺達から一定距離を置いて止まると、蓋がぱかっと開く。
箱の中からはシュバッといい音を立ててミサイルが飛び出してくる。そんなんありかよ!
「三人とも、あれ斬って! 中心!」
「【シャープニング】!」
エト姫の言葉に、清野さんが俺達に聞いたことのないスキルをかける。
俺と牛頭くん、グリセルダが飛び出して、四つの箱から六つずつ、合計二十四個発射されたミサイルを丁寧に一つずつ両断していくことにする。
しかし、このナイフで斬れるか? と思ったものの、ナイフはスパッと中心を豆腐のように切り裂いた。
なるほど、さっきのはナイフの切れ味を増すためのスキルか。色々あるんだなあ、スキル……。ミサイル、明らかに金属製なのにスパスパ斬れて面白い。
新生牛頭くんが「にょわ!」と叫びつつも自分に引き付けて二刀流で一気に四つ切り落としたのには吉田さんもカハールカさんも拍手喝采だった。
羨ましいが俺とグリセルダは一刀流だ。普通に地道に一個ずつ切り落としていくしかない。
本当ならもうとっくに着弾して爆発しているはずなのだが、おっさんがかけてくれたスキル【軽減障壁】とミサイルがホーミングミサイルだったおかげでなんとかなった。逃げまくることで時間が稼げるのだ。
おっさん、虫好きでさえなければ死ななかった可能性あるのかな……。趣味は時に身を滅ぼすのだ。
しんみりしてる間に、無事ミサイルの処理は終わった。地面に転がるミサイルの残骸。
「チケン様、これ回収して起きますね。なにかいいものを作っておきます!」
「さすがインテ! 俺の超有能カバンだな、助かる!」
「えへへ、ありがとうございます~!」
しかし、ミサイルを斬っただけでは終わらなかった。
背後から聞き慣れない音がして、俺の後ろに背負ったインテが一瞬で防御障壁を広げた。何も感じなかったが何だ?
振り返るとすぐ横にジュッという音を立てて赤い光が着弾していた。セラミックっぽい表面の壁が溶けている。今度はレーザーかよ! それだけではない、何か走ってくる二足歩行の物体と空中に浮かぶ球体。
「姫、ドローンからのレーザー攻撃と攻撃用ロボットです!」
「おタヒ姫、さっきの吹雪を頼む!」
エト姫の言葉に、わからないながらもおタヒは符を投げた。符が投げられると密度の高い、ホワイトアウトしたかのような吹雪が起きる。当然レーザーは雪を溶かして水蒸気を発生させる。するとレーザーはあっという間に減衰し、用をなさなくなる。
俺と吉田さんが、ドローンを潰す。俺はナイフを投げクリティカルでそれを破壊し、吉田さんはバールのようなものを槍のように使いドローンを切り裂いていた。あまりにダイナミックだ。
ちなみに、それなのに優しい声で「えい! それー!」とか、歌のお姉さんのような優しい掛け声なのが一周回って怖い。
おタヒは吹雪のコントロールをし、牛頭くんとグリセルダは寄ってきた攻撃用ロボットを倒すのに専念してくれている。
その間カハールカさんは怯えながらグリセルダの後ろで涙目になっていた。
良く考えれば俺もどっちかというと、武器や戦いと縁のない男のはずで、俺もあっちに行っても許されるのではないだろうか。
「グリセルダ、俺がやだーロボットこわーい、助けてー! ……って言ったらどうする?」
「フッ、こんな時に笑わせるな、チケン」
そう言いながらグリセルダはロボットをスパスパ切り刻んでいく。笑顔で。
「アハハハハハ! チケン面白いことを言うわね!」
グリセルダとおタヒに鼻で笑われてしまった……ご褒美だ。
いや、ご褒美じゃないか……。俺もこっちの、暴の側の人間であると認識されているのだ。甚だ遺憾である。
「茅原氏、冗談はそこまでにして真面目にやってくれたまえ」
エト姫にまで言われている。俺は、平和を愛する一般市民なんだけどなぁ……。
俺は内心でぼやきつつも戦いながら進み、ようやく第一目的地である『従業員休憩室』に到着した。
久々に俺とグリセルダのレベルが上がったが、ステータスを振るのは後回しだ。
鍵はかかっていたものの、無事清野さんが解錠してくれた。
解錠スキルではなく、本当に手作業で開けているらしい。すげーな……。
