第166話 間話16:百年ROMれ
チケンたちが会議室から出ると、入れ違いにカハールカが戻ってきた。
「長官、まずいっす。思った以上に地球人の魂、柔らかいっす。あんなの赤ちゃんくらいでしか見ない柔らかさですよ……あの八尺様とかターボ婆ちゃんも着てたんで調べてみたんですが同様でした」
「……つまり、地球はヴェレルにとってはいい餌場ということだな、言葉は悪いが……」
スフォーは深刻そうな顔になる。
「あれだと、多分ろくな技術や設備がなくても、簡単に魂を改造したり、記憶を改ざんしたり、その……材料にしたり、やり放題だと、思います……」
カハールカの口が淀むのを、スフォーは咎めなかった。
「……だろうね。それが今80億くらい人口いるらしいよ」
「今止めないとまずそうっすね……地球、いいとこなんすよ。ゲームもエンタメも美味しいものもいっぱいあって、テオネリアとは違った面白さが有るんです。できたら、護りたいっす」
魂の内部と外部は切り離せない。外部が強いほど個体としては強いが、転生しにくく、精神魔法にかかりにくく、死後中々消滅せず亡霊になりやすい。
逆に外殻が柔らかな魂には柔軟性があり、死んでも転生しやすく亡霊になることもほとんど無い。
どちらがいいとか悪いということもなく、魂の外殻が硬いからと言って有能だったり魔法が得意だったりメンタルが強かったりすることはない。柔らかいからと言って魔法が不得手でメンタルが弱いというわけでもない。
ただの体質なのだ。
地球で生きるために特化した地球人の魂は、ヴェレルにとって商品価値の有るものに見えるだろう。外殻が弱いということは魂をすりつぶして一つにする手間を大きく省いてくれる。彼には自分のための素材への躊躇がない。
おそらく、良心を何処かに置き忘れてきているのだろう。
「カハールカくん、チケンくんに何かいい装備を見繕ってくれ。予算は気にしないでくれ。材料も何でも使っていい、私のカバンを持っていきなさい。色々入ってるだろうから。ジェーンになければインテにリストを見せれば有るものは出してくれる。あと手が足りなければ……手技が得意なのはセーレかな、彼を頼りなさい」
「了解したっす!」
カハールカはカバンに一礼し「よろしくお願いします!」と叫んでジェーンと一緒に会議室の外に作られた簡易ラボに走っていった。
「うーん、あの子を見つけてきたジュスティーヌやヨシュアは有能だねえ。多少のやらかしは帳消しにしてあげようかな。ね、殿下?」
「あはは、バレてた」
会議後姿を消していたはずの王太子がそこにいた。
「私の結界の中ですからねえ」
「話、聞いてよかったろ?」
「はい、大変に。今後ともディートリヒ殿下にはご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます」
「ふふ、考えておくよ」
王太子はあまり詳しいことは教えてくれないが、知らないと詰むようなことは教えてくれる。
レアスキル、特に生まれながらのユニークスキルには制限が多い。その中でできる範囲で教えてくれているのだろうから無理強いもできないし、無理強いなどしたらふんわりと消えてしまう予感がある。
スフォーは考える。なぜ、ヴェレルがグリセルダとおタヒを何度も殺したのか。おそらく、ヴェレルは二人の魂が欲しかった。しかし、外殻が固くてどうしても加工できなかったのだろう。
だから迷宮に捨て、命尽きるのを待っていたところをチケンに救われたというところだろうか。硬軟併せ持つ三人は、そういう意味でもおそらくベストな組み合わせだ。
運命の偶然に、スフォーは感謝することにした。
――――その頃の九層、貴賓室。
「早く出ていってくれない?」
黒いモヤが立ち、抗議をしていた。
シンプルではあるが、上質な内装の部屋で、二人の少女がソファーにもたれてスマホをいじっている。もちろん、地球産のスマートフォンだ。つまらなさそうな顔でスマホをいじる二人の少女。
「誰が金を出していると思っているの? 頭を垂れなさい」
「こんな施設私が金を出さなければとっくに廃墟よ」
二人の少女……自称サラであり、ヴェレルの二人が不機嫌そうに返した。
「廃墟でいいよ、出ていって。それに、自分がお金を出したって言うけど、税金でしょ、知ってるわよ!」
「私が許可を出さなければ税金は払われなかったわ」
「整備するように命令したのも私よ」
黒いモヤに目をくれることもなく、二人はスマホから目を離さない。
「私のスキルを使っているくせに偉そうに私のお陰でその玩具が使えるのよ、使用料をもらうのは私の方!」
「残念だけどもう一般スキルになってるの、死後の保護期間も解析も終わってるわ」
「特許料はあなたの遺族に払われてるわよ」
「その特許料を全部遺族に借金を作らせて回収してるくせに!」
黒いモヤは抗議をするが、二人はやはり気にしなかった。死者が何を言っても自分たちには傷一つつけられない。
負け犬の遠吠えは、自分を賛美する声であり、心地よいBGMにすら感じる。
二人は思うがままにスマホをタップし、何かを書き込んでいる。
黒いモヤは苛立しつつも姿を消し、空気を漂うデータを読んだ。
(えーと、どれどれ……あんまり見たことない言葉だけど)
【サラカス出禁】ローレンツェン女子について雑談するスレ125【関係者禁止】
51:名無しのプリンセス
ここからローレンツェンの推しを語るスレになります。
俺は剣術部の女子マネージャーのサーシャたん!
おっぱい!
52:名無しのプリンセス
俺は何気にグリセルダの侍女のハイデマリーたんがエロいと思う
そばかすメガネっていいよな
53:名無しのプリンセス
ミヒャエルたんいれていい? 男の娘が許される乙女ゲー最高だよな
54:名無しのプリンセス
>>53
いいよ!
俺は王道だけどグリセルダ
55:名無しのプリンセス
グリセルダとかマジないわw あんなデカ女好きなの趣味悪すぎw
性格も悪くてがさつなクソ女w
主人公のサラこそ至高wwwwww
56:名無しのプリンセス
>>55
わかる。サラちゃん可愛い。マジ天使……あんな天使を選ばない人の気がしれん。
知能足りないんだと思う。幼卒かな?
57:名無しのプリンセス
おっ、シナリオライターさんちーっす
二十四時間スレの監視お疲れ様でーす
58:名無しのプリンセス
だからサラカスさんは出禁なんだって
スレタイ読んで百年ROMれ
59:名無しのプリンセス
サラカスさんいい加減コテハンつけなよ
流れていたのは、そういう文字列だった。どこかの星のテキストの塊。意味はわかるが意図がわからない。読んでいると頭がおかしくなりそうだった。
「もう! なんで一回書き込んだだけで即バレするのよ!」
「でも何度だって書き込んでやるわ、あのゲームは私達のために有るのよ!」
「そうよ! あんな惑星の人間なんて、私を称える以外の存在価値なんて無いのに!」
実は二人で同じタイミングで書き込むため、サラageグリセルダsageのアンチは必ず二レスセットで来る、と本人たち以外のスレ住民は知っているのである。単発レスの場合ただのアンチである。
騒ぐ二人に黒いモヤは、うんざりした顔で思った。
(こんなくだらん言葉、部屋に漂わせんな、早く帰れ……)
ヒートアップした二人は飽くことのない情熱でスレを荒らし続け、久々にスレは半日で三スレを消費する祭りになった。
匿名掲示板の荒らしのせいで、地球でのサラの評判が日々だだ下がっていることは二人は知らない事実である。