「スキルを使うと痕跡が残りますからね。手作業が確実ですよ。最近は手作業での解錠なんて誰もやりませんから、逆にこっちのが簡単に開いて便利まであります」
そういいつつ、扉を開いてくれた。中には誰も居らず、いくつかの質素な二段ベッドとテーブル、水道、シャワーブース、何かの端末が複数置かれていた。エト姫に頼まれ、俺は結界チョークで室内を丁寧に囲む。これでいっときの休憩時間は確保できただろう。
戦いが続いていたのでちょっと疲れていた。休めるのは嬉しい。
「あー、随分旧式の端末っすねえ」
「何ですか、それ」
テーブルの上にコンソールっぽい何かがあるが、俺には全く判断がつかない。
「地球でいう所のテレビとかパソコンっぽいやつッスね。映像を見たり、情報調べたりするやつっす。三百年くらい前の私が生まれる前の奴だけど、操作方法は変わってないっぽいっすねえ。姫、つけてみていいっすか?」
「いいんじゃないか?」
「その前に茅原さん、鑑定お願いしていいですか? 万が一トラップがあってはいけないので……」
清野さんに言われて気がついた。確かにそうだな。俺は素直にエリア鑑定を発動する。
『汎用情報端末/ 長年使われておらず、対応するチャンネルが限られている』
『ベッド/ 長年使われないせいでホコリが溜まっている。清掃後の使用を推奨』
『簡易キッチン/ 浄水装置付属』
『人体洗浄装置/ 排水口にトラブルあり注意』
『緊急呼出装置/ 中央制御室への直通ボタン。緊急時に連絡が取れる』
『ノート/ 忘れ物。元懲役囚の手記』
『清掃用具/ 施設は清潔に保ちましょう』
出てきたものはインテ経由で全員に共有した。
「トラップはないみたいですねえ、それにしても隠密行動もエリア鑑定も、本当に便利ですねえ……僕も欲しいなあ」
清野さんが珍しく気持ちを込めた喋りをしている。
理由が気になったがまず場を整えるのが先だ。ひとまず俺と吉田さんでベッドの掃除をし、清野さんが洗浄装置のトラブルを解決した。少し排水口が詰まっていただけらしい。
もちろん、緊急呼び出し装置は絶対に触らないように注意する。せっかく休める場所に来たんだもんな……。
ノートはとりあえずエト姫が中身をチェックするらしい。ヴィルステッド村のエミーリアさんの手記みたいな内容じゃないことを祈りたいが。
トラップも確認されなかったので、カハールカさんがコンソールの電源をオンにすると、机の上いっぱいに3D映像が広がった。
聞き慣れないがテンポの良い音楽とともに、二人の女の子が学校でキャッキャウフフしているシーンが映し出されている。……何処かで、見覚えがある二人だ。
『二人のサラ 第245話』
……子供向け番組にありそうな、道徳的要素の入ったジュブナイル的な動画だった。話はよくできているし、映像も良い。でも、ものすごく見た目も名前も見覚えがある。
見覚えがありすぎて嫌になったので、途中で消してもらった。
「なあ、これ、まさかあの二人が自分で作った映画とか言わねえよな?」
「あの神子そのものじゃない、服は違うけど……」
「嫌なものを見たな……」
俺達の評を聞いて、カハールカさんは苦笑いした。
「違うんすよ、これ、こっちが先らしいんすよ。この二人のサラは現実に存在した役者さんで、ヴェレル社長より年上らしいんすよね。存在したらもう長官より数十歳上くらいの年齢のハズっす」
「えっ?!」
「どういうこと?!」
「詳しく説明しろ、カハールカとやら」
カハールカさんが言うには、ヴェレルは何らかの理由でこの『二人のサラ』というコンテンツに思い入れがある。それであの二人の体を模して副運用体として作り、同時に動かしているらしい。理由は不明だが……。
つまり、ヴェレルは何らかの理由でこの二人のサラになりきっているということだ。
宇宙一邪悪なTSコスプレイヤーってことか……。
あまりの意味のわからなさに俺は思わずグリセルダとおタヒを見つめる。二人も、全く理解できない顔をしていた。
宇宙猫顔の二人、レアだなあ。
でも俺も今はきっと、宇宙猫の顔をしている……。
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